第七話 ハズレなし
~任務二日目~
今日は無事に諏訪と合流でき、任務を始めることができた。しかし、お尋ね者である少女の手がかりがそう簡単に見つかるわけがなく、ただ時間だけが過ぎていく。
そして、深夜の一時まであと少しという時間になってしまった。
「なぁ武、オレら探す範囲間違っているかなぁ?」
「アッ!?何だ?もう一回言ってくれ!!」
「だから!探す範囲間違ってんじゃねぇのか!?」
「知るかよ!こうやって、しらみつぶしに探すしかねぇだろ!!」
なぜこうまでして大声を出さなきゃならないのか。その理由は、オレら二人とも空中を超高速で走っているからである。そのせいで、お互いの声が風によって消されてしまい、今も大声を出しているが、これでも所どころかすれて聞こえてしまう。
諏訪はこの過酷な状況のなか平気で質問をしてくるため、返答するオレも正直キツい。そして、諏訪は文句を言ってきた。
「そうだけど、かれこれ四時間この状態だぜ!?そろそろ、魔力が限界に近いんだけど!!」
「それはお前の魔力分配が下手なだけだろ!? こうなることは、最初からわかっていたんだから、もっと頭つかえよ!!」
そう、こういうふうにひたすら走り回って探すしか方法がないことは、任務開始時からわかっていた。ここで、捜索方法を説明しよう。まず、ナビケーで魔力探知をする、そして反応があればそこに急行する、以上だ。
なにせ、情報が乏しすぎる上に、一応極秘任務なので隠密行動が鉄則だ。極秘任務でなければ、探索魔法陣を張ることもできるのだが、他の魔法師に気付かれる恐れがある。だからそれができないとなると、こうやって走り回るしかない。よって、四時間も走り続けているが、全くナビケーが反応してないので、今日は半ば諦めているのが現状だ。
「マスター、ここの半径20キロには魔力が探知できませんでした」
「諏訪様、こちらも同様に探知できませんでした」
オレと諏訪のナビケーはさっきからこの調子で報告する。オレもだんだん投げやりな返答になる。
「あぁ、わかった」
「マスター、今日は引き返した方がいいと思います。すでに総移動距離は現時点で800キロを過ぎています」
「そうだな、それじゃ次の20キロエリアで今日は打ち止めにするか。諏訪!! 次のエリアで終わりでいいか!?」
諏訪は疲れた顔で弱々しく頷く。まったく情けないやつだ。
そして、ちょうど最後のエリアに入ったときだった。ナビケーからサイレンが鳴る。
「マスター、西の三キロ地点と北東五キロ地点に強い魔力反応あり。いかがいたしましょう?」
同時に反応が出るとは思いもしなかった。しかも、こちらは結構お疲れ気味ときたもんだから、二ついっぺんに対処するのは難しい。だが、この二つの反応のどちらかに少女がいたとしたら、逃さないためにも分かれて対処するのがいいだろう。
「諏訪!!ナビケーから聞いていると思うが、分かれて行くか!?それとも、同時に行くか!?」
「もちろん同時!!・・・っと言いたいけど、任務のことを考えると後者の考えでいこうぜ。あっ!でも近い方はオレが行くからな!!」
ホントにこいつは根性が腐っているのか、しっかりしているのか分からない奴だ。最後の言葉さえ言わなければ、見直そうとしたんだが・・・。
「分かったよ。それじゃ、西は諏訪。北東はオレが対処する、でいいな!?」
「了解!!それじゃ、終わり次第連絡くれよ!」
諏訪はさっきまでぐったりしてたとは思えないほど軽い足取りで西へ向かって行った。
アイツは正真正銘のサボり魔だな、と思わざるを得ない。まぁ、こっちもさっさと確認を済ませて帰りたいものだ。
* * * * * * * * * * * * *
「イヤ~、武は優しいなぁ。おかげで楽できる」
「今の諏訪様は、友情に漬け込む最悪な野郎です」
諏訪の失言ともいうべきことを、諏訪のナビケーは的確とも言える返しを入れた。
「オイオイ、それが主人に対する態度かよ?」
「主人の過ちを正すのも我々の役目です」
「エッ!?ナビケーってそういうお仕事もするのかよ?」
諏訪は驚きの声を上げる。ナビケーの説明書にそんなの書いてなかったはずだと記憶を掘り返す。
「嘘です。しかし、諏訪様のお手伝いをすることは確か。つまり、これは過ちを正すお手伝いです」
