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亜人の子

路地裏の赤ん坊を拾い、一ヶ月が経った。

それまで、俺は赤ん坊に次郎という名前を付けて、兵器開発企業兼傭兵派遣企業であるGWC(Global Weapon Company)の医療施設に赤ん坊をぶち込んだ。

産まれたばかりの赤ん坊……しかも、腐った生肉に囲まれた状態で元気になるわけもなく、すぐに衰弱してしまった。

そして、捨て子ということを聞かされた医師は「無責任な親が増えてるみたいですね」と返し、「衰弱状態は何とかなります」と頼もしい言葉を吐いた。

しかし、赤ん坊を検査したGWC所属の医師は頭を抱えた。

赤ん坊が不治の病に侵されているわけではない。

その赤ん坊には本来、人間に備わっているであろう魔素を外部に放出する細胞の機能が無かったのだ。

さらに体内に貯蔵されている魔素の量が常人の7倍もあることからこの障害さえ無ければ、魔術師として大成する可能性を大いに秘めているとのこと。

成る程、黒装束の魔術師がこの赤ん坊を殺そうとした理由が理解出来た。

医師が言うには10年以上の長期間の投薬と手術を行うことでこの障害を取り除けるとのことだが、俺の後継者には魔術という物は必要無い。

そんな才能とかいう物は野犬にでも食わせておけば良い。

俺が必要とする物は強靭な肉体と健全な精神のみ。

それに傭兵としての勘と技術を詰め込むことで、俺の後継者の完成だ。

医師には魔術に関する治療の必要は無いことを伝えると医師は何かを言い淀んだが、最終的にはこちらの意向に従った。


次郎の治療が終わり、俺は一郎と共にある場所へと連れていく。

『亜人兵士 幼児教育棟』と書かれたドアを乱暴に開ける。

すると、何かをドアにぶつけたような感触を感じる。


「痛い!痛い!うわあああああ!」


ドアの向こうに子供がいたようで、ドアにぶつけたであろう額を押さえて泣きわめいている。

面倒なことになったな……あやして泣き止ますとかそういうのは柄じゃないんだよなぁ……面倒くせぇ……


「あー、何だその……すまんな」


とりあえず、謝罪はする。

だが、子供は俺の言葉を聞かず、泣き止まず、ひたすら泣きわめいている。

成る程、引き取ってから一度も我が儘を言わず、泣かない一郎がどれだけ聞き分けの良い子供か分かる。

いや、違うか。もしかすると戦争によって、両親が死亡した影響でそういった子供らしさが失われた可能性もあるか。

そういえば、亜人か……亜人と言えば……

亜人っつうのは世界中にばら蒔かれた魔素の影響によって、一定の確率で人間の妊婦から出産される人種のことだ。

その姿は人間の容姿に犬や猫等の耳や尾が生えていたり、鳥のような羽が背中から生えているといえば、イメージ出来るだろう。

亜人は人間以外の動物の因子も含まれているため、身体能力が高いケースが非常に多い。また、混ざっている因子の影響により、犬の亜人なら普通の人間よりも嗅覚に優れ、猫の亜人なら夜目が効くというような特徴もある。

そんな便利な亜人だが、この日本という国では忌み子として扱われている。

そのため、次郎と同じように産まれてきた直後に捨てられることが多い。

そんな亜人の赤ん坊を軍事企業であるこのGWCでは傭兵として、成人まで育てることが多い。

そうやって、俺が現実逃避を決め込んでいると、一郎が部屋の中に入っていく。

部屋に入った一郎はすぐに泣いている子供の前に座り込む。


「どうしたの?おでこ痛いの?」


一郎の声に反応した子供は頭から犬のような三角形の耳を立てる。

耳が伏せられていたからわからなかったが、亜人の子供だったか。まぁ、部屋が部屋だから珍しくも無いか。


「じゃあ、僕が痛いの治すよ」


一郎は亜人の子供の額を触れるとその手が青白く光る。

癒しの式、ヒーリング等と呼ばれている軽い炎症や打撲、擦り傷を治療する魔術だ。

本来はしっかりと魔術陣を描き、詠唱を行い、治療したい部位に触れるというプロセスが必要だが、一郎はそれらの工程をすっ飛ばして魔術を行使出来る才能があった。

ヒーリング等の治療魔術は戦闘中の応急処置が出来ると便利だと考えて、独学で魔術を行使することを禁止しなかった。

一郎が子供の額を触れていると額の赤みが引いていく。


「わぁ~痛くない!ありがとー」


あれだけギャン泣きしていた子供がケロッと笑っている。

一郎は面倒見が良い奴とは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。

あぁ、弟が出来たからはりきっているのか?

