出発
彬子は会社をあとにした。三年勤めた会社。それなりに愛着もあった。しかし、運命の歯車は動き始めてしまった。
会社は彬子の部下である黒木が上手く片付けてくれるだろう。今までもそうだった。
彬子は二十七歳。顔は綺麗な部類に入るだろう。だが、彬子の瞳は意思の強さを秘め、顔立ちを中性的なものにしていた。
彬子は今まで転職を重ねてきたが、三年続いたのは、この会社だけだった。彬子は溜め息をつき、自宅へと帰った。
彬子は家で支度を整えていた。戦う支度だ。そんなときに、黒木と村尾がやって来た。
「黒木、首尾は?」
「つつがなく」
「村尾、詳しい状況を」
「はっ、彼らはここも突き止める寸前です。すぐにご移動を」
「彼らの人数は?屋敷の見取り図はあるか?」
「ございますが……まさか乗り込まれるおつもりですか!?」
「待っているのは性に会わない。それに、街中で事を起こされても困る。それなら彼らの屋敷の方が都合がいい」
「危険です!」
「わかっている。だが、彼らは私を殺せない」
「手勢はどれ程集めますか?」
「私一人で行く。足手まといはいらない」
「……足手まといですか?」
「そうだ。今日の件を見ても、人質をとられたらやりにくい。その点私一人なら忍び込むことも容易だ」
二人は黙りこんでしまった。彼らの主は一人で乗り込むと決めてしまった。一度決めたら、てこでも動かない人だ。それに、自分たちが彬子の足手まといにならないという保証はなかった。
彬子は念入りに武器の確認をした。腕には小型ナイフが十本ほどつけられ、二の腕には針を仕込む。そして、肩から下げたホルダーには拳銃が二丁。サイレンサー付きだ。足のブーツにも小型ナイフを仕込み、最後に腰の後ろに大型とも小型とも言えない、その中間くらいの大きさの古ぼけた剣を差した。
「じゃあ、行ってくる」
短い言葉とともに、彬子は出発した。