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楠木隼人編 第三話

「楠木~こんな所でなにやっているんだ?」


俺と浜野さんは飛び上がるほど驚いてお互い慌てて離れて座り直した。

一体誰だこんなタイミングで話しかけてくる不届きものは…

そう思いながら声の方を見るとそこには見慣れた大学の友人が立っていた。


「楠木もデートか?そういや昨日から気合入ってたもんな。」


そんな事を言うこいつは大学に入って直ぐに意気投合して仲良くなった高梨たかなしだった。

まったくもって絶妙なタイミングで来やがってあと少しだったのに…気軽に話しかけてくる高梨に少々苛立ちを覚えたがその後それどころではなくなってしまった。


高梨が浜野を見た瞬間驚いた顔をしていた。そして


「くららちゃん…どうして楠木と一緒にいるんだ・・・」


その声驚いて振り返り浜野さんが答えた。


「え・・・た、高梨くん・・・どうして・・・ここに・・・」


「あの後、そのまま帰るのが悔しかったからぶらぶらしてたんだよ。まさかこんな形で再開するとはな。」


怒りが混じったような声で言ってきた。


「ご、ごめんなさい・・・」


「そうか、楠木に近づくために俺を利用したのか。通りで・・・」


突然の二人の言い合い、どうやら二人は知り合いのようだった。

二人の雰囲気がなんだか知り合いだけではないような・・・


「違うの、楠木くんと会ったのは偶然なの」


その言葉で悟ってしまった。浜野さんが高梨に言い訳を言っている。

それは俺との事はたまたまで本命はあなたなのよと言っているようなものだよな・・・


高梨はそういえば、数ヶ月前に新しい超美人の彼女を落としたと俺に自慢していたっけ・・・高梨の彼女って浜野さんだったのか。


ということは、高梨が今日はバイトかなにかで忙しくて会えなかった所に俺が偶然いたので懐かしくなって声をかけたのか・・・彼氏に会えない寂しさを俺に求めていたってことか…なんだ…一人で盛り上がってバカ見たいじゃないか・・・


無性に苛立ちを覚えた。ここにいる俺は邪魔者だよな・・・


「・・・高梨、浜野さん、俺は邪魔だよな。高梨・・・彼女連れ回して悪かったな。浜野さんとはご飯食べただけだからなんにもなかっからな。・・・邪魔者はここで消えるよ。」


そこまで言うと俺の目に熱いものがこみ上げてくるのをグッと力をいれて堪え、俺は後ろ振り返ることなく走り出した。うしろから「楠木!」「楠木くん!」と聞こえていたが振り返ることなくその場を走り去った。


どこまで走っただろうかこんなに走ったのはいつ以来だろうか。体力の限界まで走り続けた俺は見知らぬ公園のベンチに腰を下ろした。荒い息遣いが徐々に収まってそれと共に寂しいが体中を支配した。


「バカだ・・・俺は・・・まるでピエロじゃん・・・一人で盛り上がって・・・もしかしたらなんて思った俺が・・・しょせん降られるような男突然もてるわけないか・・・ははは・・・」


そう思ったら全身の力が抜けてベンチにうなだれていた。そのままどれだけの時間たっただろうか。すっかり時間感覚がなくなって放心状態だった。その時だったポケットにしまってあった携帯のバイブが震えた。きっと浜野さんか高梨だろう・・・あるいは一緒にいて電話してきたのかもしれない。でもとても出る気にもなれず携帯を確認することもなかった。


そんな事が2回ほど続いてたまらなくなって俺は着信履歴も見る事なく携帯の電源を切った。


ここにいても仕方ないし俺はだるい体を動かし立ち上がってフラフラと家に帰るべく駅に向かって歩きだしたが、勢いで走ってきてしまったのここがどこだかわからない・・・。


再度、自分の馬鹿さ加減に呆れた。なんとなくこっちから走ってしたかもと感を頼りに歩きだした。しばらく歩くと見慣れた建物が見えてきた。俺の通っている大学の校舎だった。


「なんだ以外大学の近くだったのか、どこをどう走ったのやら…まあいいや、ここからは駅までそれほど時間もかからないしのんびり行こう」


とボソボソ独り言をつぶやきながら駅に向かった。

駅のロータリーに着くとそこには浜野さんと高梨が立っていた…


俺は慌ててそこから離れようとしたけどその前に2人に発見されてしまった。駆け寄ってくる二人。逃げるタイミングも失い立ち尽くす。


「楠木くんどこいっちゃてたのよ。心配したんだから。でも無事で良かった。」


「そうだよ。楠木。突然走って行くからびっくりしたよ。」


そう言って二人は優しい言葉を俺にかけてくれた。ということは二人の間の疑いは俺がいない間に解決したってことか・・・そして俺との時間は終わったってことか・・・敗者は去るのみ・・・


