楠木隼人編 第四話
ホテルにつき、チェックインを済ませてフロント方に鍵をもらおうとしたら「今日はカップルできた方にはプレゼントがあります。こちらをどうぞ」と紙袋をもらった。
中身はどうやらシャンパンと小さな箱だった。「シャンパンの方は冷えておりますので美味しくいただけますのでお部屋でどうぞ。」とにこやかにそう言われてフロントを後にして部屋に入った。
部屋に入るとダブルベッドが一つとそのそばに向かい合わせに一人掛けのソファが小さいテーブルを挟んで一対と壁にはテレビが配置されたシンプルな部屋だったけど、やっぱりベッドが一つって目的がバレバレだよな…
「あはは…元々ひとりでとまるつもりだったからこの部屋予約していたんだ」
と言い訳をする俺に浜野はこちらをじーっと見つめてちょっとあきれた感じが伝わってくる…
ふぅ~とため息をつきながら
「そうね。そう言う事におきましょ…」
あぁこれはまったく信じてないよな…クリスマスイプにホテルとってる時点でバレバレだよな…。
「とりあえず、座ろうよ。せっかくもらったシャンパン飲む?」
「そうね。飲みましょう。」
俺は部屋に用意してあったグラスをテーブルにおき、もらったシャンパンの開けグラスに注いだ。そして改めてグラス同士を軽くぶつけて何か言葉をと思ったけど何もでてこなかった。やや引きつり気味な笑顔を作りグラスのシャンパンを飲み干した。浜野さんを見ると同じくグラスを空にしていた。
再度グラスにシャンパンを注ぎ、落ち着いた所で先ほど中断した話を再開する為に語りかけた。
「浜野さんのこれまでのことは一体どういうこと?順番に話してくれる?」
「うん…」
そう言うと浜野は軽く咳払いをして「ちょっと長くなるけど」と付け足した上で話し始めた。
「始まりはわたしがあるファミレスでね。高梨くんに振られたの。ううん。振られたと言うより呆れられたって感じかな。始めは高梨くんに好きだから付き合って下さいって言われて最初は断わったの。わたしには好きな人がいたから…だけど何度も諦める事なく高梨くんは付き合ってくれって言ってきてくれて…わたしは迷ったよ。わたしの好きな人とはもう連絡先もわからないし当時付き合っていたわけでもなかったからね。だからその人を忘れるために高梨くんと付き合う事にしたの。だけど…それはわたしの中で好きな人の事がより一層強くなってしまって付き合っているのに高梨くんを拒絶してしまったの…そして高梨くんから『頑張ってはみたけど、お前の好きなやつには俺は勝てない…それを自覚した。俺といても微妙に距離を感じるんだよ。それに付き合っているのにお前とキスすらさせてすれない。それどころか手すらつながないじゃないか。俺がつなごうとしたら逃げたじゃないか。いくら綺麗だからといってそんな女こっちから願い下げた。じゃーな。』ってね…」
「そうか、そんなことが…」
「それでわたしはしばらくお店の中で考え込んでいたらそこに楠木くんと彼女さんが入ってくるのが見えて、驚いたよ。5年ぶりのその姿を見てすぐわかったよ。楠木くんだって、嬉しさ半分悲しさ半分って感じだったけどね。」
「悲しさ半分ってどうして?」
「だって彼女と一緒だったから…」
俺は驚いた。俺と彼女が一緒にいるのが悲しかったって事は…期待していいのかな…
そう思って「えっ…それって…」と言うと浜野さんは慌てて話を再開した。
「は、話を続けるね。入ってきたら、わたしの座っている真後に座るから会話も丸聞こえだったの。気になったから帰るのも忘れて話を聞いてしまったの…ごめんね。」
「いや、そんな事ないよだって隣に聞こえるような声で喋っていた俺がいけないんだって。」
「そう言ってくれてありがとう。そして聞いていると彼女さんが突然『私、あなたに飽きた。別れましよ。』と言って席を立って出て行っちゃたでしょ。わたし、びっくりしちゃってまさか同じ日にわたし以外にも振られる人がいるなんておもわなかったよ。」
「ははは…お恥ずかしい限りで…」
「そんな事ないよ。わたしもそうだったんだから恥ずかしいも何もないでしょ。」
「あ、そっかぁ。お互い振られたんたよね。」
「そうよ。だから気にしない。」
「そこからしばらくして外にでた楠木くんを追いかけて声をかけたんだ。その後は一緒だったから説明いらないよね。」
「そうかそうだったのか。まさかみられていたなんて思いもしなかった。でも俺は振られた事に感謝かな。だって…浜野さんとまた再開できたからね。」
「それはわたしも一緒かな。あのファミレスで今日あの時振られなけれは今こうして一緒にいられなかったからね。」
「で、大学に行ってイルミネーション見ていた時に高梨くんがきたのは本当に偶然だったの。別れたその日に別の男といたのがゆるせなかったからあんな言い方になっただけだよ。ちゃんと説明したらわかってくれたよ。だから駅でもしかしたら楠木くんが家に帰る為にくるかもしれないと思って待っていただけだよ。高梨くんが一緒いたのはわたしに何かあったら楠木くんに合わせる顔が無いからっていてくれただけ。」
