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 第六話  セロと真鍋

~八塚達が出た後の校長室~


 まったく、あの二人は。とでも言いたくなる状況だ。

確かに、この卵もどきを持って帰ってきたのは正しい判断だが、それで任務ができませんでした、なんてそんなのは本末転倒である。まぁ、今回はガーゴイルがなぜか襲ってきたという不安要素があったから大目に見たものの、次にこんなことがあろうものなら、容赦なくお灸を据えてやるつもりだ。

 セロはため息を一つ吐くと、卵もどきを見つめた。(厄介なものがきてしまったな・・・)

ちょうどそんなことを考えていたときに校長室のドアをコンコンと鳴らす音が聞こえた。


「セロさん、真鍋です。入ってもよろしいですか?」


「あぁ、いいぞ」


 入ってきたのは、オールバックの髪型が特徴的な二十代後半の男、真鍋義一まなべよしかずだった。

 

「なんか、うちのクラスの生徒が面倒なものを持って帰ってきたそうで?」


「あぁ、だいぶ面倒なものを持ち帰ってきてくれたよ」


 真鍋はテーブルに置かれてある物体をまじまじと見る。そして、ワォっと一言小さくつぶやき、視線をセロの方へ戻した。


「確かに、見るからにヤバそうですね。危険なニオイがプンプンしている」


 セロは物体を見て若干嬉しそうな真鍋にため息をついた。


「ハ~・・・、教師であるお前が嬉しそうに眺めてどうする? 悪いがこれは相当マズい物なんだぞ」


 真鍋はすいませんと言ったが、まだ顔はにやけている。すると、真鍋は物体を指して質問してきた。


「さっきから、面倒とかマズいとか言ってますけど、一体これは何ですか?話を聞く限りでは、連合に頼まなければならないというほどの代物らしいですね?」


「あぁ、そうだ。これは私にも手が付けられない。よって、連合に任せることにした。それで、これの正体はある魔物の卵だということは言っておこう」


 その返答を聞いた真鍋は眉をしかめた。それに気づいたセロも顔を少し引き、眉をしかめたので互いににらめっこ状態になり、これが五秒間続いた後、真鍋は顔を突如ニンマリとした。


「セロさん。あんた、嘘ついているだろ?」


 完全に不意を突かれたセロはブッと吹き出した。


「な・・・何を根拠に・・・そんなことを・・・」


「セロさん、あんたは嘘をつくとその後必ず鼻が膨らむんだよ。何年一緒に仕事してきたと思っているんですか?」


 この真鍋という男は一見飄々としていて、何も考えてないように見えるが、人を良く見ているというか、観察眼が鋭いというか、こういった嘘が通じにくい。というか、通じない。故に今回もバレないように細心の注意を払いながら喋ったのだが、案の定バレてしまった。

 セロは仕方がないと言わんばかりに盛大なため息をついた。


「はい、ご名答。確かに嘘をついていることは認めよう。だが、内容までは・・・」


「おそらく、連合でしょう。本当は呼んでないんですよね?」


 セロが全て言い終わる前に、真鍋は無表情で答えを言い当てた。これに対し、セロは半ば投げやりに答えた。


「・・・その通りだ」


 その答えを聞くなり、してやったというような顔を真鍋はセロに向けた。セロは不愉快そうな顔で話題を変えた。


「それより、例の件はどうだ?」


「例の件・・・?あぁ、あの少女・・のことですか?」


真鍋はセロの言葉を聞くと、ニヤッと笑って言った。そして、その顔のまま言葉を繋げた。


「いや~、順調の一言に尽きます。昨日もオレのワイバーンを五頭、見事にボコボコにしてくれましたよ」


 それを聞いたセロは表情を一つも変えなかった。それを不思議に思ったのだろう、真鍋はセロにあることを聞いた。


「セロさん、ぶっちゃけあの少女は何者ですか?あんたは半年前、オレに何の前触れもなく極秘任務を与えました。内容は、ワイバーン数頭を定期的に少女の元へ向かわせること。正直言って、今日まで任務を行う理由も少女の身元すら何も伝えられないまま任務を遂行していますが・・・」


 そこまで真鍋が言うと、セロは右手の人差し指を真鍋の顔の前に立てて、発言を制した。そして、さっきほどとは打って変わって、幾分か凄味のある声で真鍋に向かって言った。


「悪いが、その件に関してはもうそれ以上聞くな。そして、ちょうど頃合いだ。現時点をもって、お前の極秘任務を終了とする。ごくろうだった」


 その一方的な任務終了を聞いた真鍋は呆気にとられると同時に、懐疑心を隠せずにいた。


「ちょっ・・・、ちょっと待ってくださいよ!!いくらなんでも、それはひどすぎる!まず、任務終了に関しては仕方ないとはいえ、終了の理由も聞かされないのはおかしいです!!」


 真鍋は身を乗り出して抗議したが、セロは顔一つ変えずに答えた。


「終了の理由? ときが来たからだ。よって、もうワイバーンを送る必要がないと判断したのだ。オレが言えるのはここまでだ」


 その答えを聞いた真鍋は唇をキッと閉めて歯ぎしりをした。


「なるほど、わかりました。いや、セロさんの考えていることはよくわかりませんが、今のオレには教えられないほど、重要なことだということはわかりました。ですが、これだけは聞かせてください」


「何だ?」


「あんたはやっぱり、あっち側に就いているのか?」


 セロはニヤッと笑うと、「さぁな」と一言残して、椅子から立ち上がりドアのほうに向かって歩いた。

 真鍋はセロの右手がドアノブにかかる直前、ハッキリとした声で言った。


「セロ、あんたとオレは30年来の付き合いだが、時々あんたという人間がわからなくなる。まぁ、校長の仕事をしっかりと果たしてくれればオレはそれでいい。だが、生徒・・は間違っても厄介ごとに巻き込むなよ」


 セロはその言葉聞くなり立ち去ろうとしたが、真鍋が再び今度は意地の悪い声で質問してきた。


「あぁ、そうそう。昨日ですかね、八塚と諏訪が通常任務の点呼に来なかったんですよね~。今日聞いてみたら、秘密って言われちゃったんですよ。セロ校長、何か知ってます?」


  セロは声色一つ変えず、「知らないな」と答えると、早歩きで真鍋の視界から消えた。

 その姿を見た真鍋は緩んだ顔を引き締めた。


「何も起こらないことを祈るしかないな・・・」


 ~続く~












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