対決
ある一族……李一族という。彼らは国に誇りを持ち、常に最強を目指していた。「黒龍剣」を欲しがるのもそのためだ。歯向かうものには容赦しない、非道の一族としても知られていた。
李一族の国の大使が亡くなってから一週間後、彬子は新しい就職先に来ていた。働かなければ生きていけない。とはいえ、実は株を運用しており、彬子はかなりの金持ちだった。そうでなければ、部下を抱えることも出来ない。しかし、一般人に紛れ込むのが、一番見つかりにくいのも確かだ。「木は森へ隠せ」とはよく言ったものだ。
しかし、時期が悪かった。李一族の総帥は日本にやって来ていた。またしても職場に押し掛けられた彬子だが、今度は丁寧な迎えだった。もちろん彬子が指定場所に来なければ、会社を破壊するとの脅し付きだが。
李一族が指定場所に選んだのは、とある高級ホテルのロビー。黒木たちは陰から見ることにした。彬子は自分の部下だと知られるのは、弱味を握られることだと思ったからだ。
そして、当日。彬子がホテルのロビーへ行くと、年配の執事風の男が話しかけてきた。
「相模様でしょうか?」
「はい、そうです」
「我が主がお待ちです。こちらへどうぞ」
ホテルの部屋へ案内されると思ったが、意外にもロビーにあるカフェだった。
その男は悠然と座っていた。
「相模様でございます」
「ご苦労」
「彬子殿、失礼。名前で呼んでも構わないかな?」
「……どうぞ」
「とりあえず、お座り願いたい」
「……わかりました」
彬子は男の前の席に座った。彬子は男を観察した。歳は三十代後半くらい。にも拘わらず泰然としている。
「そんなに見られると照れますね」
「……失礼しました」
流暢な日本語だ。しかし、ここで呑まれる訳にはいかない。なんとしても「黒龍剣」を守らなければ。
「彬子殿、もうお分かりかと思うので、率直にお話しいたす。『黒龍剣』を譲り受けたい」
「あなたはどなたです?名前も名乗らないとは失礼ではありませんか?」
「これは失礼した。私は李一族の総帥、李 天だ」
「総帥自らお越しとは恐れ入ります」
「『黒龍剣』には、それだけの価値がある。先程も申した通り、譲り受けたいが如何か?」
「それは無理です」
「何故だね?」
「あなたは『黒龍剣』の使い手にはなれません」
一瞬男の目が光った。
「ほう、その理由は?」
「『黒龍剣』を継ぐには、条件があります」
「どのような?」
「それは継ぐものにしか教えることは出来ません」
「では、我が一族の中で選んでも良いのではないか?」
「それも出来ません」
「何故?」
「『黒龍剣』は私の代で終わるからです」