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出会い


 ――ふと。


 街のどこかで助けを求める少女の声が聞こえてくる。

 俺はすぐさま視線を巡らせた。

 そして見つける。

 ここから程よく離れた道の真ん中で十四、五歳ほどの町娘風の格好をしたかわいい少女が、いかにもガラの悪い三人の男たちに絡まれていた。


「やっと捕まえたぜ、嬢ちゃん」

「もうどこにも逃がさないぜ」

「いや! 離してください!」


 細く白い華奢な腕を男に掴まれ、少女はすごく嫌がっていた。

 なぜだろう。

 俺はふと疑問を抱く。

 街の誰一人として、その少女を気にかける者はいない。まるで「あぁまたか」と言わんばかりの目をして他人事のように通り過ぎていく。

 

『お前はどうする? 助けるか? それとも見過ごすか?』


 俺が行ってどうなる?


『お前以外の誰かが助けるとでも?』


 なんだよ、それ。誰も助けないのか?


『この街の事情を知らないのはお前だけだからな』


 事情?


『あぁそうだ。説明するとだな、この街の地主はインドラ大公ってやつのもんなんだ。そいつの馬鹿息子がかなりの悪ガキで、この街のかわいい娘を見つけるとあぁやってチンピラ使って自分の家に連れて行くのさ』


 誰も逆らわないのか?


『まぁな。昔は助ける人間がこの街にもいたんだが、その助けた奴をみんな大公が処刑しちまったからな』


 なんでだよ。無実の人間を処刑するなんて頭イカレてるだろ。


『馬鹿息子の演技が上手かったんだ。助けた奴を全員犯罪者に仕立てあげちまったのさ。それ以来この街の人間はあーやって見て見ぬふりをするってわけだ』


 じゃぁ俺が行かなかったら誰も行かないってことか。


『そういうことだ。まぁ助けるも助けないもお前の勝手だ。面倒事が嫌だったらそのまま黙って突っ立ってろ。まぁあと五分ってとこだな。関わらなければ幸せだってこともある。お前だってここで遊ぶ時間は決まってんだろうが』


 俺は少女に目を移した。

 力かなわぬその少女が男達に連れ去られていく。

 たしかにこのまま黙っていれば終わる出来事かもしれない。

 俺は周囲に目を向けた。

 誰も助ける気配はない。

 本当にあの少女を助けられるのは俺だけかもしれない。

 

 俺はぐっと拳を握り締めていった。


『気にすることはない。お前はみんなと同じことをしているだけだ』


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』

 

 ちなみに、俺が助けに行ったらどうなる?


 俺のその言葉に、おっちゃんがフッと鼻で笑って答えた。


『きっとステキな何かが待っている』



 俺は駆け出すと、男の手を掴んで少女を引き離した。

 黙ってその少女を背に庇う。


 すると男どもが俺にガンを飛ばしてきた。


「なんだ? てめぇ」

「俺たちがアナンド様の使いだってこと知っててやってんのか?」

「邪魔すれば処刑にすんぞ」


 俺はハッキリ言ってやった。


 知っててやっているんだ。


 男どもが指の関節を鳴らしながら迫ってくる。


「上等じゃねぇかコラ」

「どうやら痛い目みないと言葉が通じないらしいな」

「馬鹿か? お前馬鹿なのか? そうやってボコボコにされて逃げていった奴がどんだけいると思ってんだ? お前もその一人になりたいってか?」


 俺は頭の中で一応おっちゃんに確認する。


『確認とは何の確認だ? 安全装備のことか?』


 違う。それもあるけど。

 なぁおっちゃん、俺って最強の魔法が使えたりするんだよな? そのやり方教えろ。


『最強魔法を教えろだ? 魔法の定義も知らずに初心者がやるなんざ自殺行為だぞ』


 ちょっと待て。ステキな何かが待ってるって魔法が使えるってことじゃなかったのか?


『ステキな出会い、とか?』


 ふざけろ、てめぇ! 魔法はもういい。伝説の魔剣かなんか出せ。


『まずは剣を装備してからだな』


 どんな初期設定だよ! じゃぁなんだ? 今の俺のレベルは1か? レベル1から始めた村人Aか?


『まぁ、一応そういう設定にはしてある』


 ざけんな、てめぇ! どんな親切設定だ! 親切すぎてアダで返ってきてんじゃねぇか!


『どんなゲームも最初はみんなそういう親切設定だろ?』


 もういいよ! とにかくどーすんだよ、この状況! せめて今の俺にできることって何かないのか!?


『できることか。じゃぁ俺が今から指示してやっからその通りにやれ』


 何をする気だ?


『お前の中に封印しておいた一部の能力を解放してやる。まぁこれをやることで変な事件に巻き込まれるかもしれないが、勘弁な』


 いや、それマジ勘弁。


『じゃぁ今ここで奴らにボコられて地べたとキスするか? それとも能力を解放して変な事件に巻き込まれるか? どっちでもいい。お前の好きな方を決めろ』


 ……今気付いたが、おっちゃん。もしかして俺をハメたのか?


『今頃気付いたのか?』


 なんかおかしいと思った。今すぐログアウトのやり方教えろ。


『へへーんだ。最初に聞いとくべきだったな。残念だがお前がこの能力を解放するまではログアウトを教える気はない。お前がこの街でボコられようが浮浪しようが何されようが、たとえ現実世界で朝を迎えようが絶対に教える気はないからな』


 おっちゃん。いきなり精神年齢が下がったな。


『よく言われる』


 言われるんかい。


『さぁどうする? とりあえず能力は解放しといたぞ』


 俺の中に不思議な力がみなぎってくる。湧き上がるように強く、今にも体という殻をぶち抜いて暴れまわりそうなくらいに大きな力が。

 ──って、使わせる気満々じゃねぇか、おっちゃん。


『まぁな。使ってもらうと俺が助かる』


 おっちゃん、何者だ?


『今はまだ秘密だ。だがそのうち分かってくるだろう』


 そうか。わかったよ。使わないとログアウトさせないんだったら使ってやろうじゃねぇか。

 何の事件に巻き込まれるか知らんけどな!


 俺はおっちゃんに言われるがままに片足を使って地面にある図形を描いた。

 そして唱える。



 ――数十秒後。

 街中に三人の男どもの悲鳴が響き渡った。



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