うつるもの
いつもあなただけをみています
陳腐な恋愛小説の一節に出てきそうな文章
でもそんなちんけなものではないことは自分自身が一番よく知っている
初めはちょっと目が合う程度
仕事の合間に顔を上げるとちょうどいい位置いるから
気まずくてちょっと微笑んで軽く会釈したら慌てて目線をそらされた
ここから目が合う頻度が多くなっていった
けして何か意図して合わせているわけでもないのに
次第に常に視線を感じるようになっていった
そして視線の先にいるようになった
執拗に見られて体中を蛇が這っていくいるような居心地の悪さを感じるようになった
顔を上げ視線を合わせることに恐怖を感じるようになった
そして視線は昼夜問わず感じるようになった
振り返れば嗤うように見つめてくるようになった
そんな恐怖からあなたは救ってくれた
視線から解放いてくれた
私の瞳にはあなたが映るようになった
目を合わせるたび微笑んで軽く手を振ってくれるあなたを自分の目に焼き付けるように私はあなたを見続けた
いつからだろう
あなたの顔から笑顔が消えたは
恐怖に引きつるあなたが現れたのは
私はただあなただけを瞳に映したいだけなのに
そしてあなたは私の視線から外れるようになった
理由が分からずただただ執拗にあなたを探した
でもあなたの瞳は私ではなく他の人を入れるようになった
あなたを見た最後の時
あなたの目に私があの日感じた視線と同じものを見つけた
私は理解してしまった
…あぁ、こうやって視線は伝染していくんだと