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名前を聞かせてくれないか?


 町を出て。


 俺は密林のジャングルのような森をかきわけ、彼女と一緒にさまよっていた。

 あ。チンパンジーが空を飛んでいる。

 スライムもいる。

 木に止まっている鳥も、よく見たら鳥じゃなく化け物といっていいほどの怪異な姿をしている。

 俺は現実逃避するように空を見上げた。

 生い茂る木々の間から見える空はとてもきれいな茜色をしていて、今が夕刻であることを知らせている。


 俺は彼女にぽつりと質問をした。


 すると彼女が俺の背を追いかけるように付いて歩きながら、目をぱちくりとさせ問い返してくる。

「私の名前、ですか?」


 あぁ。


「リーリンです」


 なぁリーリン。


「はい」


 この道で本当に合っているのか?


「え?」


 え?

 俺は足を止めた。


 リーリンも足を止める。

「私はあなたと一緒にどこまでも──」


 おっちゃん!

 俺は内心で思いきり叫んだ。


『なんだ?』


 【ポルナレタン】って町はこの方向で合っているのか?


『違うな。真逆だ』


 言ってくれよ! そういうことはもっと早く!


 ふいに。

 草を掻き分ける音が聞こえてきて、俺は振り返った。


 二メートルほどはある大きな黒ヒョウが低いうなり声を上げながら俺たちに狙いを定め、捕食体勢で忍び寄ってきている。

 戦闘だ。

 俺の脳に即座にその言葉が叩き込まれた。

 リーリンを背後に庇い、俺は戦闘体勢をとる。

 そして武器を構えようとして、俺は何も装備していないことに気付いた。

 

 ──しまった!


『アホだな』


 だったら最初に金ぐらい持たせてくれよ! 金無しの冒険者ってどういう設定だ!


『仕方ない。魔法を使うか』


 使えるのか!? 魔法が!


『……あ。やべぇ失敗した。さっき召喚に使ったから魔力があと2しか残ってねぇ。使えねぇな』


 どういう初期設定だよ! 全滅確実じゃねぇか!


 ある程度の距離で黒ヒョウが立ち止まる。

 鋭く牙をむき出して俺の隙をうかがっているようだ。

 俺にはどうにもできなかった。

 背後に庇うリーリンは動かない。俺の服をしっかりと掴んで怯えきっている。どうやら戦闘はできないタイプらしい。ってか、よく今まで無傷でいられたものだ。


 チャンスを察した黒ヒョウが勢いつけて俺たちに襲い掛ってきた。

 俺たちは身を竦めて防御の姿勢をとる。


 その時だった。


 鋭い矢が俺をかすめるようにして過ぎ去り、黒ヒョウの体を貫く。


蒼炎火(アーチェ)


 若い女性の声が響き、黒ヒョウが(あお)い炎に包まれる。


 ──魔法!?


 俺は振り返る。


 そこには森に差し込む一条の夕日を背に、弓を構えて凛と佇む一人の異国的な女性がいた。

 歳は二十代前半だろうか。獣の毛皮をあしらった服で豊満な胸と下半身を隠しただけの野生的な魅力を感じる金髪の美女だった。

 俺は吸い込まれるようにして、その女性の胸に目が釘付けになった。


 女性がどこかを向いて誰かに話しかける。

「ダーウィン、来て。人間がいる」


 するとその声を聞いて、その女性のそばに駆けつけてくる野郎が一人。


 俺は静かに舌打ちした。


『残念だったな』


 うるせぇよ。


 男とその女性がこちらに歩み寄ってくる。

 長い金髪を後ろで一つに束ねた長身の、二枚目顔な男である。

 近づいてきたことで、俺はようやく彼等が俺とは違う種族であることを知った。

 青いヘビ目、尖った耳。額には紋様を刻んだタトゥーが施されていた。ゲームで言うなら、エルフに近い種族である。


 男が身をかがめて俺を心配そうに見つめて尋ねてくる。


「人間、なぜ武器も無しにこの森をさまよう? ここは危険な森。我ら以外の種族が無闇に近づいたりしない場所」


 俺はどう答えていいかわからず言葉をためらった。

 すると女性が男──ダーウィンとやらに話しかける。


「いま私たちの村、討伐団来ている。きっとその仲間。討伐の途中で仲間とはぐれたと思う。案内人、この人間のそばにいない。人間二人、この森で迷子」


 女性の言葉にダーウィンが頷く。そして俺に告げる。


「赤竜討伐は終わった。お前の仲間、すでに我が村へと戻っている」


 赤竜討伐? 仲間?


 俺の目が自然とリーリンへ向く。

 そして思った。

 わざわざ【ポルナレタン】って町を目指さなくてもリーリンをそこへ預ければいいんじゃないか、と。



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