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初めまして、異世界

 ガラガラガラと音を立てながら、整備されたグレーの石畳の上を馬車がゆっくり通り抜けていく。

 石畳でできた広い道の両脇には、厚いガラスの窓が付いた石造りのショップらしきものが建ち並んでいる。

 中には木造の建物も混じっているが、石造りの建物が多い。やや近代的だけど日本とはやはり雰囲気の違う街並みだった。

 道の両脇は少し段になっていて、大勢の歩行者が行き交っている。


 都会だ。ものすごい人、人、人。いきなり都会にいるって。

 バッグを肩にかけ、左腕の中には人形のデス。

 この人形、さっきから何も言わないけど、人目があるからかな。ちょっと頰をつついてみるがなにも言わない。

 当惑しながらもとりあえず、壁際に寄って辺りをじっくり観察。

 神様のところで見た本に載っていたような服を着た人たちが忙しげに歩いている。ロングワンピース、マント、あと男の人は帽子をかぶっている人が多いなあ。鎧を着込んでいる集団も通った。兵士さんとかかな?

 腰に剣を下げている人達を見たときは少し身がすくむような気持ちがした。


 私はいつのまにか、注文した女性服セットの服や靴を身につけているから、その場に何とか馴染んでいた。訝しげな視線を向けられることもなくて良かった。


 神様は転生しよっかと言っていたけど、身体は元のままな感じがする。顔はまだみてないけど、髪は黒いし、全然変わっていないような。転生と言ったら、身も心も生まれ変わるって意味かと思っていたけどそうでも無いのかな。


 空を見上げると、意外と澄み渡った青空。近くに山や海でもありそうな抜け感。

 雰囲気的に今は朝なのかな? 日が暮れるまでに……どうしようかな。


 どうすればいいんだろう。


 今まで部屋にこもっていて、たまにコンビニ行くくらいしか動かなかったからちょっと疲れた。

 どこかで休みたいな。こんなところで家も出せないし、とりあえず家を置けそうなところでも探す?

 勝手に建ててもいいのかな?この世界のこともよくわからないや。


 とりあえず、かなり心細いけど移動してみる。

 人の流れに合わせて歩き出すと、前方を歩いているカップルらしき二人連れの話し声が耳に入ってきた。

 あれ?なんか、言葉違う。けど……分かる。

 夕食の相談しているみたいで、今日はあなたが作る日だから忘れないでねみたいなことを話している。言語が日本語とは違うんだけど、理解できてる。よく見ると、街中の看板の文字も初めて見るのに理解できてる。

 あ!

 これが神様の言ってたスキルかな?言葉が話せなかったら困るものね。何にしろ良かった!


 そうと分かれば、歩き進めながら看板の文字を拾っていく。

『黒猫』、『太陽と大地』、『海の唄』、『癒しの森』、『ダークナイト』、何じゃこりゃ。お店の名前とかなの?

『太陽と大地』の看板がかけられている建物の窓から中を覗いてみると、野菜や果物っぽいものが並べられていた。

 太陽と大地の意味が分かったような気がする。

 じゃあ海の唄は?

 貝殻とかが並べられていました。海で拾ったものが売っているのかな。

 癒しの森は……山の木の実とかかな?違った。店の中の棚には、液体の入った綺麗な瓶が並べられている。香水かな?

 ダークナイトは、バーみたいなものかな?

 はい、違いました。寝具屋さんっぽい。ちなみに黒猫はカフェでした。

 他にも、名前を見ただけじゃ何のお店かすぐには分からないような名前ばかり並んでいる。

 これって、お客さん分かるの?目当ての品を探すのが大変そう……。

 でも、ファンタジーっぽいと言えばファンタジーだね。


 しばらく歩いていると、『ファジール案内所』という看板が見えた。

 観光案内所みたいなものかな? ここ、ファジールっていう街なのかな。

 ちょっと行ってみよう。地図とかあるかも。


 それは二人ではちょっと狭いくらいの小さな建物で、屋台みたいな作りになっている。中には女の人が一人座っていた。


「あの、すみません……。」

「いらっしゃいませ。」

 人の良さそうな顔でにっこり笑ってくれて少しホッとする。

「ここら辺の情報が分かるものはありますか?地図とか……。」

「各地区の地図とファジール全体の地図がございますが、どちらをご所望ですか?」

「全体的に分かるものがいいです。あと、ここ一帯のものも。」

「全体的ですと、簡易地図になりますがよろしいですか?」

「はい、お願いします。」

 受付の上に札がかけられている。

「ミシュア・ドリュー?」

「はい。ミシュアでございます。」

 そう言いながら、横の棚からいくつかの冊子と紙を取り出す。

 日本で見るようなツルツルの印刷された紙ではなく、少し目が荒い紙質で手書きで地図が描かれている。

 味があって部屋にインテリアとしても飾れそうな風合いだった。冊子の方は糸で留められているようだ。


「全体地図ですと、こちらの冊子でそれぞれの地区の紹介が簡単ですが載っています。全体地図が一番後ろの紙を開いていただきますと……。」

 ミシュアさんが冊子の後ろの折り込まれた紙を引くと、地図が出てきた。

「このように簡単ではありますが、位置とかを知るにはいいと思います。」

「今いる場所は?」

「はい、こちらですね。」

 ペン立てからインクペンを取り出し地図に×を書き込む。

「そしてこちらが、ここ、商業区の地図です。」

 一枚のA3サイズくらいの紙を広げて、インクペンで×をつける。

「ここがこの案内所です。」

「ありがとうございます。」

「冊子は銀貨一枚、商業区の地図は半銀貨になります。」


 ……えっ、もしかしてお金?お金要るの?

