第三話 魔装者
~作戦一日目~
季節は初夏の六月。
当然ながら雨の日が多い。だが、作戦開始のこの頃からやけに晴れの日が多くなった気がする。
そんなどうでもいい事を思いながら、オレは学校からほど近い公園のベンチに座っていた。
オレは腕に巻いている時計型ナビゲーション携帯端末、通称『ナビケー』で時間を見た。
この通称はオレらローザンヌ学園の生徒が名付けたわけではない。
校長のセロが高校の入学式で、この携帯端末を生徒全体に渡すときにそう言ったのだ。
今思い出しても、セロのネーミングセンスのなさが分かる出来事だ。
だがオレは『ナビケー』のことを『ナビ』と呼ぶ。その理由は、なんとなくである。
そして、この『ナビケー』の多機能といったらすごいこと。例えば計算からGPS機能、果ては言語理解システムまであり、話しかけると返事をしてくれる。
ほかにもいろいろ機能はあるが、キリがないのでこの話は止めよう。
オレは時間の確認を済ませると、ナビに頼み事をした。
「なぁナビ、諏訪 浩介の位置情報を送ってくれ」
すると、無機質な女の声が返ってきた。
「了解しました、マスター」
またその呼び方かとため息をついた。
「なぁ、その呼び方やめてくれないか? オレはマスターっていう柄じゃないからな」
再び返ってきた答えは実に長ったらしいものだった。
「いえ、マスターの今までの発言を、私の人工頭脳で解析した結果、98.9パーセントの確率でマスターの性格は独裁的な志向にあるという結果に至りました。よって、マスターとお呼びした方がしっくりくる、っというのが私の見解です」
「相変わらず、分かりにくい説明だな・・・」
「それはマスターの学力の問題です。それよりも、マスター。諏訪 浩介様の位置が分かりました」
「どこにいる?」
「ここから北東約8キロメートル先にいる模様です」
その方向と距離で思い当たるのは大型ショッピングモールだ。
「あと、マスター。GPS追跡をしたついでに魔物探知をしたところ、諏訪様の近く半径10メートルに魔物の反応がいくつかあるみたいです」
「なるほど、どうりで待ち合わせの時刻になっても来ないわけだ」
さっきまでダラダラしてたわけだが、ただ単にぼ~っとしてたわけではない。今日の5時くらいに諏訪と作戦を開始するために待ち合わせをしてたわけだが、20分経っても来ないから『ナビケー』を使ったのだ。
「マスターいかがしましょう?」
「そんなの助けに行くに決まってんだろ。ナビ、魔装使用許可を申請してくれ」
「了解しました。今から、セロ校長に申請します。少々お待ちください」
前に説明したかもしれないが、オレ達は魔法師の中の魔装者という種類に入る。何が普通の魔法師と違うのかというと、魔装者も魔法はもちろん使う。だが、オレ達魔装者はあるものと契約することによって魔力を得ている。
そのあるものというのは、魔法師全ての敵である《魔物》だ。
なぜ魔物と契約してるかと慣用句で表すと「蛇の道は蛇」だ。要するに魔物と効率良く戦うために魔物を自分たちの味方にしようぜ、ということだ。
これを考案したのは100年前ほどらしいが。この考えがどうやら上手くいき、今や魔装者は魔法師全体の約三割を占めるまでになり、いまだ増加傾向にある。
ではどうやって魔物と契約するのか、基本的な方法は二つある。
一つ目は魔物を卵の状態で見つけ孵化させるという方法だ。この方法は契約成功率は高くはないが、最も安全なので、大多数の魔装者がこの方法で契約をしている。この方法は別名『孵化』という。
二つ目は血縁者から魔物を引き継ぐという方法だ。この方法は成功確率が一番高く、成功すれば経験豊富な魔物が手に入ることから、最近増えている方法だ。この方法が開発されたのは20年前と比較的新しい。そして、別名『継承』という。
この二つの方法以外にも魔装者になれる方法はあるにはあるが、非常に危険なデメリットが付くことがあるため、通常は魔法師に公開されることはない。
するとここで、ナビから連絡がきた。
「マスター、今から魔装術式が発動可能です。発動しますか?」
「もちろんだ!! すぐ発動させてくれ!」
「わかりました。あと20秒で発動開始します・・・1・2・3・・・」
魔装術式は元々大がかりなものなので、魔法技術が発達した現代でも通常の魔法に比べ発動までの時間が数倍かかってしまう。しかし、セロが言うには数十年前よりはるかに短くなったらしい。
「18・・19・・20、マスター専用魔装術式オルトロス発動」
ナビの機械的な声と共に、オレの周りに直径3メートルの紫の魔法陣が敷かれ、そこからオレを包み込むように紫と白の光が発せられているが、眩しいので目を閉じた。光が収まってから目を開けると紺と白のチェック柄が特徴であるブレザー式の制服から紫と白のグラデーションになっているマントを羽織り、マントの中に着ているのは紫というよりワインレッドのTシャツを着ており、ズボンは白色で統一されており全体的に騎士の様なコーディネートになっている。
そして、この魔装式を展開するたび思うことだが、この光のせいでオレがどのように衣装替えをしているのか見たことがない。まぁ、見ようと思ったこともないが・・・。
変わったのは服装だけではない。髪も若干逆立っている。だが、一番大きな変化は背中に純白の剣と禍々しい紫の剣がかかっていることだろう。
この2つの剣こそオルトロスの本体である。元々オルトロスは2つの頭を持つ魔犬でレア度が非常に高い。その理由として複数の属性を持っていることが挙げられるが、一番大きな理由は、オレがオルトロスの初めてにして唯一の魔装者であるということ。つまり、オルトロスは現在世界に一体しかいないのだ。故に能力に謎が多く、いくつかの魔法機関から研究対象となっている。今の時点で分かっていることは属性が雷と光ということだけである。では何故オレはそのオルトロスを保持しているのか、残念だが、オレにはいくつかの記憶が欠けている。そして、どうやってオルトロスの魔装者になったかという記憶もないのだ。まぁ、今となってはどうでもいいことだが。
オレは術式が完全に起動し終わるとすぐに雷系移動魔法『電光石火』を唱えた。この『電光石火』という魔法は雷系移動魔法の上位に位置しており、効果として、一定時間の間肉体活性を行い身体能力を飛躍的に上げるというものだ。これにより、オレはしばらくの間人外の身体能力を手に入れた。
「ナビ、諏訪の位置までの誘導頼むぞ」
「マスターのスピードに遅れないよう頑張ります」
オレはナビの返事が聞こえると、すぐにジャンプをした。いやジャンプというより、もはや飛んでいると言った方が正しいだろう。ふと、下を見ると公園の遊具が米粒ほどになっていた。そして、地面に落ちようと重力が働く前に足元にある空気を蹴る。そして同時に風系移動魔法『ヘルメス・ウォーク』を唱える。これにより空気が足元に圧をかけ地面と同じように空中でもバランスがとれるようになる。するとどうだろう、地面と基本一緒なので空中でも走れちゃうのだ。そして、今オレは超高速で空を走っている。おそらく、目的地までは数分もかからないだろう。諏訪がそれまである程度魔物を減らしてくれればいいけど、無駄な期待はやめておこう。
続く~