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人違いでしたって……。

「と、言うわけで、君は本来まだ死ぬ予定じゃなかったんだよね。」

 神様があっさりと告げる内容は余りにも現実味がなかった。


 高いところから落ちるような昇るような、ジェットコースターに乗っているような強い変な感覚が止んだかと思うと、目の前に大きな門が立ちはだかり、門の向こうを見るとすごい数の人が行列を作って並んでいた。その列に何故自分は並んでいるのか、ここがどこなのかも分からなかった。

 他にやるべき事もなく、流されるように行列に従った。

 やがて門番の前にたどり着き、見上げるような位置にいるその人は顔色の悪い小柄なおじさんだった。

 黒縁のメガネをかけたその門番のおじさんに名前を聞かれたので自分の名前を告げた。

 門番のおじさんは、何度も何度もページをめくっては戻し、めくっては戻し。

 再度名前を聞かれたので、私は答える。


 堀田まな


 悪い顔色を更に悪くして、門番のおじさんは叫んだ。

「なんてこったい!!」


 それから神様という人のところに連れられて、事情を聞いた。

 ここは死後の世界という事で、目の前の神様は日本で言うところの閻魔大王様というもので。

 ここでは神様と呼ばれているようだ。

 神様と閻魔大王様は別物だと思うんだけど……。

 死後の世界がどんなかなんて、死んだ人にしか分からないんだから、思ってたのと違っても仕方がないと言えるのかも。

 とにかく私は、双子の姉『堀田れな』と間違えられて死んだようだ。


「もう火葬も終わってて、帰る身体がなくなっちゃったんだよね。」

「はあ……。」

「本来死ぬはずだった堀田れなを連れてこれなかったから、れなの宿命も書き換えられてしまって、もう連れてこれないんだ。つまり、君の身体がなくなった時点で、君と堀田れなの、寿命の長さが入れ替わってしまったような感じ。分かる?」

 神様が手に持った虹色の大きな羽をふわふわさせながら言う。

「なんとなく……。」

「んー。オープン。」

 少し思案した神様は、神様の書を開いた。

 縦二メートル、横四メートル程の大きさで、金色に輝いていた。

 虹色の羽でページをめくっていく。

 ふんふんふーんと鼻歌まで聞こえてくる……。

 神様の書が閉じられ消えると、神様はニッと笑った。

「君の本来の寿命はまだまだ先だったし、学びもまだまだ終えていない。こちらの不手際で終わらせるのも悪いしね、転生してみよっか。」

「……なんか全然悪いと思っていませんよね。」

「神様はなんでも知ってるの。君別に未練なんてないでしょ。」

 言い当てられてしまい、まなは黙ってしまった。


「でもまだ終わってないから。それにこのままじゃ君の魂はどこにも行けないからね。さ、手を出して。」

 まなは、言われた通りに両手を広げて伸ばす。

 虹色の羽が手のひらを撫でると、厚い本が乗せられた。

「わっ!!」

 重みで落としそうになり慌てて抱える。

「今から転生する場所へ持って行くものを選んでね。ポイント制だよ。開いてみて。」

 まなは言われた通りに、本を開いてみた。


 開いたページには、色々なタイプの家が載っていた。それぞれの家の下に数字が書かれている。

「ポイントをうまく使って、持って行きたいものを選んでくれればいいよ。選んだら転生した先で自動的に入手できるように手配するから。それも早いうちに。」

「住む家を選ぶんですか?」

「無しでもいいよ。転生した先で自分が困らないように準備するんだ。選んだもの以外は持って行けない。今着ている服さえも。」

「えっ、それは困ります!」

 裸で放り出されたらたまらない。

「そのカタログの表紙に君のポイントが載っているから。それを見て選んでね。」

 まなは本の表紙を見てみると、二万と数字で書かれていた。

「使えば自動で数字も減るから。」

 パラパラとめくってみる。あった、服。色々なデザインの服が載っているけど、御伽の国みたいな服。

 でも一個一個選んでいくのも面倒ね……。あ、セットがある。男性用セット、女性用セット。下着から上下の服、靴などセットになっているおまかせセットで二百ポイント。

「……私の転生はもう決まりなんですか?」

「うん、決めたよ。さ、選んで選んで。」


 この神様、せっかち? サクサクと進めようとするんですけど。でもこのまま何もしないわけにもいかないし、私はどこにいっても私だし。……それに、死んだのが『れな』じゃなくて、よかったのかも。私が残ってもしょうがないし。


