とりあえず依頼受注します。
回復薬(聖)を納めた翌日、私たちは朝食を済ませた後すぐにギルドへ向かった。
朝早いせいか、冬の冷え込みが強く感じられる。
「今日は一段と冷えるわね。」
「うむ。」
毛皮のポンチョを手繰り寄せて首回りに空気が触れないようにキュッとしめる。
ギルドまでは歩いて十五分ほど。
前はこんなに歩いたことなかったけど、今では普通の距離になってきている。
慣れってすごいなあ。
この世界は基本歩きである。
よほど遠いところでなければ馬車なんて使わないし、自転車のようなものもない。
だからこそ、同じエルドラドでも似たお店の集合体があちこちにできている。
正門周辺やギルド周辺、お城へ上がる手前辺りが賑やかである。
なかでもギルド周辺は、冒険者が多く集まるので一番活気があってモチベーションも上がりやすい。
宿泊施設と飲食店、冒険者が利用する物が中心になっているから、依頼受注して旅立つ時などには、ギルド周辺で必要なものを揃える人が多い。
今日もたくさんの人がギルドへの道のりを行き交っていた。
前方にギルドが見えてくる。
今日はマルさんに会わなかったな。
マルさんは正門の受付を担当していて、朝ギルドへ向かう頃にはよく会う。
少し私たちの方が早かったかな?
ギルドに入ると、掲示板の前に依頼を受注するための人だかりができていた。
「私たちもチェックしようか?」
「うむ。私は討伐系を受けるつもりだ。」
「そうなの?」
「少し体を動かしたくてな。」
「わかったわ。じゃあ掲示板をチェックしてみよう。」
Fランクの掲示板の前で目ぼしい依頼がないかチェック。
うーん。
最近回復薬ばかり作っているから、違うことやってみたいな。
新しいことやるのは少し勇気がいるけど、頑張って受けてみたい。
でも調合の依頼はFランクだと回復薬しかないのよね。
だから調合はお休みして、うーん。
やっぱり採取依頼と魔物の間引きを目的とした討伐依頼が多いね。
調合用に自分の分も採取できるから、そっちにしようかな。
『雪わた』の採取。幾つでも。
場所・エルドの森またはエルデ平原で雪の降る時。
期限・初冬のうちに。
報酬・雪わた一つごとに銀貨三枚。
依頼主・ギルド
納品、詳細についてはギルドまで。
うーん。これ気になるけど雪が降る時みたいだから、保留。
あ、これ。
いつも調合屋で買っているから、ちょっと自分でも採取してみよう。
『ヒール草』の採取。(十枚で一束にしたものを十束。)
場所・エルドの森。
期限・早めで。
報酬・銀貨三枚。
依頼主・調合屋ケミア
納品報告はギルドまで。
うん。これにしよう。
デスに報告すると、デスはエルデ平原のウルフ討伐依頼を選んだ。
エルデ平原は、ミントの木がある草原がそうである。
『ウルフ』の討伐。
場所・エルデ平原。迷いの森から多く出没するようになったと見られる。
期限・設けないが、エルデ平原に出てくるウルフの数が落ち着くまで調整中。
報酬・ウルフ一体につき銀貨一枚。(牙を採取すること。)
討伐報告はギルドまで。
別行動になるけどエルドの森には魔物はいないから大丈夫。
私たちは依頼書を掲示板から剥がして、受付前の列に並んだ。
「デス、討伐の依頼私も一緒に行く?」
「いや、一人で行く。このくらいの依頼ならこの方が効率いいからな。」
「そっか。気をつけてね。じゃあ終わったら家で落ち合いましょう。」
「うむ。まなも気をつけるんだ。」
「うん。トタさんのところだし大丈夫。」
「ん。」
列が進んで私たちの前が空いたので、前に進み出る。
受付カウンターにやっぱりカルダさんはいなかった。
「おはようございます。受付のランジュです。どのようなご用件ですか?」
「おはようございます。依頼受注をお願いします。」
「かしこまりました。」
依頼書とギルドカードを出してしばらく待つ間に、辺りを見回してみる。
いつもの顔ぶれが多いけど、よく知らない顔の人もいる。
カルダさんはいないのかな。
……いないみたい。
回復薬もう使ったのかな?
まあ、考えてもしょうがないんだけど、リアさんの仲間は大丈夫だったかな。
「はい、受注完了しました。ギルドカードはお返ししますね。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
デスとここで別れて、私はエルドの森へ向かった。
向かいながら自然と手が、腕にはめてある『盗賊の腕輪』を撫でたり、ポンチョの下に装備してある『ヒーラーの杖』を確認する。
うん。大丈夫。
頂上へ向かう、通り慣れた坂道を登っていく。
両脇に立ち並ぶ住宅を眺めながらどんどん登っていくと、小さな広場に出た。
ここまで来ればあと半分。
広場には誰もいなかったけど、ベンチにちょっと座って空を仰いだ。
何となくだけど、ここで生活している人の空間にちょっと浸ってみたかっただけ。
再び坂道を登り始めると、エルドの森が見えてきた。
そういえば水もちょっと減ってきたし、帰りに汲んで帰ろう。
あ。
トタさんが外に出ているのが見える。
「トタさん、おはようございます!」
「ああ、まなさん。おはようございます。」
気づいて手を振ってくれたトタさんのところに駆け寄って近くと、目の前にもふもふが。
「えい。」
「!!」
なんと、なんと!
