色んなことを説明してくれる長老は、とにかく説明の仕方がハンパない。
俺たちは長老のそばへと歩み寄る。
そしてそのまま長老としばらく無言で見つめ合っていた。
立っているのは失礼だと思い、俺はリーリンに目で合図してその場に一緒に座り込む。
長老と同じ目線位置。
それも失礼だと思い、俺はさらに小さく縮こまるようにして身を丸め、長老よりも低い目線位置になった。
リーリンも俺に合わせるように身を低くする。
……。
長老は何も言わない。ただ黙って俺たちを見ている。
もしかしてこれ、俺が先に話し出さなければいけない雰囲気か?
俺は口を開こうとした。
だが、俺の言葉をさえぎるように手で制し、長老は無言で俺とリーリンをじっと見つめ続ける。
やがて長老は俺に言った。
「そなたはこの世界で何を望む?」
いや、特に何も望んでないです。
長老がリーリンへと視線を向ける。
「ではそなた。そなたはこの世界の何を望む?」
リーリンが答える。
「私はこの人とともにこの世界を魔王の悪の手から救いたいと考えています」
「魔王は強いぞ?」
「大丈夫です。この人の力があればきっと魔王を倒せます」
他力本願かよ。
「ふむ。どうやら二人とも、この世の情勢を知らぬと見受ける。ワシから話を聞いておかなくても良いか?」
それを聞いたら何か変わりますか?
「変わるかもしれぬし、変わらぬかもしれぬ。全てはそなたの選択次第じゃ。――さて、どうする?
→ この世界の説明を聞く。
長老と話すのをやめる。」
→ この世界の説明を聞く。
「ふむ。――それは遠く昔にさかのぼる話。この世界がまだ二つの国に分かれて争っておった頃の話じゃ。神の力を持つ巫女が統べる【白の帝国】と、この世の支配を目論む魔王の勢力【黒の皇国】。その二つの国は互いに多大な犠牲のもと、長く長い戦争をしておった」
リーリンがとても真剣に長老の話を聞いている。
でもその隣で俺は、内心でずっとキー連打して話を倍速で飛ばしたい気分だった。
長老の話がとても長かったことだけは覚えている……。
そして長老は最後に話を締めた。
「魔王との戦いは今尚続いておる。やがて巫女は一人の勇者を魔王討伐に派遣した。それがそなた──」
え? 俺?
「ではなく、そなた」
長老はリーリンを指差した。
フェイントだと!? 何の意味で!
「リーリンよ。そなたは巫女に選ばれし勇者。そうであろう?」
リーリンはこくりと頷く。
「はい」
「しかし、そなたは勇者としての力は持たぬ。なぜならそなたは村を出たばかりのレベル1の村娘。
だが、そなた──」
長老が俺を指差す。
俺?
「そなたの中には恐ろしい力が眠っておる」
俺の中に?
「勇者とともに魔王を倒しに行くがよい。それがそなたの運命となろう。なぜならそなたは──『へっぶしッ!』──だからじゃ」
長老の大事な言葉の一部がおっちゃんのくしゃみでかき消された。
俺は静かに挙手をする。
あの、すみません。もう一度さっきの言葉をいただけますか?
長老は無視して何事無く話を進める。
「今夜はこの村で眠るがよい。だが明け方には早々にこの村を発て。
──魔王の配下がそなた達に迫り来る前にな」
その言葉を残し、長老はその場を立ち上がるとそのままどこかへ立ち去っていった。