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短編

ただ文字が読めるだけ

作者: 如月あい

 七月一日


 今日はよく晴れていた。梅雨時の晴れって、なんだかとても得した気分になれる。

 だから今日は俊ちゃんに電話してみた。そうしたら遊んでくれるっていうから、私はもう嬉しくって。それに、俊ちゃんは私が見たいと思ってた映画に誘ってくれた。俊ちゃんって本当に私のこと分かってる。

 いつだってそう。俊ちゃんって心が読めるみたい。でもそんな私のこと分かってくれてる俊ちゃんが大好き。分かってくれなくてもきっと好きだけどね。

 映画は本当に素敵だった。

 ある日優しかった彼氏が急に冷たくなって、主人公の女の子はショックを受けるの。それでもすがるんだけど、嫌いだって言われて別れてしまう。でも実は、彼氏は病気で余命一年だって分かって……。ああ、もうここまで書いただけでも涙が出ちゃいそう。

 俊ちゃんはベタだったな。としか言わなかったけど。でも、でも、すごく感動したんだから。

 たぶん、俊ちゃんはあんまり興味がなかったんだと思う。映画が終わったとき、ちょっと眠そうだったから。でも映画が終わった後に、楽しかったか聞かれて、楽しかったありがとうって答えたら、ふっと笑ってそうかって言ったの。

 俊ちゃんってクールだけど、そういうふとした瞬間の笑顔がずるい。本当に大好きだなって思う。

 でも、こんなに日記には大好きってかけるのに、あんまり好きって言えなくて、俊ちゃんは不安じゃないかな。

 そういえば、十日後に文化祭があるけど、俊ちゃん来てくれるかな。

 土曜日は一般公開日だから、他校の俊ちゃんも来れるんだけど、なんて言って誘おうかな。由美は彼氏なんだから誘って当たり前って言うけど、俊ちゃん、文化祭とか興味なさそうなんだもん。

 それに、断られたらショックで文化祭楽しめないし。

 由美は打たれ弱すぎって言うけど、俊ちゃんけっこうばっさりしてるんだから。そんな俊ちゃんが好きなんだけどね。

 ああ、もう大好き。

 とにかく、次に会った時に誘ってみなくっちゃね。



 七月三日


 今日は雨だった。でも、俊ちゃんと会えたからいいかな。今日は俊ちゃんが家に遊びに来てくれた。

 いつものように紅茶を淹れて、俊ちゃんをもてなす。家にいるときは、私が俊ちゃんにくっついても怒られないから好き。

 そう思うと、俊ちゃんって恥ずかしがり屋さんなのかな。

 でも私もなんだかんだで外では手をつなぐのが精いっぱいだから、似たようなものかもしれない。

 そうそう。これを書かなきゃ。

 話の流れで文化祭の話になった。そしたら、俊ちゃんが言ったの。

「一般公開してるの?」

 もう私嬉しくって、思わず俊ちゃんに抱き着いちゃった。そしたら俊ちゃんが、暑いって一言。

 ひどい。

 でも、やっぱり嬉しくて、来てくれるって聞いたら、暇だから行くって。

 もう嬉しい。

 暑いって言われてもひっついていたかったけど、俊ちゃんの顔が赤かったから、慌てて離れた。そんなに暑かったのかな?

 扇風機は回してたんだけどな。

 今日は嬉しかったから”明日花の日記”って書いてある表紙を更にペンで華やかにして見た。うん。これなら棚の端から覗いても、綺麗だしかわいい。


 

 七月十日


 今日は文化祭の一般公開の日。

 俊ちゃんが来てくれました。

 もう本当に嬉しかった。クラスでは模擬店を出してたんだけど、そこまで迎えに来てくれたの。クラスのみんなに冷やかされて恥ずかしかったけど、店番を免除してくれたからみんな大好き。

 おばけ屋敷にも入って、私が抱き着いたら、大丈夫だからって言いながら腕を組んでくれた。もう、それが嬉しくって。怖かったけど、ほんとに怖かったけど、幸せだったなあ。

 それに、お化け屋敷から出てもまだしがみついてたけど、もう大丈夫だって言いながらも、腕をほどかないでいてくれたの。

 そのあと模擬店で飲み物を買ってくれて、私が落ち着くまでベンチで座ってたの。まだ一つしか出し物をみてないのに、俊ちゃんはじっと待ってくれたの。

 せっかく来てくれたのに、ごめんねって謝ったら、ちゃんと楽しんでるからって言ってくれたの。 

 でも、今度からお化け屋敷は最後だなって。

 今度だって!

 次があるって言ってくれたのがもう、嬉しくて。でもそう言ってくれるなら、遊園地に誘ってみようかな。 

 遊園地と言えば観覧車だよね。

 でも二人っきりになっても好きだなんて言えないかも。

 俊ちゃんもそういうことあんまり言ってくれないけど、私だって言わないからお互い様だよね。


 ああ! 書き忘れるところだった。

 今日は言ってくれたんだった! あの時の俊ちゃん、ビデオで撮っておきたかったなあ。俊ちゃんのこの言葉、私はきっと忘れない――









「――ああ、もう。恥ずかしい」

 俺は読むのを止めて思わず声に出してつぶやいた。

「遊園地ね。つーかこいつ、いつになったら気づくんだろう」

 俺は明日花の日記帳を元の位置に慎重に戻す。

 気づいて欲しくはないが、このまま気づかれないと、明日花が日記を書かなくなった時に困る。

 もちろん単純な明日花の心なんてわかりやすいと言っちゃわかりやすいが、日記が無ければ今までほど明確に何が欲しいかを知ることはできなくなるだろう。

「お前の心が読めるんじゃなくて、俺はただ文字が読めるだけなんだけどな」

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