俺の職業はなんなんだ?
「ど、どど、ドラゴンだぁぁぁッ!」
男どもが悲鳴を上げて腰を抜かし、恐怖に顔を引きつらせたまま街のどこかへ逃げていく。
それと同時に、なぜか周りにいた街の人達までもが同じような面相で全員その場から逃げ出してしまった。
俺がおっちゃんに言われてやったのは召喚術。
地面に、上下二つの三角を重ね合わせた図形を描き、その図形の上に片足を置く。瞬間、地面が光ってポンと出てきたのは小さな翼を背中につけた愛くるしい子犬──
『ドラゴンだ』
この世界では【かわいい癒し系マスコット】と書いて【ドラゴン】と呼ぶそうだ。
『翼竜だ』
どうみても無理あるだろ、これ。普通ドラゴンっていったらもっとこうデッカくて、体も岩みたいにごつい感じの恐竜みたいな──
『脅すだけならドラゴンもこの程度で充分だ』
急に子犬がぱたぱたと背中に生えた小さな両翼を羽ばたかせながら地面を歩き、俺の足にまとわりついてくる。
うをっ! なんだコイツ、いきなり俺になついてきたぞ!
『そいつはお前の使い魔だ』
使い魔?
『そうだ』
ってことは、俺の職業は召喚士か?
『全然違うな。清々しいくらいに的外れだ。思いっきり外してくれて俺はすげー嬉しいぞ』
じゃぁ俺の職業はいったいなんだよ。
『お前の職業はあれだ。そのなんつーか……。いいか、これからは──』
オイ、今誤魔化しただろ?
『いいから聞け。この世界でお前の能力は全て俺が調整する。大きな能力は絶対に使わせない。使えば俺が困るから。すげー困るから』
自己中っぷりがハンパねぇな。
『ンなことより、今は目の前の幸せだ。後ろを見てみろ。俺は今すげー清純オーラを感じて胸がドギメギしている』
なんだよドギメギって。感情表現が間違ってねぇか?
「あ、あの!」
少女が俺の背の服をちょっとだけ掴んで言ってくる。
「さきほどは助けてくださりありがとうございました。私、この街に来たのは初めてで、どうしていいかわからなくて……」
どうやら彼女はおのぼりさんだったようだ。
ほんと、助けてあげてよかった。
俺は告げる。
この街は治安が悪い。もしこの街のどこかに知り合いがいるのなら、早めに見つけた方が──
言葉途中で、彼女が離れたくないとばかりに俺の背にすがりついてきた。
今にも泣きそうな弱々しい声が背中から聞こえてくる。
「突然こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、私をあなたの旅先に同行させてください。もちろんどんな場所にもついて行きます。私、絶対あなたの邪魔にならないようにしますから、お願いします。私を連れて行ってください」
『ほぉ。出会っていきなり求婚か。いいだろう。もちろん許可』
――してどうすんだ。どうしよう、おっちゃん。俺はこの世界の人間じゃないし、俺がログアウトしたら彼女は一人になる。どこか安全な街を教えてくれ。彼女をそこへ連れて行く。
『かー。これだから青くせーガキは。お前、好きな子に好きって言ったことないだろ? 好きな女の手を握ったことなんてないだろ?』
うるせぇ、ほっとけ。いいから近場で安全な街を教えろ。
『安全な街、か……』
どこがある?
『ここからしばらく西へ行くと【ポルナレタン】という大きな街が──』
「あの!」
彼女が俺の服を掴んで不安そうな顔で言ってくる。
「もしかして私を置いてどこかへ行こうと考えていませんか?」
俺は目を点にする。
……はい?
「もしかして私よりも先に魔王を倒そうとか考えていませんか?」
俺は首を横に振った。
い、いえ。全然。全くそんなこと考えていませんけど。
「もし良かったら、私と一緒に魔王退治に行きませんか?」
……へ?
「私、こう見えて──実は勇者なんです」