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27話「夜の校舎」前編

 昔から幽霊とか妖怪とかそういった類のものは信じていなかった。

 勿論、今だって、これからだって信じるつもりはない。


 けれど、夜の校舎には何かがある気がしていた。 オーソドックスなものだとトイレの花子さんとか太郎さんとかその辺だろうが、そういった霊的なものではない何か不思議な力……特別なものがあるとは信じていた。


 いや信じていたというより憧れていたと言った方が正しいのかもしれない。

 青春ドラマとかでよく夜の校舎に忍び込んで青春するといったああいったものに憧れているのだと思う。 きっとそこには青春があると。 


 昼間は日常の中の学校だが、夜は非日常感がありそうな夜の学校に憧れていた。

 要するに非日常感を味わいたかったのだ。


 昔から俺は夜が好きだった。 面白いテレビ番組といったら夜に放送されているし、夜に外に散歩しに行くだけで何だかわくわくした気持ちになれた。

 俺にとって夜というものはそういうものだった。


 10月10日、22時07分。 

 俺は真柴楽器へと自転車で向かっていた。 

 真柴から突然の呼び出しがあったからだ。

 遡ること10分前。


「あ、もしもし淳一君? お願いがあるんだけど……学校に明日の宿題を忘れちゃって……その……一緒に取りに行ってくれないかな?」

「はあ? 忘れ物ってお前もうすぐ22時だぞ。 学校なんてとっくに閉まってるだろ。」

「ふっふっふ。 一階の保健室の窓はいつも空いているのだよワトソンくん」

「いや、ていうか俺、お前と同じ学校じゃないし」


「頼むよ〜淳一くん。 一生のお願いだよ〜」

「……一生のお願いここで使うなよ。 ……まあいいや、わかった。 そっち向かう」

「やったー! 淳一くん、愛してる! 待ってるね〜」


 と、そんなやりとりがあったのだ。

 普段の俺だったら確実に行ってないだろう。


 でも今日は何だか気晴らし……というよりは現実逃避をしたかったのかもしれない。

 昔からの俺の癖。 何か嫌なことがあったらすぐに現実逃避をしてしまう。

 孫である由夏に何も助言することができなかった。 俺は薄っぺらい人間だ。 きっとこれからも。


「おっ! よう淳一くん! 待ってたよ!」


 真柴楽器に着くと真柴は既に外で待っていた。


「お前、何か余裕そうだな。 夜の学校が怖くて俺に頼んだんじゃないの?」

「あ、うんうん。 めっちゃ怖いよう。 だから淳一くん呼んだのさー。 よいしょっと」


 真柴は俺の自転車の後部座席へと座った。


「おい、違反だぞ二人乗りは」

「はーい、ここで問題です。 今から私たちは何個いけないことをするのでしょーうか?」

「何だその問題は」

「いいから、いいから」

「そうだな、まずは二人乗りだ」

「うんうん。 それでそれで?」

「深夜徘徊」

「うんうん。 それでそれでそれで?」

「あとはこんな時間に無断で校舎に入ること。 それぐらいだろ?」

「うーん、まだあるんだよなあ〜」

「何だよ?」


 俺が聞くと真柴は俺を見つめ、


「ひーみつっ」


 と微笑んだ。


「何だよそれ」

「ふふふっ。 さあ〜レッツゴー!」


 真柴はそう言って拳をあげる。

 まったくこいつは……まあいいや、今日はそんな気分だ。 流されてやろう。


 外は暗かったが、月の光とヘッドライトが俺たちを、俺たちの行く道を照らしてくれた。

 背中と、俺の腰に手を回す真柴の微かな温もりと俺自身の胸の高鳴りを感じながら自転車を走らせていった。



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