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ボッシュさんの裏技。

「ほほう。なかなかの逸品だのう。」

 ボッシュさんは、回復薬(聖)の瓶をじっくり鑑定しながら一つ一つ見ていく。


「お前さんはあまり物の価値を知らぬのかのう。」

「それはどういう?」

「この無造作な詰め方。この分ならまだあるんじゃろう?」

「えっ」

 デスがため息をついて失笑している。


「この瓶一つで金貨百枚じゃ。なおかつ、この瓶一本で大体十人分じゃの。」

 えっ、そうなの?

 驚く私の顔を見てニヤニヤしながら、

「普通の回復薬と同じ量の瓶に入れているあたりよく分かっておらぬ証拠じゃ。」

 と楽しそうに笑った。


「それはよい。わしらギルドにとっては手に入ることが第一じゃ。二本買わせてくれぬかの。今回聖堂が融通を利かせてくれたとしても、在庫にあるとないとでは違うからのう。」

 瓶を光に透かして眺める。

「して、まなさんが提供者と気づかれないようにするための対策じゃが、鑑定結果を書き換えさせてもらうでの、よろしいかな?」

「……鑑定結果を書き換えるんですか?そんなことができるのですか?」

「単純なやり方じゃ。鑑定スキルはもっておるかな?」

「あっ、はい。」

 バッグから『鑑定眼鏡』を取り出して装着した。


 じっと眼鏡を観察するようにボッシュさんが微笑む。

「あ、これ魔道具なんです。鑑定するための。」

「ほっほ。了解じゃ。では、この回復薬を鑑定する。」


 鑑定してみると、以前と同じ情報が見える。

『回復薬(聖) ヨモ草、きれいな水、長命草のエキス、魔力まな、製作者まな』

 うん。

「鑑定結果、出ました。」

「うむ。これをこうする。」

 ボッシュさんが小ぶりな瓶が数本入った木箱を、何もない空間から取り出した。

「わっ!」

「……!」

 私もデスものけぞって驚く。

 空中から急に物が出てきた。

「収納スキルじゃ。」

 ほっほと楽しそうにボッシュさんが笑う。


「では、今から調合を始めるぞ。」

 えっ?

 このタイミングで?


「木箱の中の小瓶を並べて蓋を開ける。そしてこの回復薬(聖)を分けて入れるのじゃ。」

 頷いて返事を返す。

「わしの魔力をサービスします。」

「サービス?」

「少ーしの魔力を込めるんですよ。その回復薬に。」

 トタさんがトレイのお茶を配りながらウィンクした。

 ボッシュさんが、それぞれの小瓶に魔力を込めながら回復薬を注いでいく。

 そして、

「蓋をしておしまいじゃ。」

 とにっこり笑った。

「鑑定オッケーじゃ。」

 ええ?

 もう一度『鑑定眼鏡』に魔力を流して視てみた。

 あ!

「情報が変わってる。」

『回復薬(聖) 回復薬(聖)、魔力ヴォール・シュヴァイル、製作者ヴォール・シュヴァイル』

「驚いたかの。見ての通り、上書きされるんじゃ。まなさんの名前は消えたから、バレないぞ。」

 ハートマークをつけんばかりのノリでニッコニコしているボッシュさん。

 すごいです。

 裏技だよこれ。


「その回復薬(聖)をどこで手に入れたと言われないのか。」

 デスが疑問を口にした。

「大丈夫じゃ。どこで入手したのか忘れてしもうたからのう。ホッホッホ。」

 あー。

 はい。シラを切るのですね。


 金貨百枚ずつ入った皮袋を二つもらった。

 わー。

 お試しで作っただけの回復薬だったのに、こんなにお金もらっちゃった。

 いいのかな。

 デスと半分こで持ってもらうことにして、一袋は自分の鞄に収納した。


「して、まなさん。」

「はい。」

「そなたは今冒険者としてギルドに登録されておるが、何かを目指したりしておられるのかのう?」

「目指す物……は特にないです。デスとのんびりやろうと思っていて。」

 デスと視線を交わして頷き合う。

「ほほう。のんびりとな。それも良いのう。」

 うんうんとボッシュさんが肯く。そして優しい目をさらに細めて、

「わしらは、まなさんとデスさんがこの街に来てくれて感謝しておる。どうかこれからもゆるりと過ごしてくだされ。」

 と頭を下げた。

「は、はい。ありがとうございます。」

 慌てて私も頭を下げて返す。

 胸がどっどっと高鳴る。

 なんだろうこの感覚。

 デスを見ると、ボッシュさんに目礼して頷いている。


 このあとボッシュさんはトタさんが淹れたお茶を飲んでからまたのと言い残して小屋を出ていった。


 トタさんが、ボッシュさんの使ったカップを片付けて、空いた椅子にかける。


 ボッシュさんがギルド長だと言うことは公にはしていないようで、内緒にするように頼まれた。

 理由を聞いたら、ギルド長だと知れ渡ると好きなことができないからなんだって。


 うん。なんかお茶目な人だったね。


 トタさんとしばらくお茶と会話を楽しんでから私たちはカルダさんの指示通り、ギルドには寄らないで真っ直ぐスモールハウスに戻った。


 今日は濃い半日になったね。

 だんだん知り合いが増えてきている。


 ボッシュさんは、お茶目で少年のような人だったな。

 デスは食えない一面も見えるなって言ってたけど、まあ、ギルド長をやるくらいだし。

 色々苦労もあるだろうね。

 そしてトタさんは、とても博識な人で、好き嫌いがハッキリしている人だったな。

 どんなお店で商品を見ると、調合のヒントを得やすいかを教えてもらったのが一番面白かった。

 調合全集だけでは分からないことが、ちゃんとした正規品を売っているお店を基準にして、いろんなお店を見ていくのも面白いそうだ。

 こういう勉強の仕方もあったのね。


 鑑定スキルがあるなら尚更利用するべきだって。

 今度やってみよう。


 気づけばもう、お昼も過ぎていたのですごくお腹が空いた。

 デスと相談して、スープだけを作ることにした。

 リベルさんにもらったフルーツカブがたっぷりあるから。

 夜の分もまとめて作って、あとでアレンジしやすいようにシンプルな味付けに。

 あとはパンを添えてお昼は簡単にしましょう。


 そうそう。

 乾燥したプルーンを水で戻しながら煮つめると、トロトロになって美味しいの。

 ジャムがわりにもなって、パンにつけて食べるとこれも美味しいのよ。

読んでくださってありがとうございます。

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