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 第五話  予想外

「それで、この謎の物体を発見したがために、約束の場所にすら行けなかったと。そういうことか?」


「そうなんだよ、大変だったぜ・・・」


 オレは諏訪からこうなった状況を聞き終わり、これからのことをどうするか話し合った。


「とりあえず、今日はもう学校に戻ろう。諏訪も疲れているだろ」


「あのくらいの雑魚で疲れるかよ!おめぇ、オレをバカにしすぎだぞ!」


 諏訪はオレに食ってかかる。こいつは少しイジるとすぐムキになるから面白い。


「はいはい、オレが悪かったから、その目つきが悪い顔をやめてくれ」


「ケッ!!お前のそういう時々人を小馬鹿にする態度は気にくわねぇな!」


 諏訪はそう言うと、オレから離れるように歩き出した。


「おい、どこに行くんだ?」


「先に学校に戻る。めんどくせぇからその謎の物体はお前に任せる。あっ、拒否権はないからな」


 諏訪はオレの返事を待たず、学校に向かっていった。オレはため息をつくと謎の物体をまじまじと見つめた。諏訪の話によると、この卵もどきを狙ってガーゴイルの群れが襲ってきたらしいが、いくつか気になる点がある。というか、魔物が狙う対象を人間ではなくこの物体にしたということが、有り得ない話だ。まず、魔物が人間を狙う理由はただ一つ。『負の感情』を手に入れるため。負の感情というのは人間が持つ、恐れや、憎悪、悲愴、苦痛というものだ。魔物はこれらの感情が好物で、これを手に入れるため、人間に恐怖を与える行動に出る。この『人間』のカテゴリーにもちろんオレら魔法師も含まれる。だから、なぜガーゴイルが諏訪との接触を避けたかよくわからない。オレはとりあえずナビに今回のことについて聞いてみる。


「なぁ、ナビ。今回のことについてどう思う?」


「私の意見としては、今すぐこの謎の物体を持ってこの場を離れた方が良いと思います。もしかすると、また魔物が襲ってくる可能性があります」


 ごもっともである。こうして突っ立ている間に魔物がまたこの物体を狙いに襲ってきたら、めんどくさいことになってしまう。


「お前の言うとおりだな。とりあえず、これを持って学校に戻るか。ナビ悪いが一応魔物探知をしてくれないか?」


「了解マスター、少々お待ちください。・・・・・・・・・・探知した結果、半径20キロ以内には魔物はいませんでした」


 よし、とオレは言い、卵もどきを抱えて再び空中疾走を始めようとしたとき、後ろから誰かに見られたような感覚がした。オレは後ろを素早く見る、すると周りには夕方だからだろう、主婦と思われる人達がせわしなくスーパーに入っていく。だが、そこには誰一人として、こちらに気付いてはいなかった。


「気のせいか・・・・」


オレは妙な違和感を覚えながらも、学校に向かって走り出した。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   


「気付かれた・・・・?」


 フードをかぶった少女は小さく舌打ちをすると、空を駆けていく黒髪の少年を茜色の瞳で睨んだ。そして、少女は朱の色をした弓を手に取り、弦に手をかけようとしたが、そこで止めた。


「・・・・今日は疲れたから止めておくわ。でも次は・・・・、邪魔させない・・・!!」


 少女は歯ぎしりをして、その場から立ち去った。



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


~翌日・校長室~


「で、きのうは謎の物体を持ち帰ってきたわけだが・・・、お前ら肝心の任務・・・のほうはどうした?」


 今、オレの目の前にいるセロは怒っているのが強烈にわかる表情をオレ達二人に向けている。もちろん、二人というのはオレと諏訪である。

 諏訪は引きつった顔でセロの質問に答える。


「いやぁ・・・、それはきのうも報告した通り、ガーゴイルに襲われてしまって・・・」


「それでも、任務は継続できたはずだ! ・・・ったく、まぁいい。今日からしっかりと任務をこなすように。それから、お前らがきのう持ち帰ってきたあの物体はしばらく私の管理下に置くことにした」


「マジッすか!?」


「・・・・・」


 諏訪は素っとん狂な声を出し、オレは顔をくもらせた。

通常、魔法関連の拾得物は聖ローザンヌ学園が保持そして管理することになっている。だが、セロ本人つまり校長自らが管理するとなれば、話が違ってくる。その理由は、校長が管理する物は危険度Sランク以上と決まっているからである。

 オレはセロに単刀直入に聞いた。


「つまり、あの物体は危険度Sランク以上・・・、その物体を保持するだけで周りに悪い影響を与える。ということですか?」


 セロはその整った眉を上げて、その通りと言うように首を縦に振った。ところが、だがと言葉を続けた。


「あの物体は謎が多すぎる。そこで、『連合』の手を借りることにした」


「『連合』!?って、『国際魔法師連合』のことですか!?」


 なぜ、オレがここまで反応するのか。『連合』に関してこういう言葉がある。「連合動くところに世界の危機あり」この言葉が表すように、『連合』という組織は、普段は活動というものをほとんどせず、世界を揺るがす事態の時のみ動くのだ。

 つまり今回の場合、調査要請という形かもしれないが、実質、あの物体をお引き取りしてもらうということなのだ。


「そうだ。その『連合』だ。まぁ、そんな深刻な顔するな。あくまで、調査だ。まだあの物体が世界を滅ぼすような力があるかはわからん。そんなことより、お前らは任務を優先させろ。いいか?」


「「は・・・はい・・」」


 オレと諏訪は力のない返事をし、共に肩を落とした。


「よし、それなら二人とも下がっていい。任務しっかりやれよ」



 ガチャンと校長室のドアを閉めるやいなや、諏訪が泣きついてきた。


「なぁ武、オレらとんでもないものを拾ってきてしまったな!?どうすりゃいいんだよ!?下手したらオレら『連合』から取り調べを受けるかもしれないよな?」


 人間って追い込まれたらこういう顔になるんだなと思うほど諏訪の顔は酷いものだった。

 まぁ確かに、自分が発見してしまった物体により、学校に裏世界の中枢が来るのだから気持ちはわからなくはない。だが、それを入れても諏訪の焦り方は少し異常だ。


「とりあえず落ち着け。こうなった以上、オレらにはどうすることもできない。それに、オレらの本来の目的は任務だ。今日ぐらいに手ががりをつかまないと、本気で校長に怒られるぞ」


 諏訪はオレの言葉を聞くなり、背筋をスッと伸ばし決め顔で「その通りだな」とつぶやいた。

 諏訪よ、その切り替えは何なんだ・・・。


 まぁ、今日から任務頑張ろう・・・。



       ~続く~






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