第一章 七条邂逅編 第一話 諏訪 浩介
セロから特別任務を言い渡されたわけだが、極秘ランクAという、高校生魔法師に普通は頼まないようなものを遂行するのは、さすがに一人じゃ厳しいとセロも思ったわけで・・・
「八塚、お前に頼んだのはいいんだが・・・・・・正直不安だ。そこでだ、助っ人を一人自分で決めていいから、そいつをオレにまた報告しろ。いいか?」
願ってもない救済処置だ。
オレも正直不安で、仕方がなかった。
「わかりましたっ!」
満面の笑みでセロに返事した。
「うん、お前だいぶ不安だったんだな・・・」
セロはあきれの目をオレに向ける。
そして、さっきと同じ口調で続ける。
「まぁ、実力が伴っている奴を選ぶように。下がっていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
オレは校長室から出ると、すぐにスマホをポケットから取り出した。
パートナーを組むならあいつぐらいしか思いつかないな。
そう思い、あいつと食堂で待ち合わせしようとメールした。
返信はすぐに返ってきた。『何の話? まっ、とりあえず食堂で待ってるよ』
オレはその返信を笑顔で見つめ、食堂へと走り出した。
さて、オレが食堂に着く間この学校の説明を改めてしておこう。
オレが通う聖ローザンヌ学園は、魔法師育成のために設立された中高一貫の私立学校だ。
一見普通の学校で、生徒総数は千人を超えており、もちろん一般の生徒もいる。
だが、そういう生徒はオレらとは違う学部・校舎に分けられており、行事以外は顔も会わせない。
ちなみにオレが所属する学部の名前は「特別学習学科」という。
所属する生徒総数は三百人を超えるぐらいだ。
外目から見るとオレらはエリートに見えるらしくて、その学部に入ることができれば一生を約束されるという
変なうわさまでたっているらしい。
まぁ、まずこの学部に入るには魔法師の親族がいないと入れないのだが・・・。
それでも、一生を約束されるという面ではあながち間違っていない。
確かに、この学部に入学すると自動的に魔法関連の職業みたいなものに就く。
オレの場合、魔法師の中の魔装者という職というか種類というか・・、まぁ、オレには上手く説明できない・・・。
そして、この学校がすごいところは敷地の広さだ。
そんじゃそこらのテーマパークとは比べものにはならないと思う。
だから、移動がとにかくメンドくさい。
現にオレもけっこう走っているが食堂の校舎まであと三百メートルぐらいある。
そんな一見普通なようで普通ではない学校に通っているオレだが、ここの学校生活もそこそこ長いので、もう慣れてしまった。
食堂に着くと、オレが呼び出した男がいた。
茶髪のつんつんヘアーで、大きな目が印象的なこの青年の名前は『諏訪 浩介』だ。
この人当りの良さそうな笑顔をオレに向けている諏訪は、オレの中学時代からの親友であり悪友でもある。
もちろん、魔法師としての実力も折り紙つきである。
「よぅ!! 武!!」
「おぅ、悪いな急に呼び出したりして」
オレは罰が悪そうな顔をして謝った。
「いいって、いいって。 まぁ、武から呼び出しなんて滅多にないからな、急いで来た分、話には期待するぜ!」
諏訪は親指を立て、歯を光らせて返事をしてきた。
オレは早速任務のことを諏訪に話した。
「・・・・というわけだから、手伝ってほしいんだ」
オレの話を諏訪はどこか難しい表情をしていた。
心配になったので、オレはもう一度聞いてみた。
「どうだ、やっぱり厳しいか・・・?」
オレの二度目の問いかけに諏訪はやっと答えた。
「んっ・・? いや、そういうわけではないが・・。
なんかちょっと悔しくてな」
「悔しい?」
「だってさ、個人的に任務をもらえるなんてセロさんに認められたってことだろ。また、一歩離されたなぁってね」
「あぁ・・・・、なんか・・すまん・・・」
オレが謝ると諏訪は笑いながら携帯を取り出した。
「ハハッ!! なんでお前が謝るんだよ、オレがふがいないだけだ。 それより、これ見てくれよ」
諏訪の見せてきたのは動画で、一般の人が投稿したものだった。
「なんだこれ? 肝試しか?」
携帯の画面には、カップルがキャーキャー言いながら暗い山道を進んでいる様子が映し出されていた。
「まぁ、いいから最後まで見ろよ」
諏訪にそう言われたので、頑張ってこの画面の中の茶番劇を見る。
そして、動画の終盤に差しかかったとき、画面にある変化が起こった。
画面が急に明るくなったのだ。
カップルは驚きの声を上げ、カメラを持っている人も明かりにびっくりしたのか画面が激しく揺れている。
すると、動画のラスト十秒を切ったとき画面の隅に炎の線が走った。
カップルたちはさらに驚き、来た道を引き返した。
