生き物
「黒龍剣」は一子相伝のものだ。後継者に継承の儀が終わると、前任のものは生きていることは出来ない。
これは継承者のみに語られることだが、新しい継承者は前任者を殺すのである。殺すという表現も違うかもしれない。「黒龍剣」に命を吸わせるのだ。千年以上も続いている「黒龍剣」と呼ばれる剣は生きている。使い手の命を糧に生きているのである。使い手である以上、生涯剣に命を吸われて生きることになる。それに耐えられずに、皆後継者を探す。ある者は大陸を渡り、別の大陸まで後継者を探しに行った。もちろん後継者が誰でも良い訳ではない。後継者を選ぶのも、また剣なのだ。
そして、「黒龍剣」の使い手たちは自分の命を吸われ、枯れ果てるのに耐えきれず、後継者に殺されることを選んできた。
千年以上も、負の連鎖が続いている。彬子は負の連鎖を断ち切るべく、後継者探しはせずに、剣と一緒に滅びることを選んだのである。
千年以上前、初代の「黒龍剣」の使い手は、その国に必要だった。激しい動乱の中、それを終わらせる役目を請け負ったのだ。誰よりも強く、柵もなく自由に動ける者が必要だった。だが、今の世の中、毒となるだけだ。彬子はそれを知っていた。だからこそ、「黒龍剣」を李一族に渡してはいけない。「黒龍剣」の使い手たちは、皆悩み苦しんだ末に死んでいったのだ。
あと何年生きていられるかはわからない。彬子はその恐怖とも向き合い、生きている。そして、最期をどこで迎えるか……それも考えていた。剣が生きているなど、誰に言っても信用してもらえないだろう。そして、自分が枯れていくことも。
そろそろ潮時かもしれない。李一族のことが片付いたら……。