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12話「真柴との花火大会」

 ライブスタッフのバイトから4日が経ち、バイト料として、7000円を貰った俺は、この金で唯に何をあげようか、悩みに悩んでいた。

 誰かのために金を稼いで、誰かのために使おうと思ったのはいつぶりだろう。

 自分のために使うよりもワクワクするのは、何故だろう。


 唯の喜んだ顔とか、唯の照れた顔とか、想像してしまう。それと同時に、相川と花火大会に行く日が近づいていて気が気じゃないといった気持ちもあり、なかなか情緒不安定な4日間を過ごしていた。

 28歳のおっさんが恥ずかしいぜ。


 今日は、相川と唯が行く花火大会の日だ。

 毎年行われてる丸滝川での花火大会は、地元の人なら、一度は行ったことがあろう花火大会でこの近辺では言わずと知れた行事の一つである。

 小学生の時に、唯の家族と俺の家族で一緒に行った思い出がある花火大会でもある。


 そんな花火大会なのに……相川……許せん……


 なんて考えてる俺は、相変わらず自室のベッドの上で横になり、ダラダラと過ごしている。

 おっと足音が聞こえる。

 どうせまた母さんだろう。

 また小言を言われる前に、勉強しているフリをするか。


 ガチャ

「淳一、またダラダラ……してないのね? あらやだ淳一勉強してたのね偉いじゃない」


 とっさに教科書を開いて、シャーペンを持っただけでこの反応だからうちの母さんはちょろい。


「なんだよ、俺今勉強してるんだけど?」

 似合わないセリフを吐く。

 普段だったら死んでも言わないだろう。


「あ、そうそうあんたに用があるって来てる子いるから玄関来なさい」

「誰だ?」

「それが初めて見る子だから分からないのよ。とにかく来なさい」


 母さんがそう言うので、仕方なく玄関へ向かった。

 玄関に着くと、そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。


「お! 淳一くん! ハロー! 来ちゃったっ!」

「な、何しに来たんだよ真柴! てかなんで俺んち知ってんだよ!」

「この辺のご近所さんに聞いたんだよ〜ご近所さんの情報網は偉大だねえ。この前別れたとこからすごく近かったから助かったよ〜」


 ご近所さんの情報網すげえ。

 てか、真柴が俺の家をご近所さんに聞くことによって要らぬ尾ひれがついたりしないだろうか。

 現に今、俺の後ろで母さんがニヤニヤしながら俺たちのやりとりを見てるんだが。

 母さん俺のことよくご近所話のネタにするからなあ。

 後で口止めしないとな。


「で、何しに来たんだよお前」

 俺がそう聞くと、真柴はニヤッとした顔をした。


「よくぞ聞いてくれた! 淳一くん! 私と一緒に花火大会に行こうではないか!!」

 真柴が勢いよく右手を俺の前に差し出しながらそう言った。

「は? 花火大会?」

「そうそう! 花火大会! ってことで行くよ〜!あ、お母様淳一くん借りて来ます!」


 俺が返事をする間も無く、俺の手を掴み真柴は俺を外へと連れ出した。



「おい真柴! どういうつもりだよいきなり外へ連れ出して」


 真柴に手を引かれ、外へ連れ出されてしばらく歩いたところで俺は真柴に問う。


「ふふん、それは簡単なことだよ淳一くん。そこに花火大会があるからだよ!」

「登山が山を登る理由みたいに言うな。んで、なんでいきなり花火大会なんだ?」

「いやー、まあー、淳一くんと一緒に花火大会行けたらななんてね」


 え、俺と花火大会行きたいって言ったのかこいつ。

 いったい何でだ?