そして、カメラに最後映ったのは一人の少女のシルエットだった。
オレは最後まで見終わると無言で携帯を諏訪に返した。
「武、何か感想あるか?」
「ん~~っ、今のは、世間的に言うと心霊映像っていうやつか?」
「まぁ、そうだな。 で、武のさっきの話を聞いてこの動画を思い出したんだけど・・。最近、この手の動画がネットに大量に流れているんだ」
「それがどうしてオレの話につながるんだ?」
諏訪はにやりと笑うと自論を語り出した。
「つまりさ、最近流れているこのネットの動画は、今回の人探しの手がかりになるんじゃないかと」
「ほう、その理由は?」
「魔物の不自然死ってさぁ、魔法師による可能性が高いんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「あのさ、普通は魔物を殺したら、肉片残らず滅するのが鉄則だろ。この掟は世界共通なのに、なんでそのことを知らないのかなぁ」
確かにそうだ。
魔法師になるにあたって、この掟はかならず教えられるものなのだ。
その掟を破るとどうってことにはならないが、マナー違反としてかなり厳しい批判を買う。
批判を買う理由として、魔物が『屍化』する可能性があるからだ。
『屍化』というのは、簡単に言うとゾンビになるのだ。
こうなった魔物は厄介極まりない。
身が半分になろうと、頭が吹っ飛んでも、ひたすら襲ってくるのだ。
オレも何回か体験したことあるが、とりあえずキモかった。
諏訪もそのことを思い出したらしく、身震いをしてる。
でも、とりあえず諏訪の言いたいことは大体分かった。
「つまり、お前はこう言いたいんだな? 今回の犯人は非常識な魔法師、もしくは・・・
独学で魔法が使えるようになった一般市民だと・・」
「ご名答。 相変わらず頭の回転が速いこと」
諏訪は若干皮肉りながら言い、
そして、その調子で言葉を続ける。
「じゃあ聞くが・・、そのどちらが確率は高い?」
オレはニヤリと笑い答えた。
「断然、後者だな」
「オレもそう思うぜ、武」
諏訪も悪い笑みを浮かべた。
おそらく、周りから見るとオレ達はかなり危ない人達に見えただろう。
だが、そんな周りの目なんてどうでもよかった。
とにかく、このことをセロに伝えよう。
「それじゃ、セロにお前の紹介も含めこのことを話しに行くか」
「おう、そうするか」
オレと諏訪が席を立とうとしたときだった。
後ろから、ある声が聞こえてきた。
「ちょっと!! そこの悪ガキども! なにそこでコソコソしてるのよ!」
うわ~~、今一番会いたくない奴に会ってしまった。
この声の主は、三船 綾。
オレと血縁関係が近い、っと言えばそうなるし、親戚ですか?っと聞かれれば素直に「はい」とは言えない。
まぁ、そういう間柄なので、小さいころから遊んでいた。いわゆる、幼なじみということだ。
見た目はというと、周りからは高評価を得ているらしく、校内にはファンクラブもある。
しかし、オレからすれば、そこまでかわいいとは思えない。まぁ、胸があることは認めよう。
そんなオレを諏訪は「長く一緒にいるから目が慣れちまったんだよ、贅沢な野郎だ!」と、変な批判を言ってきたことがある。
そして、そのとき諏訪はオレに三船 綾の魅力を語ったのだ。
諏訪が言うには、「あのきれいなサラサラ紺色ロングヘアー、そして大きなパッチリ二重、あの男が求める理想的なバスト・ウエステ・ヒップ、極めつけはツンデレ!」と顔を輝かせていた。
まぁ、そんな話今はどうでもいい。
もし、任務のことを感づかれたりしたら、いろいろ面倒くさい。
ここは無難にやり過ごそう。
「おぉ、綾か。どうした?」
オレはとびっきりの作り笑いをした。
「なっ・・、なに気持ち悪い顔してるの・・?」
「ハハッ、何だよ。オレはいつでも笑顔だぜ!」
綾の冷たい言葉もなんのその、笑顔で言葉を返す。
「なんか、いつもの武じゃない・・・。ホント、何があったのアンタ達?」
すると、諏訪が話に入ってきた。
「いやさ、けっこう良い任務が入ってきたからよ・・・」
バカかこいつ?
極秘ランクAだっつの!
オレはこのバカの口を急いで塞いだ。
「ングング・・・、オイッ!! 武、何すんだよ!」
オレは諏訪の耳元で綾に聞こえないように言った。
「お前、今回のはランクAだぞ!口外厳禁だってこと忘れたか!?」
「あっ・・・、そうだった・・・」
自分の重大なミスに気付いた諏訪は咳払いを一つして、綾に向き直った。
「あっ、やっぱなんでもねぇや。じゃあオレら急ぐんで」
「おう、そういうことだから。またな、綾」
オレと諏訪はそそくさとその場から離れた。
「あっ! ちょっとどこに行くのよ!! もう・・・、武、また変なことに巻き込まれているんじゃないかしら・・」
そんな綾の心配もオレには聞こえるはずがなく、オレと諏訪は校長室に向かう。