 改めて服の女性用セットを一瞥して、デザインもシンプルで動きやすそう。これでいいや。

「服のセット、これにします。」

「うん、二百。」

「あの……転生して私はどうすればいいんですか?」

「うん。自由に生きてけばいいよ。」

「え、そんな簡単でいいんですか?」

「簡単というけど、生きてくのは簡単じゃないよ。ただ、君がやりたいようにやればいいよ。今までと同じでもいいし、生き方を変えてもいいよ。」

「……私引きこもりなの。神様には分かっていると思うんだけど。転生しても引きこもると思います。それでもいいんですか?」

「いいよー。」

 まなはしばし黙ったが、フッと小さく吹き出した。

「そんな風に言われたの初めてです。」

 再び本に目を戻し、ページをめくっていく。


「どこに転生するんですか?」

「地球ではないよ。別の世界に行くことになるね。」

「別の世界があるんですか?」

「たくさんあるよー。」

 驚いた! 小説の中だけの話かと思っていた。

 続けて質問しようとしたら、神様から止められた。

「服のセットだけでいいの?」

 慌ててページをめくると、バッグが目に止まった。

 一つはあった方が良さそう。

 使いやすくて、大きすぎず小さすぎず……あれ?

 やたらと高いポイントのバッグがあった。

 他のバッグは五十ポイントもないのに、そのバッグだけは一万五千ポイントだった。

「あの、これだけなんでこんなにポイント高いんですか?」

「目が高いね。」

 神様はニヤリと笑った。

「それは収納バッグ。生き物以外なら何でも収納できるんだよ。家だって収納できる。」

「何でも?」

「うん、何でも。収納量の制限も時間の流れもないから生物とかいれても傷まないし、あれば便利だよ。」

 便利なんてもんじゃない。神アイテムよ。あ、神様のだから本当に神アイテムなのか。

 これなら持ち歩きとかも楽そう。

「これにします。」

「はい、一万五千二百。」

 ポイントがかなり減った。一回軽く全部のページに目を通してから決めようかな。


 パラパラめくっていく。家は家具家電付き、食料、お金、お酒、衣服、ペット、武器!?

「あのっ。この剣とかって使うんですか?」

「魔物を倒したり身を守ったりするのにね。」


 ファンタジーの世界だ。


「私も戦うことになるんですか?」

「場所にもよるけどね。用意はしておいた方がいいと思うよ。身を守る物はあった方が安心でしょ。」

「無理です!運動とかもしてなかったし、そんな恐ろしい世界……。」

「大丈夫。ちゃんとスキルもあげるから。まあ、とにかくまだ欲しいものあるなら選んで。」


 むちゃくちゃだよ、この神様。


 身を守る物って言っても、いきなり剣とか使えないし……。

 ページをめくりながら見ていくと、剣だけではなく弓や杖、こん棒、なにこれ、どうやって使うのっていう物もある。馴染みがないものばかりだ……。


 そこに短剣を見つけた。これなら。

 包丁くらいの大きさだし、短剣なら色々使い道もありそう。

 なるべく魔物がいないところにひっそりと暮らせばなんとかなるかも知れないし。うん、そうしよう!


「この短剣にします。」

 短剣のポイントにもピンからキリまであったけど、一番ポイントの低いシンプルな物を選んだ。

「うん、いいね。自分に合ったものをちゃんと考えているみたいだね。」

「それからどうしようかな……」


 そうだ、家ってどれくらいのポイントかな。もうかなり使ったから無理かも。

 家のページを見てみると、やっぱりもうポイントがオーバーしていた。パラパラめくっていくと、小さい小屋みたいな家が、二千ポイントで載っていた。かなり小さい。

 スモールハウスと書いてある。

 駐車場一台分くらいしかないんじゃないかな?小さいベランダはついてるけど。

 でも……私一人ならこれくらいでもいいわ。バッグがあるから、物はしまっておけばいいし。

「このスモールハウスにします。」

「いいね。残り二千三百ポイントだよ。」


 ページをさらさらとめくっていく。

 お金かな? 文無しで行くより多少はあった方が困らないよね。必要なものがあとから出てくるかも知れないし。

 本には、小さい金額から大きい金額まで羅列されている。

「じゃあ、キリのいい二千ポイントでこのお金をお願いします。」

「うん。じゃあと残りは?」

 食料かな。

「残りは全部この食材セットとパンでお願いします。」

 これでしばらくは家にこもれるかな?


