清純・清楚な女主人公書こうと思ったら…どうしてこうなった…
久しぶりに何か浮かんだと思ったらこれだよ!!
感想みて少し改稿してみました(粉蜜柑)
2015/11/20
戦争の終結を告げる大陸中に響いた轟音と轟雷。
アルディア歴1238年魔族との戦争が終結した。
しかし、まだ戦いは終わってなかった。
魔族が邪龍の封印を解いてしまったのだ。
それを倒すべく、再び勇者は闘いへと駆り出された。
それから一月。
リスティアはたった一人、彼の帰りを待っていた。
「勇者様!」
―――見えた。
リスティアが間違えるはずがなかった。
長い階段を息も切れ切れに駆け下りながらリスティア姫は叫んだ。
長い階段を急いで駆け降りたせいか、リスティアの顔にうっすら汗が滲み頬は赤く染まっていた。
手を振って応えた青年は、王宮の玄関ホール前の兵士が警護しているところを移動中だった。
「勇者様ご無事ですか!
お怪我はありませんか!!」
近づいて彼の腕を取ろうとしたとき、リスティアの表情が歪んだ。
彼の腕に気づくと、リスティアの頬には自然と涙が伝っていた。
「…ゆ、勇者様……」
涙が出たことに気がついても、声が震えるも必死に声をだす。
彼を呼ぶ。
その顔に横一閃に切傷。
深くかぶったフードに隠れて今まで見えなかったが、彼の左腕はなくなっていた。
どれほどの激戦だったのか、見るまでもなかった。
彼は、それを見てわずかに苦笑いした。
その安心させようと無理に顔を作ったことが、リスティアをさらに苦しめた。
「……大丈夫だ…」
彼のその言葉が、深くリスティアの胸に刺さった。
魔族との戦争終結前、同じものを見た。
ふいに彼の苦笑いがゆがみ、寂しい表情をみせた。
「大丈夫、大丈夫」
リスティアは彼の手で頭を撫でられていることを知って初めて、自分が泣いていることに気がついた。
なんて暖かく大きな手なのだろうか。
「どうして、ここまでしてくれるのですか!
この世界のこと、私のこと、全て救うなんて……どうしてそんな無茶を!?」
リスティアの化粧が落ちるほど濡れた瞳が、まっすぐに彼を捉えた。
それはリスティアの心の叫びでもあった。
彼は視線をそらすように、頬をかいた。
「俺がこの世界の勇者だから。
俺はこの世界を救う力を持っている。
戦争の時も、今回の竜のことも、全部やらなくちゃいけないと思ったから」
彼は優しく、リスティアの手を振り払った。
「それでも…それでも、勇者様は無茶をしすぎです」
悲痛な小さな叫びが、騒がしくなりつつあるホールに静かに響いた。
払われた手をもう一度、繋ぐ。
今度はもう離さないように。
「もう勇者様の役目も終わりでしょう。
お願いします。
私と――――」
リスティアの必死の呼びかけは、彼の後ろからの大声によって遮られた。
リスティアはすぐに後ろを振り向く。
「―――勇者!!早く行って治療しよう!!
その怪我では間に合わなくなるぞ。
今日は無理して顔出したんだからな…みんな外で待ってるぞ!!」
「魔法使いさん…」
二人だけの世界は、簡単に、そして脆く砕けていく。
催促する声の持ち主は、深く黒三角帽子をかぶった魔法使い。
勇者、賢者、剣聖、拳聖そしてこの大魔法使い。
勇者とともに戦争を終わらせた者。
勇者の隣に並ぶ者。
女でしかも勇者と幼馴染。
その関係は私よりも深いことは分かっていた。
彼女が勇者を支えなければ、おそらくこの戦争は負けていただろうし彼女の存在はそもそもこの世界に疑問を抱いていた勇者にとっての支えであるように見えた。
彼女の存在が勇者にとって大きいことは分かっていた。
それでも、それでも――――
その魔法使い瞳がリスティアを捉えると、途端にリスティアは言葉が出なくなった。
その眼がリスティアに有無を言わせない。
――どうして…どうしてッツ!?