 予想外の答えで、俺がしばらく無言でいると、真柴が続けて言った。


「……実は私、小説書いててね……その小説に花火大会の場面入れたいんだ。だから取材として花火大会行っときたかったんだ」


 いつもは砕けた感じで話す真柴だが、真剣な顔でそう話した。


「ふーん、取材でね。でもそれ俺が行く意味なくないか?」

「気になる人と花火大会に行くっていう設定だから、淳一くんを誘ったんだよ〜」

「気になる人ね……って俺かよ!」

「なんてね。嘘だよー。淳一どうせ暇かなって思って迎えにきたんだ」

「お前……変な嘘つくなよ」

「ごめんごめん。私好きな子をいじめたい人だもん」

「またお前変なこと言うな!」


 俺がそう言うと、真柴は舌を出して笑った。

 まあ、こいつが言うことは大体冗談だろうから気にしちゃいないがな。

「ごめんごめん。それで淳一くん私と一緒に花火大会行ってくれるかな?」

「うーん……少しだけでいいならいいけど」


 少しだけなら大丈夫なはずだ。

 唯と相川に遭遇する恐れがあるが。

 来場者数がかなり多い花火大会だ。

 確率はそんなに高くないだろう。

 唯と相川が並んで歩いてるのを見たらショックで死にそうだが。

 この前のライブを観させてくれた借りを返したい気持ちがあるしな。


「やった! さすが淳一くん! 大好き!」


 真柴はそう言うと、俺の腕に抱きついた。

 自然と真柴の胸が腕に当たる。

「バカくっつくな」

 こっちも恥ずかしくなってしまって腕を振りほどくことしかできないのが情けない。

「恥ずかしがりだなあ淳一くんは〜」

 家に財布を忘れたので一度家に戻り財布に取りに行った。

 家に戻ると案の定、母さんに根掘り葉掘り聞かれたが、面倒だったのでスルーした。



 俺と真柴は、歩いて花火大会の会場である、丸滝川へとやってきた。

 会場には、花火大会が始まるのは18時からだというのに、現在16時時点で人で溢れていた。

 浴衣姿の人が多くいて、今から場所取りをするつもりなのだろう、各々で持ってきたレジャーシートを敷いていた。


 小さい子供が今から、「まだかなあ、まだかなあ」と待ちきれないとばかりに繰り返していたり、団扇で扇ぎながら夕方からビールを飲んでいるおっさんもいたり、屋台が多くでていたりみな浮かれている。


 まあ、今日は地元の一大イベントだから気持ちはすごく分かる。

 俺もなんだかんだイベントごとがある時の、非日常感がたまらなく好きなのだ。

 現実逃避主義な俺だからこそなのかもしれないが。


「んで、お前の取材とやらはどんなことをするんだ?」

 どうやら真柴は、小説家志望であり、小説の中で花火大会の場面を描きたいらしくここにきたようだ。

「ふっふーん。任せたまえ淳一くん! ちゃんと考えてあるぜぇ!」

 真柴はガッツポーズをしながらそう言った。

「何やら心配だが……まあお前に任せるよ」

「ふふ、任せたまえ!」


 そう言った真柴について行くことにした。

 真柴はとりあえず、花火をいい場所で見たいからと土手沿いにレジャーシートを敷いた。

「場所取りもしたことだし、よし淳一くん! 出店回るよ!」

「出店ねえ。どこ回るんだ?沢山ありすぎるんだが」

「ふっふーん、もうリサーチ済みさ! とりあえず回りたい出店リスト作ったからこれ制覇するよ!」

「……ぱっと見20個くらいあるんだが?これ全部回る気かよ!」

「当たり前だよ淳一くん!あとここから先は手繋いでもらうからね〜」

「はあ!? なんでそうなる!」

「小説の取材だよ〜、気になってる男女同士が手を繋いで歩くシーンがあるのだよ淳一くん!」


 真柴はそう言うと俺の手を取り、いきなりいわゆる恋人繋ぎをしてきた。

「離せ!」

「だめだよ〜今日は1日協力してもらうんだからね」

 手を離そうとするが、真柴の握力は思ったよりも……というより、桁違いに強くなかなか逃げることができない。

 ていうか手が痛い。

 これはもう観念するしかなさそうだ。

 下手に反抗すると、俺の手がもってかれてしまう。


「観念したようだね淳一くん」

「完敗だよ……お前がこんなに力強いとはな。まあ強いだろうとは思ってたけど」

 バイトで重い機材とかも1人で軽々運んでたからなあ。

「ふっふっふっー私を甘く見ないことだね淳一くーん! よーしじゃあまずはヨーヨー釣りからだー! レッツゴー!」

 真柴の勢いに圧倒され(威圧とも言えるが)結局、手を繋ぎながら出店を回ることになった。

 唯たちに出くわさぬようなるべく気配を消して歩いた。


「へーいらっしゃい! そこの兄ちゃん! 彼女にヨーヨー釣り上手いとこ見せてやんな!」

 出店の店主に声をかけられた。

 彼女って……

 まあ仕方ないか。

 男女が手を繋いでいたら恋人だと思うだろう。

 だが違うんだけどな!

 俺が好きなのは唯なんだからね!

 勘違いしないでよね!


 しぶしぶヨーヨー釣りをし、ヨーヨーをゲットすることができた。

 真柴にゲットしたヨーヨーをあげると、子供みたいな笑顔で喜んで遊んでいた。

 ほんと無邪気だよなこいつ。


 そのあと射的やら、くじ引きやら、金魚すくいやら、色々な出店を回り残すところあと1つとなった。


「あと1つでラストだよ! 淳一くん!」

「はあっはあっお前……景品取り過ぎ……射的の時なんて店主ビビってたぞ! 店の景品ほとんど持ってきやがって」

 真柴は、こういった祭りの遊びは得意な方らしく、景品を数多くゲットしていった。

 故に俺の両手には、景品が入った袋で塞がっている。

 当たり前だが、もう手は繋げない。


「えへへ〜私こういう才能はあるみたいなんだよね〜」

 満面の笑みで真柴は笑う。

 そんな真柴のことを、今一瞬可愛いと思ってしまったが気のせいということにしよう。

「次はどこだ?」

「次はね〜ここだよ!」

 真柴がそう言い指差したのは、お面やらおもちゃやらが売っている出店だった。

 最後と言うから何だろうと思ったが、ただのおもちゃ屋じゃないか。


「ここから先は淳一くんの腕の見せ所だよ!」

「何だよそれ」

「結構無茶振りなんだけどね、ここのおもちゃ屋さんで私の小説に出てくる男の子が好きな子にプレゼントを買うんだけどそのプレゼントを淳一に選んでもらおうかなって」

 何故か真柴は、恥ずかしそうに俺を見つめる。

「私男の子がどんなものを好きな子にあげたいのか分からないから…やってくれる?」

「……しゃーねえな」

 ていうかなんでこんなおもちゃ屋で選ぶ必要があるんだよ!

