1話「転校生」
「浩ってば酷いのよ、わたしが買ったプリン食べちゃうんだもん。 たとえ家族だとしても人のものを食べちゃうのって犯罪よ。 絶対ろくな大人にならないんだから」
「まあ浩も食べ盛りなんだし大目に見てやれよ」
「淳一は甘いの!そんなんだから浩があんな風に育つのよ!」
安心してください。
浩はそこそこ良い大学出て、そこそこ良い会社に勤めてますよ。
浩は唯の3つ下の弟だ。
俺と唯は生まれてた時からの幼馴染だから、当然、浩も小さい頃の仲だ。
だから、昔から浩には本当の兄のように慕われている。
「しかし、懐かしいなあ。 ここの弁当屋今はもうないんだよなあ」
学校に行く通学路の途中に、よく昼御飯を買っていた弁当屋があった。
今はもう潰れてクリーニング屋になっている。
「? 今って、今も弁当屋じゃない」
「あ、そうだったな。 何でもない、何でもない」
「変な淳一」
そうだった……思わず声に出てしまったが……
俺は今11年前に来てるんだったな、未だに信じられないけど。
今は学校に向かう通学路の途中、あと少しで学校に着く。
それにしても懐かしい道だ。 大人になってからは車でしか通ってなかったから、歩くとなんだか新鮮だ。
唯とは幼稚園の頃から、毎日一緒に登校していた。
クラスのやつらに冷やかされることもあったっけ。
少し気は強いが、誰にでも優しく、頼り甲斐のある唯はクラスでも人気者だった。
何より見た目がもの凄く可愛い。
クリッとした大きな目に、形の整った鼻と口、よく似合うショートカット
身長は標準より少し小さい。
スポーツ万能で、みんなに好かれる唯は、クラスの中で、いや学校で1番輝いていた。
たまにドジで、料理は下手だけどそれを補えるほどの魅力が、彼女にはあった。
そんな幼馴染の唯のことが俺は好きだった。
過去の俺はそれが言えないまま28歳を迎えた。
学校に着くと、昇降口で既に迷った。
高2の俺が何組だったか覚えていなかったからだ。
幸い、唯と一緒にいたので下駄箱の位置がわかった。
俺は唯と同じクラスだった。
思えば小学生からずっと同じクラスだ。
偶然にしては出来過ぎな気がする。
靴を履き替え、俺と唯のクラスである2-3に向かう。
高校か。 懐かしいな。 女子高生がそこらじゅうにいやがるぜ。
28歳の時は、女子高生なんか見つめてたら下手したら捕まるけど、今は俺も高校生だから見放題だな。
高校卒業してから感じるようになったが、女子高生って存在だけでありがたい。
うちの学校の制服はセーラー服だ。
セーラー服が好きな俺にとっては天国だ。
幸い俺は唯と隣の席だったので、自分の席に自然に座ることができた。
「おい淳一! 今日も今日とて、唯ちゃんとラブラブ登校かよ! 許せねえ!」
声の主の方を見ると、そこには懐かしい顔……いや11年後の先週に飲みに行ったばかりの高校からの長い友達、石田慎也がいた。
短髪で爽やかで、スポーツがいかにもできそうなルックスをしている。 まあできるんだけど。こいつは陸上部で短距離走者である。
「バーカ、そんなんじゃねえよ。 お前こそ真由美とラブラブじゃねえか」
「真由美? って生徒会の富田真由美さん?俺話したこともねえよ」
あ、そっか2人が付き合い出すのは3年の時からだっけか。 いけないいけない。
「なんでもねえ。 そういえばお前朝練は? まだ朝練の時間だろ?」
「ああ、今日はなんか足痛えから休むんだよ」
「テキトーな部活だな」
なんかこいつとは自然と話せるな。
11年前と全然変わらないからな。
キーンコーンカーンカーン
朝のHRのチャイムが鳴った。
それと同時に、担任の山田先生が教室に入ってきた。
「おーいHR始めるぞー皆いるなー?」
はーいとクラスの皆が答える。
懐かしいな……このクラスっていう概念が俺にはもう懐かしすぎる。
「皆もう知ってるかもしれないが、今日からクラスに新しい仲間が増えるぞー、おーい、入ってきていいぞー」
山田先生がそう言うと、教室の扉が開き、絵に描いたような美少年が入ってきた。
美少年は教卓の前に来たと思うとこう言い放った。
「相川哲治です!皆どうもよろしくね! 僕はこのクラスの皆と仲良くしていきたいと思ってるよ」
何とも見た目と声が爽やかなので、嫌味のない印象であった。
クラスの女子の何人かがイケメンイケメンと騒いでるのがわかった。
しばらく転校生の方を見ていたら次第にこちらにも視線を感じた。
ん?目があったのか?俺のこと見てるのか?
いや、俺の隣の唯のことを見つめていた。
「そこの君、ちょっといいかな?」
相川がいきなり大声で唯を指差したのでクラス中静かになる。
「え? 何?」
唯は、ボーっとしていたらしくびくっとした仕草を見せた。
「一目惚れしました。 僕と付き合って下さい」
相川は唯の手を差し出しその言葉を放った。
まるで王子様がお姫様にプロポーズしてるみたいだ。
きゃーっとクラス中が騒がしくなる。
「え、何?」
当たり前だが、唯はいきなりのことでびっくりしていた。
……だんだんと思い出して来たぞ。
こいつは…………
「言葉の通りです。 一目惚れしました。 僕と付き合ってくれない?」
「い、いきなり何言ってんのよ! 私のこと何も知らないのにそんなこと言うもんじゃないわよ! と、友達からならいいけど……」
唯は、顔を真っ赤にしながらそう答えていた。
そういえばそうだっな。
今後、唯は相川と付き合うことになるんだ。
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