 ポイントでもらったお金で大丈夫かな?えっと、お金お金……

 慌ててバッグのフタを開けて手を入れる。

 お金。

 イメージすると、手に何かの感触を感じたのでバッグから手を出した。

 するとひと抱え分の袋がガチャっと音を立てて受付の台に乗った。

「きゃっ」

 ミシュアさんが驚いて後ろに仰け反る。

「あ、ごめんなさい! 慣れてなくて。」

 慌てて苦笑いを浮かべつつ袋の口を開ける。

 中には同じ模様のコインがぎっしりと詰まっていた。

 これ一枚でいくらなんだろう?とりあえず一枚。

「これって足りますか?」

「えっ!!」

 ミシュアさんがギョッとしたように目を見張る。が、慌ててとりつくろい、

「かしこまりました、金貨一枚からですね。少々お待ちください。」

 そう言って棚の一番下からお金の入った箱を取り出し、お釣りを用意する。

「銀貨八枚と半銀貨一枚になります。お確かめください。」

 えっ、こんなに?もしかして大きなお金だった?

「あの、これ、早くしまった方がいいと思います。」

 ミシュアさんが心配そうに小声で囁く。


 もしかしてやらかした?

 まなは冷や汗をかきながら、『イン』と小さく唱える。

 コインの入った袋がバッグに収納される。

 またミシュアさんが驚いて仰け反った。

「ア、アーティファクトのバッグですか?!」

 また小声で必死にささやく。

 ここでは普通にあるものと思っていたけど、これもやらかした……?

 タラタラと汗が吹き出す。


 神様、この説明もして欲しかった!

 どうしようどうしよう。


「これ、あまり知られない方がいいですよ。こちらではあまり見ないタイプのものです。……狙われますよ。」

 ミシュアさんがコソッと周りを気にしながら話してくれる。

 この人いい人だ。

「すみません、慣れなくて。助言ありがとうございます。」

 ミシュアさんは、いいえと顔を振りうんと頷いた。


 そうだ、休めそうなところも聞いておこうかな。いい人そうだし色々教えてくれそう。

「もう一つお願いします。どこか身を休めるところと言うか、泊まれるところありますか?」

 ミシュアさんは、さっき出してもらった地図を指しながら説明をしてくれる。

「ここは商業区なので、宿はないんですよ。もう少しこちらの方へ向かっていただきますといくつかあります。もっと先へ進みますと、住宅街に入ります。住宅街にもショップはありますので、買い物はそちらでも困ることはないと思いますよ。」

「分かりました。行ってみますね。おすすめの泊まるところはありますか?」

「そうですね……。朝食夕食付きで、ゆったりと観光として過ごされるなら少し高いけど『メロウ』、もう少し安いところですと、『止まり木』ですね。『止まり木』は宿泊料だけ設定されていて食事はオプションで料金追加されますので、自由に設定できます。」

「じゃあ、そこに行ってみます。ありがとうございます。」

「行ってらっしゃいませ。」

 ミシュアさんがにっこりと送り出してくれる。


 地図で教えてもらった通りにしばらく進んでいくと、辺りの景色が、都会的な街並みから賑わいを見せる商店街のような雰囲気に変わっていった。

 さっきのところよりは馴染みやすくて楽かな。あちこちのお店からいい匂いも漂ってくる。

 前方に『止まり木』の看板が見えてきた。

 とりあえず数日泊めてもらおう。でもその前に。


 バッグのフタを開けて、さっきもらったお釣りの中の一枚をイメージする。

 すると手の中にコインの感触がした。そっとバッグから手を出すと、銀貨一枚を握っていた。

 うん、これなら大丈夫ね。さっきみたいにはならないようにしなくちゃ。


 まなは『止まり木』のドアを開けて中に入る。

 優しい料理の匂いがした。

 いい香りにホッとしながら、受付らしきところへ進んでみる。


 受付の上にかけられた札には、『止まり木・ミリ・スラリナ』とある。ミリさんかな。

 この世界のお店は、自分の名前を出す義務があるのかな。

 女将さんの娘さん的な親しみやすい顔をした、若い女の子がにこにこしながら私を見ている。

「すみません、数日泊まりたいんですけど、部屋は空いていますか?」

「はい、ありますよ! 一人部屋が一泊で銀貨一枚。食事は一回で銅貨七枚だよ。食堂兼ねているから、食事はその時に払ってくれても大丈夫ですよ。部屋で食べるなら部屋まで運びます。何泊される予定ですか?」

 とりあえず色々調べたいし。

「三日お願いします。」

「はい。宿泊代は先払いになりますので、先にお会計をお願いします。」

 ミリさんは伝票に金額を書き込む。

「宿泊代だけで合計銀貨三枚。お名前は?」

「まなです。」

 先ほど練習したようにバッグから銀貨三枚だけ取り出して支払う。

「まなさん? ……はい、承りました。お部屋は……」

 伝票に名前を書いて、壁にかかっている鍵を一つ取り出し、カウンターに置く。

「二階の『青い花』になります。これが鍵です。宿を出るときはカウンターで預けてくださいね。食事の注文はここ、カウンターで受け付けております。」

「はい、ありがとうございます。」

 鍵を受け取ってとりあえず部屋に向かおう。


 木の手すりに手を置きながら二階へ上がると、素朴ながらも綺麗に掃除された通りに客室のドアが並んでいた。隠れ家みたいな宿だね。目当ての名前があるドアを見つけると、中に入る。


 なんとか休めるところゲット。疲れた……

 木のベッドに倒れこむといい匂いがして、異世界でもお日様の匂いがするんだなあ、なんてぼんやり思った。

初めて行く街はちょっとワクワクしますよね。

異世界だと不安の方が大きそうですが……。

とりあえずまな、休めるところを確保できました。

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