それとも、相手が可愛い女の子だからか?

まぁ、子供なりに思うところがあるのだろうな。


「どういたしまして。あ、僕は一郎っていうんだ。君の名前は何ていうの?」


「わたし?わたしは牡丹(ぼたん)っていうの」


「牡丹ちゃんか。可愛い名前だね」


「うふふ~ありがとう一郎君」


亜人の子供は臀部に生えている尾を激しく振りながら一郎の胸に抱きついている。

アイツ、気に入られてるな。


「あら、子供嫌いの零司がここに来るなんて珍しいじゃない」


一郎と牡丹と名乗る亜人の子供のやり取りを一通り見ていると部屋の奥から猫のような耳を頭に生やしたスーツ姿の女が出てくる。


「おう。久しぶりだな。マリナ」


「久しぶりも何も三日前に会ったばかりじゃない」


俺がマリナと呼ぶこの女は猫系亜人の女傭兵だ。

俺が二十代の頃にバディを組んだ女であり、現役から引退した今はただの飲み仲間である。

まぁ、現役から引いたといってもまだ勘は衰えていないようであり、現在は亜人の捨て子を傭兵へと育て上げる育成業務に携わっている。


「で?今日は何の用で来たのかしら?」


「あぁ、今日は一郎と次郎を紹介しに来た」


「牡丹と仲良くしているのが一郎で、あなたが抱えている男の子が三日前の飲み会で話してた次郎ってわけね」


「そうだ。バディを組む時にお互いに知らない人間同士だと緊張するだろう?」


俺がそう答えるとマリナは成る程と頷き、そうねぇ…と呟く。

一郎に関しては、あの牡丹という幼女がバディになるであろう。

問題は次郎に関してだ。


「丁度、四日前に産まれた子がいるからその子と次郎君をバディにしましょうか。奥の部屋に来て頂戴」


俺は頷き、先を行くマリナに着いていく。

一郎もこちらに気付き、俺に着いて行こうとする。

しかし、牡丹が一郎の裾を引っ張り、今にも泣きそうな顔をしているので「遊んでやれ」と言うと一郎は牡丹と一緒に俺から離れていく。

奥の部屋に行くと乳児用のベッドがズラリと並んでいる。

ベッドの中で寝ている乳児はいずれも亜人であり、背中から羽が生えていたり、獣のような耳や尾を生やしている。

マリナが「この子よ」と一人の赤ん坊を抱えて、俺に見せてくる。

犬のような耳を生やしている亜人の赤ん坊は静かに寝息をたてている。


「名前は桜。四日前、東京駅のホームに捨てられていた犬系亜人の子供よ」


「全く、子供を大切にしない親が増えたよな。昔の日本にも子宝って言葉があったんだぜ?」


「亜人に関しては日本だからってのがあるかもね。肌の色の差別はあっても亜人による差別が無いアメリカ産まれの私はホントに幸せだと思うわ」


「まぁ、亜人の捨て子は日本の腐った部分のせいだと断言出来るな。だが、亜人では無い人間が捨てられるってのは日本では珍しくないか?いや、捨てられるじゃないな。殺されそうになるだな」


「魔術が使えないというのは聞いたけど……魔術が使えないってだけで捨てるだけじゃなくて、殺そうとするのは何かあるわね」


「この話は長くなりそうだな。飲んでいる時にでもするとしよう。一郎と次郎の紹介が終わったからもう帰るぜ」


俺は部屋から出ると一郎に「帰るぞ」と声を掛ける。

一郎は頷き、牡丹に耳打ちすると笑顔になった牡丹は俺達を快く部屋へと送り出した。


「お前、何て言ったんだ?」


俺が一郎にそう尋ねると一郎は笑顔で答える。


「また遊びに行くって言ったよ。だから明日も連れてってよ。お父さん」


成る程……コイツも存外、ちゃっかりとしてる奴だな

まぁ、マリナにコイツらの世話を丸投げ出来るから良しとするか

それに気になることもあるしな

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