 神様が虹の羽を振ると、まなが持っていた本が閉じてふわっと浮かび上がった。

 うわっ、魔法みたい。


 本はスッと神様の手に戻り、神様が虹の羽を一振りした。

 すると、本がバッグに変わった。

「全部このバッグの中に入れてあるから。出したいものをイメージしながら手を入れれば取れるよ。」

 そう言って、バッグをまなに手渡した。

「軽い。」

 バッグは、皮のようなものでできていて柔らかい。でも土台はしっかり目に作られている。

 フタを開けてみると、何も入っていない。手を入れて、家をイメージしてみる。

 本に載っていた家を細かく思い出せないけど大丈夫かな。

 すると手に何かが触れたような感触がある。

「あの、どうやって出すんですか?」

「手に触れたら、バッグから手を出すだけ。」

 手を出してみる。

 すると、風船ゴムを引っ張っているようなものが出てきて、そのまま目の前に広がって形成した。

「すごい!!家だ。本当に出てきた……」

 あまり明確にイメージできなくてもなんとかなるみたい。

「しまう時は直接自分の手で入れるか、バッグを広げながら対象物を見て『イン』って言えば自動で入るよ。」

「イン」

 今度は出た時と逆に、家がしぼんでバッグに吸い込まれるように入っていった。

「すごい、魔法……。こんなこと現実にあるなんて。」

「さて。じゃあ今度は、こちらからのお詫びの品ってことで、スキルをプレゼントー。」

 神様が虹の羽をまなの方に向ける。


「どんなスキルがいいかなあ。」

 ひらひら羽を振りながら考える神様。

 スキルってなんだろう。さっき魔物の話になった時に言ってたから、戦う力かな?

「よし、これにしよう。」

 神様は、虹の羽をまなの頭上に乗せてひと撫でした。

 虹色の光の粒子がまなを淡く包み込んで、そして消えた。

「どんなスキルですか?」

「ふふーん。それはあとのお楽しみ。全部教えちゃったらつまんないでしょ。向こうに行けば分かるから楽しみにしててー♪」


 本当にこの軽い人、神様?

「そして、もう一つ、デスをここへ。」

 この部屋へ案内された時に入ってきた扉の方に向かって声かける。

 まなもドアの方に顔を向けると、扉が開いて白い服を着た男の人が入ってきた。

 髪の毛も眉毛も、まつげさえも白い。でも綺麗な人……。この人がデス?

「彼は天使。そして……」

 天使が手に持っている黒いものを神様に手渡すと、神様はそれをまなに見せた。


 黒いフード付きのマントをきた人形だった。

 布でできていて、顔を見ると、目つきがチョイ悪の猫みたい。フードの中は黒くて長い髪の毛が三つ編みされて肩から垂れている。

「これがデス。君を間違えて刈った死神さ。」

「え!!」

「大きなミスを犯したからね、罰で人形にしたんだよ。でも話とかはできるから。ほら。」

 そう言ってまなに人形を手渡す。

「え??」

「……すみませんでした。」

 ぎゃっ、喋った!!

 驚いて人形を手放し、床に落としてしまった。

「いてっ、落とすな!」

 人形からそんな声がする。


「ななななな……」

 怖い!ホラーだよ。


「ははは。そう怖がらないで。デスが君を護る力を持っているから、連れていくといいよ。デスは罰として消してもよかったんだけど、償いはさせないとね。こんなのも面白そうだからやってみたんだ。」

 ……この神様怖い。おもちゃを作るみたいに。


 ちょっと人形に同情しながら恐る恐る拾った。

「大丈夫みたいだね。じゃあ、長居もなんだから、行ってらっしゃい。」

 そうニッコリと笑って虹の羽を振った。


 えっ、こんないきなり?!

 まだ心の準備とかできてないんですけどーっ!!


 バッグと人形をギュッと握りしめると、上下が反転するような目眩を感じた。

 そのままぐるぐると回るような感覚がする。

 気持ち悪いー!!


 ぐるぐるぐるぐるぐる〜

 だめ、落ちるーっ!!


 どこかに吸い込まれていくように、心臓がきゅっとしまったような気がした。


 

カタログでもらったもの

 ・服セット

 ・アーティファクトのバッグ

 ・短剣

 ・スモールハウス

 ・お金

 ・食材セット

 ・数日分のパン


 神様にもらったもの

 ・スキル?

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