「へ?。なんで高梨が?俺に?」
「だって、わたしの好きな人を教えてしまったから…」
「好きな人…?」
「そう…もうわかるでしょ?わたしの好きな人は…」
「…楠木…隼人くん」
俺は身動き一つとれなくなってしまった。
俺の好きな浜野さんが俺の事を好きだなんて…
そうあったらどんなに嬉しいかと、今日一日ずっと思って
一緒にいたのに相思相愛だったなんて…
身動き一つせずに固まっている俺に浜野さんは優しく語りかけていた。
「あたし…ずっと好きだったの…中学生の時から…でも楠木くんには嫌われているのかなって中学校時代は思った。わたしから話しかけてもなかなか返事してくれないし、笑顔もあまり見せてくれなかったからね。その上高校に上がったら楠木くんが急に明るくなったって、楠木くんと同じ学校に行った子から聞かされて結構ショックだったよ。」
そう言われて情けなくなった。当時の俺に会えるなら一発殴ってやるところだ。心の内を話してくれた浜野さんに答えるべく
「ごめん…中学の頃は俺もものすごく好きな娘がいてその娘が話しかけてくると緊張と恥ずかしさでなにも出来なくなってたんだ。その娘はなにかと俺に話しかけてきてくれたのにね…その娘は浜野くららっていう娘でね…今でも好きなんだ…」
そう言うと浜野はちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに優しい笑顔を作ってくれた。中学の頃からお互い好きだった。今日会って、もしかしたらなんて思いもあったけど、それが現実だったなんて…嬉しすぎる。
「楠木くんは覚えるかなぁ。中学2年の時に、子猫助けた事あるでしょ。」
そう言われて当時のことを思い出していた。
中学の時に俺は木の上からおりられなくなった子猫を助けた事がある。その子猫は捨て猫だったらしくこっそりと学校の裏で面倒をみていたが、親に頼み込んで結局自分で引き取る事にした。名前は真っ黒な猫なので安易に名前は、クロ助。自分のネーミングセンスのなさにやになるがクロ助は今でも大事な愛猫になっている。今は家できっと俺の布団の上で丸くなって寝ているはず。でもなんで・・・
そのことは誰にも言ってない事なのに・・・
「なんで知っている?俺誰にもその事言ってないのに…」
浜野はすました感じで説明を始めた。
「わたし、見ていたんだ。木から降りられなくなった子猫助ける姿みて優しい人なんだなぁって気になって、その後もしばらく子猫の面倒をあそこで見ていたでしょ。わたしずっとその姿を見ていたの。あそこって屋上からよくみえるんだよ。それからあたし一生懸命に話しかけて仲良くなろうと頑張っただけどさ…楠木くんなかなかこっちみてくれなくて結構ショックだったんだよ。」
そう言ってちょっと悲しそうな顔をしていた。
「屋上から見られていたなんて知らなかった…。中学の頃、俺は本当にやな奴だったと思う。やな思いさせて悪かった…ごめんね。」
「ううん…今はぜんぜん気にしていないから。」
「じゃ、中学の頃から偶然のことだったんだね。偶然屋上から見られて、偶然同じ日に振られて、偶然再会した。」
「ちょっと違うかも。だって3回も偶然が続くのはもうそれは必然だとわたし思う。きっとこれはサンタクロースからのクリスマスプレゼントで、わたしの思いをサンタクロースが叶えてくれたんだってそう思えるの。」
今後は嬉しそうに表情を変えて語ってくれた。
「そうか、偶然も続けば必然か…俺たちは出逢うべくして出逢ったとことかな。」
「そうよ。きっと。」
浜野さんのとの出逢いは運命なのかもな。俺は意を決して浜野さんに言うことにした。
お互いの気持ちは分かっているけど、まだ付き合おうとは言ってない。たからちゃんと言葉にしないといけないと思った。少しシャンパンのアルコールの力を借りて浜野さんに伝えることにした。
「浜野さん…俺と正式に付き合って下さい。お願いします。」
そう言って俺は頭を下げた。
浜野さんは何も喋らずにいた。
頭を下げているので浜野さんの表情はわからない。
短いような長いような時間が過ぎ浜野さんが話してきた。
「楠木くん…」
そう言われて顔を上げた。そして浜野さんの表情を見ると笑顔ではあるけど目からは涙が溢れ出していた。
不謹慎だとは思ったけどその姿が天使かと思えるぐらい綺麗でただただ見つめる事しかできなかった。
そして静かに浜野も頭を下げて
「こちらこそよろしくお願いします。」
そう言ってくれた。そして遠くの方からシャンシャンと鈴の鳴る音が聞こえ
だんだんと遠ざかるような気がした。これはもしかして・・・
これはサンタクロースのプレゼンとだったのだと・・・
この出会いの奇跡に感謝・・・
楠木隼人目線の話はこれで完結です。
次回からはもう一度、浜野くらら目線で最初からの話になります。