トタさんが耳をぺしっと腕に当ててきた。
うわあ!
ふわっふわ!
「ぶっ……くくく。」
「あ。」
「まなさんって変な人。」
トタさんが声を殺しながら腹を抱えて笑い転げる。
「す、すみません。」
「会うたびに僕の耳気になるみたいだから。はー笑った。」
「……。」
失礼なことしちゃったかな。
「まあ、僕も変人って言われるから、変な人も好きだよー。」
「も?」
「一番好きなのは一生懸命な人。応援したくなっちゃうねえ。」
「そうなんですね。」
「ぶっ。」
またくくくと笑い殺している。
「ちょっと、野菜収穫してから、入るから、ちょっと待ってて、くれる?」
「なんかすみません。あ、手伝います。」
「ありがとう。じゃあその辺の採ってくれる?」
「はい。」
小屋の裏側にミニガーデンが柵に囲われていた。
指定された場所の草を引っ張るとにんじんが出てくる。他には瓜みたいな作物も実っている。
魔法がかかっているようで、柵の中は少し寒さが和らいでいる。
「トタさんってここに住んでいらっしゃるんですか?」
「いやいや。そうではないけど、ここにいることが多いからね。ついでに育てているの。」
「へえ、いいですね。」
「でしょ。ところで、今日はデスさんは一緒じゃないの?」
「はい。デスは討伐依頼を受けて、今頃外に出てると思います。」
「へえ、そうなんだ。あのデスさんがね。」
「ん?」
「すごい心配してる、まなさんのこと。保護者みたい。」
そう言ってニコニコした。
「ああ、はい。いつも心配してくれています。」
「そうだよね。あ、それくらいでもういいよ。」
野菜収穫の手をとめて手を払う。
「はい。トタさんから見ても分かるんですか?」
「前回も今も、うん。見ててすぐ分かるよ。」
トタさん、何か言いかけた気がするけど、デスってそんなに分かりやすかったかな。
「エルドの森ならトタさんがいるし魔物も出ないから大丈夫だと思って。」
収穫した野菜カゴを持って、小屋の中に運び入れながら話す。
「じゃあまなさんは、こっちに仕事?」
「はい。『ヒール草』採取です。」
「ああ、受けてくれたんだね。ありがとう。採取の仕事はあまり丁寧に採取してくれる人がいないんだよ。特に荒い気性の奴は。だからまなさん達が受けてくれてありがたい。」
はあっと盛大なため息をつくトタさん。
色々大変そうです。
小屋の受付カウンターで、ギルドカードを受理してもらった。
「はい。お願いします。この森の日当たりの良い場所が狙い目だよ。」
「分かりました。今日はよろしくお願いします。」
「うん。僕は外で仕事しているから。」
さ。ヒール草を採取しますよ。
ヒール草は、低木になる葉の部分に当たる。
葉の大きさは人差し指ほど。
本当は迷いの森の方が、入り口付近に多く繁っているらしいけど、そっちはランクDじゃないと受注できないらしい。
迷いの森には魔物が多く生息しているから、冒険者のランクも高くなっているみたい。
「日当たりの良い場所……。あ、これかな?」
爪でひねって切るところに、魔力を込めながら丁寧に取っていく。
調合全集で読んだんだけど、植物を千切る、傷つける時は魔力を込めながらカットするといいんだって。
そうすると木の傷が浅く、傷みにくいみたい。
ちなみに根元から全部採取する時は土魔法が有効らしい。どういうふうに土魔法を使うのかさっぱりだけど、あるんだろうな、方法が。こういう知識とやり方は師について習うらしくて、ここまで詳しくは書かれていなかった。
うーん、知りたい!
あと、同じ木から採りすぎないこと。
五枚くらい採ったら、他の低木を探す。
これを繰り返して採取する。
最初はもっと簡単だと思っていたけど、先のことを考えて採取する必要があると知ってよかった。
近いうちに、デスに倣って本を一冊買おうと計画している。
本は高額だけど、昨日金貨百枚もらったから知識を増やすことに自己投資よ。
依頼の数に達したのでそれぞれ束ねてまとめた。
自分の分も少しだけ採取してバッグに入れて、トタさんのところへ報告に向かう。
今日もいい仕事ができたかも。
個人用にきのこの採取も許可を取ったので、少し採取した。
デスが喜ぶといいな。
読んでくださってありがとうございます。