「ああ分かってるよ魔法使い。
それじゃあ、姫様、また」
――ああ、また行ってしまう。
言いたいことはまだたくさんあった。
彼が遠くに行くにつれ、それがはっきりと脈打つ音だとわかるようになると、リスティアは胸を押さえた。
「……っ!!」
とっさに彼に手を取り、捕まえようとしたリスティアだったが、その手は虚しく空を切った。
――ようやくわかった。
これが何なのか、知るまで相当時間がかかったのに。
もう二度と目の前から消えてほしくない。
リスティアはそう思って、手を今一度伸ばそうとしたが、身体が動かなかった。
彼女とは対照的に、魔法使いの女は彼の手を握り、一緒に歩きだしていた。
彼女に捕まってしまえば、治療の間中はきっと彼に会えない。
いや、きっともう会えない。
――もう少し私が積極的なら…
彼とすれ違いこちらに向かってくる婚約者である大国の王子は、ひどくかっこ悪く見えた。
まだ間に合うと思ったリスティアだったが、後ろからようやく駆けつけた大臣たちが、ひどく慌てて王子に対応しているのを見ると、彼女はまるで自分が罠にかけられたように感じた。
「勇者様っ!!」
ここにいてほしかった。
ただ隣にいるだけでよかった。
「まだいてよ!
もっとお話を聞かせてよ!!
私だけを――――」
その温かい手で、もっと頭を撫でてほしかった。
しかし、今彼が見ているのは魔法使いの女。
政治や結婚が絡んだ話が、リスティアの後ろでまた始まろうとしていた。
何かを話しかけられたが、それでもリスティアの視線は彼と魔法使いを捉えたままだった。
――見てよ……
声は遠くに。
歩み寄ってくる王子側の大臣たち。
リスティアは彼から引き離される寂しさを感じながら、踵を返して階段を上り始めた。
突然、お尻から強烈な不快感が背中をかけた。
「きゃあっ!?」
その手を振り払おうと、片方の手で叩いた。
すぐに、後ろ側は騒がしくなった。
誰がやったのか、何をされたのか、わかっていた。
彼は下卑た笑いを浮かべながら。
叩いた手はひりひりと、そして心も痛かったが、リスティアは止まることなく、また階段を上った。
周囲の声を無視した。
途端に、後悔がこみ上げくる。
悔しさに唇を噛み締め、白手袋が悲鳴を上げる。
城のメイドが駆け寄ってくるが、それを手で制して誰も近づけなかった。
ようやく誰も話しかけてこなくなり、ぐっと堪えていた涙が、リスティアの頬を伝い始める。
自分の部屋の扉に目も留めず、長く装飾された通路を駆けていく。
見張り塔の階段へそのまま飛び込み、リスティアは紅く覗いた空を見上げた。
「…あ、ああ……」
紅く染まった薄い雲の隙間から、鈍い光が差し込む。
彼女は下を見下ろし、そして目を剥く。
勇者とそれに付き添っている魔法使い。
その光はまるで二人を祝福するかように。
「くっ…!!」
抑えきれない思いは、暴走し始め、スカートの中に隠し持っている護身用の小剣を取りだし、闇雲に振り回した。
「ふざけるな!」
姫としての立場があった。
「ふざけるな!」
王族としての義務があった。
「ふざけるな!」
それらが全て、リスティアを縛っていく。
「ふざけるなッツ!?」
それらが全て、リスティアから奪っていく。
どうしようもなかった。
何もできなかった。
数分してようやく落ち着いたのか、リスティアは彼を見ることなく来た道を戻り始めた。
心の中の黒く、おぞましい何かが全身に染み渡り、彼女はまるで城の中で一人のように感じた。
もはや止まることはない。
止まるはずもない。
私には彼しかいないのだから。
彼には私しかいなのだから。
嗚呼。
嗚呼。
あは。
だから―――
「―――待っていてください。
私の、私だけの、私だけの勇者様」
彼女のように白く美しい手袋は真紅に染まっていた。
どうしてこうなった。
うま、かゆ。