ゲームの世界だと?
アシスタンス【assistance】。簡単に言えば、困っている人のお手伝い的なものである。
※
なんだろう。最近疲れているのかな?
『テストばかり続いたしな』
そうだよなぁ。その上、徹夜で勉強したにも関わらず全部ヤマは外れたし、勉強勉強と周囲はうるさいし、毎日の宿題の量はハンパないし。
『あーぁ、これじゃまたオンライン・ゲームがおあずけだな』
今の時期はジャカルの森で討伐イベントがあるはずなんだが。
あの魔物を倒せばレベルが上がるのになぁ。
『それは残念だったな』
さっきから変なおっちゃんの声も聞こえてくるし。
きっと相当頭も体も疲れているんだろうな。
俺は、やりかけた宿題の上に倒れこんだ。
机に飾っていた置時計を見つめる。
午後十時二十三分。
『きっとステキな何かが待っている』
待ってねぇよ。
──って、あぁもうダメだ俺。脳内ツッコミなんて完全に疲れている。
ほんの少し睡眠休憩をとろう。
十五分だ。
そう、十五分だけ睡眠をとろう。
俺は静かに目を閉じると、襲い来る睡魔に身をゆだねた。
◆
『おい、聞こえているか? 坊主』
暗闇の中でおっちゃんの声がする。
夢の中ですら、俺は疲れているというのか?
『そんなにゲームがしてぇんなら思う存分やればいいじゃないか』
アホ言え。
成績下げてまでやりたいとは思ってない。
『じゃぁ睡眠しながらゲームをやるってのはどうだ? 両立できていいぞぉ』
じゃぁの意味がわからんが、それでやれたら効率的だな。
『そうか。それなら思う存分楽しんでこい』
……何を?
『ゲームだ』
ゲーム?
自然と開いた視界の先に見える光景。
暗闇から光の世界へ。
差し込んでくる太陽の光に俺は手をかざして影を作る。
徐々に明るさに慣れてきた頃、俺は目の前に広がる世界に驚愕した。
まるで本当にゲームの世界に入り込んでしまったかのように。
中世ヨーロッパな街並みの真ん中で、俺は呆然と立ち尽くしていた。
自分の両手や体をじっくりと観察する。
すげーリアリティ。
妙に現実味があって、ここがゲームの世界と言われても信じられない。
試しに腕の肉を掴んでみる。
普通に痛いし。
いやマジで?
俺、マジでゲームの世界に来たのか?
まるでハリウッド映画の中に入り込んだみたいで、すげーワクワクしてくる。
服装も靴も、ゲームに合ったファンタジックな感じになっている。
コスプレというのだろうか? こういうの。
俺は周囲を見回した。
街を歩く人も皆自分と同じ、ゲーム世界のような格好をしている。
よし。この格好に違和感はない。
俺は自分の格好に自信を持つと、試しに一歩二歩と足を前に進めた。
風景が本物みたいに流れていく。
角度を変えても風景の一部が消えたりしない。
壁に埋もれる不自然な人物もいない。
まるでというより、これはもう本物の異世界ってやつだ!
俺は近くにあった壁に倒れ掛かると、そのまま壁に抱きついた。
コンクリの感触がすごく本物だ。
思わず頬ずりする。
周囲が白い目で俺を見ているが気にしない。
そのまま視線を飛ばして街のあちこちを観察する。
――お! あそこにあるのはもしかして武器屋か?
その向かいは防具屋!
なんと! あの店では魔法の杖を売ってる!
ってことは、もしかしてこの世界で俺は魔法が使えるということなのか!
俺の胸は高鳴る。
夢なら覚めるな。
『お? どうやらこの世界が気に入ったようだな』
うわッ。またあのおっちゃんの声が聞こえてきた。
『聞こえないでどうする? ログアウトのやり方も知らねぇくせに』
……え? ろぐあうと?
『ログアウトはログアウトだろうが。ゲームの世界だっつったの聞いてなかったのか?』
聞いてたさ。
『じゃぁわかっているはずだよな? 時間になったら自分でログアウト。現実の時間とここで過ごす時間は同じだということだ』
ちょっと待て。現実の時間とここで過ごす時間が同じだと?
『そうだ。現実世界じゃお前は寝ている。寝ている時間がここで過ごせる時間だ』
……。
えっと。
俺は思い出す。
宿題はあとどのくらい残っていたんだっけ?
『十五分後に起きるんじゃなかったのか?』
よし。前倒して睡眠時間を先にとろう。午前五時に起きればなんとかなるだろう。
『単純な奴だな、お前。まぁ好きにしろ』
なぁ、おっちゃん。
『なんだ?』
おっちゃんって何者なんだ?
『……。教えない』