 っていうらツッコミはナンセンスな雰囲気だから言えないが、なにか理由があるのだろう。

 真柴はそんな顔をしていた。


 俺の好きな人……

 それは唯だ。

 唯にあげたいプレゼントか。

 最近ずっと悩んでたな。

 どんなものをあげたいか。

 何度考えても思いつかなかったから、このおもちゃ屋にある限られた商品の中で見つけるのもいい。

 ……これだ。

 俺はおもちゃ屋にある商品の中から、それを見つけ出した。


「これだ。俺が選ぶプレゼントは」

「……可愛い指輪」

 俺が選んだのは星の型をしたおもちゃの指輪だ。

 唯は星が好きだから、喜んでくれると思ったのだ。


「……ねえ、淳一くん。これ……つけて?」

 さっきから真柴が妙にしおらしくなっている気がする。

 急に顔を赤くしている。

「あ、ああ」

 そんな真柴の態度に思わず、返事をしてしまう。

 俺は真柴の人差し指に指輪をつけようとした。

 すると、真柴がこう言った。


「……左手の……薬指」

「え……お前左手の薬指ってお前……」

「いいからあ!淳一くんは私の言う通りにしてよ!」

 急に照れながら怒ってきた。

 なんなんだよこいつ。

 言う通りに左手の薬指に指輪をはめていく。

 それと同時に、真柴も多少ドキドキしているのか手が微かに震えていた。

 なんか…俺もドキドキしてきたんだが。

 指輪をはめ終わったその時だった。


「あれ? 淳一くん?」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の方を見るとそこには相川と唯が立っていた。



「淳一くんも来てたんだね! えーと、そちらの女性は?」

「えーっとただのともだ……」

「はーいっ! 初めまして! 淳一くんの彼女の真柴弓月でーす!」

 俺の言葉を遮る様に真柴が言った。


「初めまして! 僕は淳一くんのクラスメイトの相川です。そっかあ淳一くん彼女出来たんだね!それで指輪はめてたんだね!言ってくれたら良かったのに〜」

 相川がニヤニヤしながら俺を見る。

「違う! 彼女じゃねえ!」


 そう言って、唯の方を見ると、唯は何故か含みのある笑みで俺を見ていた。

「へっえー! 良かったじゃない淳一。こんなに可愛い彼女が出来て。まあ私には関係ないことだけどね。行こ相川くん」

 唯はそう言うと俺が誤解を解こうとする間も無くどこかへ行ってしまった。


「あー……ごめん私余計なこと言っちゃったね…冗談のつもりだったんだけど……」

「…………いやもういい」


 真柴が彼女と言ったところで、指輪をはめてるところを見られたんだ…その時点で、もうしょうがない。

 言い逃れのできない浮気現場を見られた様なものだ。


 結局、その日は真柴に気を遣われ、この後すぐ帰ることになった。

 真柴に気を遣われたことを情けなく思った。



「まったくおじいちゃんは前回私が言ったこと忘れてたでしょ」

「ごめん、覚えてない」

 ドスッ。

 由夏の腹パンが繰り出された。

 花火大会の後家に帰り、自室で寝ようとしたらいつものごとく由夏が現れた。

 こいつは唯と俺の孫。

 唯と俺が結婚する未来から来た。

 故に唯譲りのパンチ力を持っている。


「自分からアクション起こせって言ったじゃない。なのにあんな女と花火大会なんか行って……馬鹿じゃないの! 唯おばあちゃんも行くってのにリスク高すぎよ! 変なとこでアクション起こしてるんじゃないわよ!」

「おっしゃる通りでございます」

「どーせ胸でしょ! おっぱい大きい子が好きなんでしょ! ほんと男ってサイテー!」

「まあ、お前は唯に似ておっぱい小さいもんな」

 ドスッ

 二度目の腹パンが繰り出された。


「うるさいっ! ちょーしに乗るな! とりあえずまた戻してあげるけど、おじいちゃんは危機感なさすぎ! あとあの女とのフラグ立ててる暇あったら唯おばあちゃんとのことどうにかしなさい!」

 真柴のことはそういう対象では見えないが…

 余計なことを言うのはよそう。


「分かった! やってやるぜ!」

「……期待せずに見てるわ」


 由夏はそう言うと俺の前から消えた。

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