34話「もしも」 中編
唯の結婚式当日、俺はなけなしの金で買ったスーツに身を包み会場へと向かっていた。
妙に清々しい気持ちなのはなぜだろう。
……嘘だ。清々しくはない。心の中は棘が刺さったかのように荒れていて半ばやけくそな気持ちで会場に向かっていた。
それでも……これは仕方のないことだ。
今までの自分の行動が招いた現実なのだ。
要は自業自得ってやつだ。
「おい、淳一」
「おう、石田か」
「どこ行くつもりなんだ……って決まってるか」
「ああ、お前も招待されてたんだな」
「まあな、真由美は用事で来れないから俺だけでも行こうってな」
「そういうことか」
「なんだかな。女ってのは意外とあっさりしてるよな。 この前まで存在さえ知らなかったお見合いで知り合った人と簡単に結婚しちまうなんて」
俺が心のどこかで思っていたことをいとも簡単に石田は呟いた。
そんなところに時たま救われる。
「唯が決めたことだし、それに俺は何も出来なかったからな」
「まあな、お前奥手にもほどがあったしな」
「うるせえやい」
なんてくだらないやりとりをしているだけで少しばかり気が安らぐ。
なんとなく俺がそうなることを石田はわかっているのだと思う。
「まあ、今日は明るく祝福してやろうぜ」
「ああ」
そう言って俺たちは式場へ向かった。
不思議と足取りは軽かった。
*
会場へ向かう途中目の前が真っ暗になった。
文字通り真っ暗になったのだ。
視界が突然暗くなり視界は奪われた。
数秒真っ暗闇が続く。
そしてやっと光が見えてきた。
「久しぶりね」
「……由夏か」
なんとなくこうなる予感はしていた。
由夏が最近現れてないことに違和感を感じていた。
いつからか彼女が現れるのが当たり前だと思っていた。
でも最近俺の前には現れなかった。
だからこうして現れた今突然の出来事なのに安心している。
「はあ、結局ここまで来ちゃったのね」
久しぶりの再会の感動もなく、早々に由夏は溜息をついた。
「全くおじいちゃんの意気地なし加減には呆れてものも言えないわ」
「……ごもっともすぎて今更何も言えない」
「まあ、そんなおじいちゃんに最後のラストチャンスをあげましょう」
そう言うと由夏は再び姿を消した。
再び視界が暗くなり真っ暗闇に包まれる。
暫くして目を開けるとそこには唯がいた。




