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傭兵親父と少年と赤ん坊

現代から300年前に世界各地の海域に広大な島が浮上した。

まぁ、広大な島と言ってもイギリスや日本を多少大きくしたくらいの島だがな。

その日を境に人類は魔素と呼ばれる因子を操ることが可能となった。

そして、一部の生物が突然変異を起こし、人類を襲う獰猛な生物へと姿を変えた。

突然変異を起こした生物―――魔獣に対し、人類は対抗するための手段として、火、土、水、風の要素を操る方法―――魔術を開発する。

また、悪魔と呼ばれる高い知能を持った魔獣との契約によって、不死身の肉体と強力な力を得ることで魔獣と戦う人間もいた。

悪魔と契約した人間は咎負いと呼ばれ、咎負いでは無い人間からは畏怖される存在となった。

魔術と咎負いによって、ある程度の魔獣を撃退することに成功した人類は技術を発展させて魔術を行使することが苦手な人間でも魔獣に対抗出来る兵器を開発していく。

魔獣に対する脅威を感じなくなった人類は己の国をさらに発展させるために人類同士の戦争が世界各地で200年続いた。

それは魔素の発生に関係があると言われている浮上した島の奪い合いであった。

それは控えめに言って、クソッタレな出来事だった。

2X37年の現代、各国の戦争はそれぞれの浮上島を各大国が管理することで停戦状態となり、人類は一時的な平和を噛み締めていた。




――クソッタレな戦争から3年経った2X40年 日本

秋も深まり、夏用スーツで肌寒さを感じた俺――崎森 零治は日本で最も経済が発展した東京という都市を歩いていた。

「お父さん、待ってよ!」


俺の後ろを歩く4才のクソガキが俺のことをそう呼ぶ。

このクソガキ――崎森 一郎は俺の後継者ではあるが、血は繋がっていない。所謂、養子というやつだ。

一郎に血の繋がった親は居ない。

何故なら3年前にコイツの故郷は戦場になり、瓦礫と死体の山と化した町の中でコイツは数少ない生存者だったからだ。

俺は職業柄、未亡人となる可能性がある妻を娶る気はサラサラ無かったが、後継者だけは欲しかった。

そして、身寄りが無いコイツは一人で生きていくことは出来ない。お互いに利害が一致したと勝手に考え、俺はコイツを引き取ったってわけだ。

周りの人間は親の愛情がどうのと言うが、そんなものは肉親が居ない俺にはわからん。


「早く来いよ」


俺は立ち止まり、トロトロ歩く一郎を待つ。

待っている間に一服しようとした瞬間、立ち止まった路地裏の奥から何かの音がする。

頭の中で一番近い音を探すと赤ん坊の泣き声と同じ音のような気がした。

路地裏に赤ん坊?随分と似つかわしくない組み合わせだな。

気になった俺は周囲に警戒しながら足音を立てずに路地裏へと入っていく。

路地裏の奥まで移動すると黒装束の人間が黒いゴミ袋をダストボックスの上に載せていた。黒いゴミ袋からは先程よりもハッキリと赤ん坊の泣き声が響いている。

黒装束がブツブツと何かを呟くとその右手が青白い光に包まれる。

ウィンドエッジ、風刃、ヴィントメッサー……様々な名前があるが、要は風の元素を使うことで対象の切れ味を高める魔術だ。

路地裏がスプラッター映画のワンシーンになる前に俺は黒装束に声を掛けることにした。


「よう。こんなところで何してるんだ?」


黒装束がこちらに振り返ると顔は白い仮面で覆われており、顔を見ることが出来ない。

黒装束は青白く光る右手を振り上げながら俺に向かって走ってくる。

こちらに危害を加える様子を確認し、腰にぶら下げてるホルスターからリボルバー拳銃を取り出し、黒装束の振り上げた腕の肘を狙撃する。


「あああああぁぁぁぁぁ!」


黒装束の肘に鉛玉が貫通するとソイツは呻き声を上げながら地面に踞る。

声の感じから男性の魔術師といったところか。


「おいおい、刃物は振り回したら駄目って教わっただろ?」


俺は黒装束の頭を踏みつけて、身動きがとれないようにする。

勿論、銃口は黒装束の頭を捉えたままだ。


「で、こっからが本題。お前、赤ん坊相手に何しようとした?」


俺は黒装束に尋問するが、何も答えること無く男の姿が一瞬で消えた。

瞬間移動?いや、予め用意した魔術陣にだけ移動出来る魔術か。戦場でよく見られた帰還魔術の一種だな。


「お父さん」


俺が得物をホルスターに仕舞うと後ろから一郎が声を掛けてきた。

戦闘中に顔を出さないのは、4才のクソガキにしては合格点だ。

自分が出てきたところで何も出来ないことや人質にされることを理解出来ている。

そんな一郎が赤ん坊の泣き声を聞くと「赤ちゃんだ!」と大声を出しながら早足でダストボックスへ向かって行く。

お前、普段もそのくらい早く歩けよと思うが、敢えて何も言わないことにする。

黒いゴミ袋を開けると腐臭が漂う生肉に包まれた赤ん坊が泣いていた。成る程、切り刻んで生肉と一緒に廃棄するつもりだったのだろう。屑野郎が……お前のような奴にガキを作る資格はねぇよ。

ヌルリとする腐った肉を掻き分け、赤ん坊を取り出す。

へその緒の切り口から見ると産まれた直後の赤ん坊であることがわかる。


「今日産まれたばかりか……ハッピーバースデー。腐ったこの世にようこそ」


赤ん坊を取り出すと一郎が真っ直ぐ俺を見ている。


「どうした?クソガキ」


「新しい家族になるの?」


「あぁ、そうだ。お前の弟だ」


その言葉を聞いた一郎は「やったー!」と跳び跳ねながら喜びを身体で表現していた。

一郎は来年になったら俺の後継者となるために軍事訓練を受けることとなる。

まぁ、それまで家族ごっこを楽しんでいると良いさ。

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