表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/57

死神の憂鬱

 私は死神。人の命を刈る者。

 死神に任命されてから随分と長い時が過ぎた。


 人の命は定められている。

 老衰、事故、病気、殺人……どんな理由でもその魂に刻まれたカルマで、ある程度の人生を決めて生まれてくる。

 どんな死を迎えるとしても、それは魂自身が生まれる前にどんな学びをするか決めるのだ。

 生きながら経験を積み、魂の質を磨き、死を迎える。そうして輪廻転生を繰り返す。

 これが命あるものの定め。


 たまに自分から定めを投げ打って自決する者もいるが、そうした者にはそれなりの罰が神によって下されるし、勝手に他人の命に干渉した者も、神によって重い罰が下される。

 罰の内容は神のみぞ知るだ。


 私は、学びを終えた魂を神の元に還すために働いている。

 私の仕事もまたカルマによって定められた、魂の質を磨く為のもの。

 あとどれくらい命を刈れば終わるのだろう……。


 ……最近憂鬱だ。

 憂いている死神なんて聞いたこともないが、私は今確かに少し疲れている。

 この仕事に疑問を感じている訳ではない。

 ただただ、疲れた。

 だが、考えるとキリがない。

 私は思考を心の奥に沈め、職務に励む。


 死神は、黒光りする大ガマを肩にかけながら下界へ下降する。


 今回の目的である、家の屋根が見えてきた。橙の瓦が敷き詰められた大きな屋根が目立つ建物。手入れが行き届いた庭のガーデン。昼間は季節の花々が美しく彩るのだろう。

 今は暗くてよく見えない。

 死神は目を閉じて、住人の魂を探る。

 家の一階にふたつの魂が寄り添っている。そして二階にも二つ。離れているから、それぞれの部屋にでもいるのだろう。

 全部で四人。

 今日命の終わりを迎えるのは……二階にいる方の一人。


「オープン」

 呪文で死神の書を開き、今日のリストのページを一瞥する。

 今日の仕事はこの家の娘か。

 リストには、名前、性別、生年月日、顔写真、家族構成、死因など対象者の情報が細かく記載されている。


 堀田れな。

 19歳。

 死因は心の臓を止める。


 医者によって原因不明の心停止と診断されるだろう。

 二階の窓の外から吸い込まれるようにして、中に入る。


 コツ、コツ、コツ。


 死神の足音が、冷えた廊下を歩くたびに暗闇に響く。

 死神の姿と声、たてる音は、命を刈る対象者以外の人物には見えないし聞こえない。

 だが、死の音をわざわざ聞かせるような悪い趣味は持っていない。

 ひっそりと刈るのが私のやり方だ。


 一つ目の部屋の扉をすり抜ける。

 ベッドに眠っている人物の顔を覗く。

 死神の書にある写真と同一人物のようだ。

 すんなりと探り当てたことにフッと笑いながら、死神は大ガマを振り上げる。

 そして、風を切る音。


 ブンッ


 大ガマは、女性もベッドも床も全てすり抜けながら円を描く。

 すると、女性の身体から、仄かに青く光る魂がふわふわと出てきたかと思うと、輝きを増して一気に天に昇る。

 死神はそれを見届けてから、死神の書を閉じた。

 そしてまた暗い廊下をゆっくり戻り、窓からすり抜け、帰っていった。

「疲れた……」

 死神の頭の中にはもう、帰ってから飲むホットドリンクのことしかなかった。


 魂を刈り取られた女性の部屋の隣。

 ベッドの上で布団を体に巻きつけながら、廊下に響く不審な足音と気配に震えている女性がいた。

更新はゆっくり目です。

現実世界でもゆっくりスローライフを夢見ています……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