「・・・なんか、上手くまとめやがったな・・・」
そういうふうな会話をしていると、すぐに目的地に着いた。
諏訪はナビケーにより細かく魔力探知をさせた。
「諏訪様。どうやら、あの林の中から魔力が発生しているみたいです」
諏訪はナビケーが指摘した林を見る。まだ、直接肌で感じるほど魔力の強さではない。が、しかしだ。直感的にだが、ここに潜んでいる奴はただ者ではないと分かる。
このイヤな直感は残念だがいままで外したことはない。となると、ここにいるのは少なくともB級以上の魔物もしくは、可能性は低いがお尋ね者の少女。
「まっ、とりあえず行ってみるか」
「気を付けてください、もしものことがあるので・・・」
もしものことというのは、おそらくお尋ね者のことだろう。まぁ、その可能性は低いが用心するに越したことはない。
「あぁ、そのときはすぐに武に連絡を取ってくれ」
「かしこまりました」
諏訪はゆっくりと林の中に入る。真夜中ということもあって、夜行性の虫が辺りをブンブンと飛び回っている。諏訪は虫に多少おっかなびっくりしながらも、前に進んでいった。
歩き始めて二十分ぐらいだろう、ナビケーが警告のアラームを鳴らした。
「警告。警告。半径五十メートル以内に強い魔力反応あり。気を付けてください」
諏訪は手の汗をぬぐい、大剣『サラマンダ―』を構える。
微弱だが確かに魔力を感じる。だが、魔物のようなドロッとした悪意の籠った魔力ではない。どちらかといえば、人間の魔力に近い。
諏訪はまさかと思い、暗視魔法『闇眼』を唱える。
諏訪はそのまま一歩進む、するとバキッと枝が折れる音が諏訪の右方向から鳴った。
(今だ!!)
諏訪は炎系魔法『フレア・ボール』を唱え右方向にいくつかの火の玉を放った。
火の玉は辺りを照らしながら進む、が何も当たることなく消えた。
しかし、『闇眼』を使用している諏訪の目にはハッキリと対象の正体を捉えていた。
「ハ~、どうやらこれでオレの直感はまだハズレなしのようだ」
「そのようですね。ですが、その割には浮かない顔ですね」
「当たり前だろ、こんな直感当たってほしくねぇよ。んで、どうなんだいそこのお嬢ちゃんよ?」
諏訪の視線の先には、全身黒いコートを羽織っている少女の姿があった。少女は自分の周りを囲むように火の玉を灯した。
少女は目元まであるフードを脱ぐと、夕焼けなような茜色の目で諏訪を睨んだ。
「お前は何者だ?」
声を聞く限り幼い印象を受ける、身長も低い部類に入るだろう。
「それは、こっちのセリフだ。嬢ちゃんには聞きてぇことが山ほどある。っつうわけで、おとなしく捕まってくんねぇかな?」
諏訪は笑顔で呼びかける。
少女は赤みがかった髪を右手で払うと、笑顔で答えた。
「却下したら?」
「その時は実力行使だ。言っとくがオレは強いぞ」
諏訪は顔を引き締め答えた。
少女は何か考えている。いや、諏訪の顔を見ているようだ。
「な・・・、何見てんだ?」
「アッ、ごめんなさい。でも、強いっていう割には弱そうだから、楽勝で勝てるって思っちゃた」
少女は悪びれず舌を出した。
諏訪の中の何かがキレた音がした。諏訪は顔が怒りで引きつるのを感じながら言った。
「そうかい、んじゃあ、試してみるか? このガキ!!」
諏訪は『サラマンダ―』から素早く炎系剣技『フレア・スラッシュ』を発動させる。
波状の炎が少女を襲う。
少女はその炎を右手で薙ぎ払った。
「んなっ!?素手で払ったのか?」
「いえ、諏訪様。耐火魔法で手を覆ってました」
ナビケーからの説明で理解したが、耐火魔法をそういうふうに扱うのを見たのは初めてだった。
呆気にとられている諏訪を少女はニヤリと笑い見つめた。
「もう終わり?それじゃあ次はこっちから行くわよ!!」
少女は左手から弓を出す。弓は全体的に紅く、所どころに金の装飾が施されていた。
少女が右手で弓を引く、火の矢が二本出てくるとそれを諏訪に向かって射た。
だが諏訪も落ち着いて大剣で二本とも叩き切る。
諏訪はやれやれとため息をついた。
(セロ校長、どうやら手荒なことをするしかなさそうです)
心の中でそう言うと、ニッコリと笑って少女に呼びかけた。
「どうやら、話し合いはできなさそうだな」
「そうね」
「なら、火を扱う者同士仲良くしようぜ!!」
こうして、灼熱のバトルが始まった。
~続く~