「心配なんかしなくても大丈夫。俺は帰るからこの後は二人は楽しんで、じゃ・・・」


そう言って俺は二人から離れ歩きだした。すると呼び止めるように背後から浜野さんが話してきた。


「楠木くん。どうして帰っちゃうのよ。なんでよ・・・」


そこまで言うと浜野さんは目に涙を溜めていた。俺はその姿を見て何も言えなくなってしまった。


「そうだよ。楠木お前が帰ることないだろ。一緒にたのしめよ」


さすがにそれはないだろ・・・怒りがこみ上げてきた。俺は怒り任せに怒鳴ってしまった。


「ふざけるな!!確かお前の彼女を食事に誘ったのは悪かったよ。それは謝る。だけどな何か俺も一緒に行ってお前ら二人がイチャイチャするのを見せつけるのか!!」


そう怒なると浜野さんと高梨はキョトンとしている。なにを言っているのかと不思議そうにそうにこちらを見ている。そして高梨が


「ちょ、ちょっとまてって!!楠木勘違いしているぞ。俺とくららちゃんは確かに付き合ってけど、それは過去形だよ。それも付き合っていたと思っていたのは多分俺だけだよ。くららちゃんには心に決めたやつがいるんだよ。そいつを忘れるために俺と付き合い始めたけど、忘れるどころかますます好きになってしまっただよ。それに気がついた俺は他に好きなやつがいるくららちゃんを振り向かせようと努力したさだけどな勝てなかった。だからくららちゃんとは別れたんだよ。それも今日な・・・」


「別れた・・・それも今日・・・?」


「あぁそうだよ。その後にくららちゃんはお前と会ったんだよ。だから消えるとすれば俺の方だよ。それになぁ・・・くららちゃんのす・・・」


「ま、待って高梨くん。それは言わないで!それはわたしが言わないといけないから・・・」


「そうか、わかった・・・なら俺こそが邪魔者だよな。楠木!逃げずに話せよ。この幸せ者が!!」


そう言って俺の背中に平手打ちした。


「痛ってえなぁ!!高梨なにすんだよ」


そう言って高梨を睨みつけると高梨は笑っていた。


「はははっ!!この一発で俺もスッキリした。じゃな!」


それだけ言うと高梨は足早に駅の改札の中に消えていった。まだいまいち状況把握ができないまま取り残された俺は改札口の方を見つめて固まっていた。その硬直を解いたのは浜野さんの声だった。


「楠木くん・・・わたし・・・本当は・・・知っていたの・・・」


「知ってた?なにを?」


「楠木くんがファミレスでお昼食べた後に彼女さんに振られたでしょ・・・」


「な、なんでそれを知っている?!」


「それはね・・・」


そこまで聞いてこんな寒空で話すには時間がかかりそうな気がする。

どこか暖かい所で話した方がいいと思い、


「待って浜野さん、俺なんだかこの話長くなりそうな気がするんだ。どこかゆっくりできるとこで話さない?浜野さんがやでなかったらだけど…」


「うん。わたしもそうしたい。楠木くんとゆっくりと話したい。言いたいこといっぱいあるから。」


浜野の了解も得たし、何処かの店に入ろうと思ったけど、この辺の店はもうすでにどこの店も閉まっていて開いている店がなかった。


暖かい所…一カ所あるんだけど…まさか来るわけないよな。


「もうどこもお店が閉まっちゃているね。楠木くん…こんなこと言うとちょっと恥ずかしいけど、もしかしてホテルとか予約してない?」


「え・・・」


俺は驚いた。確かに振られた彼女とと思い駄目元シティホテルに予約いれてあって一応遅くにチェックインする予定になっているけど…


「高梨くんが言ってたのあいつは絶対ホテル予約入れてるから、連れ込まれないように気をつけろって。」


「高梨ぃ~!!」


たしか高梨には俺が今日ホテルに予約いれていることは言ってあったがそれをバラすとは、バカがあいつは!!


「確かに予約いれているよ・・・だけどそれは遅くなった時にそこに泊まるつもりだったから・・・」


「やっぱりとってあっるんだ。じゃ、そこに行こうよ。そこなら誰にも邪魔されないしゆっくり時間も気にせず話せるしね。でも変なことしたら叫ぶからね!」


「そんなことしないよ。話をするだけだよ。絶対になにもしない。」


「本当になにもしないでよ」


「絶対にしない!!」


「そこまで言い切られるとちょっと寂しいなぁ…」


「え…」


「あ…なんでもない。ここは寒いし早く行こ。」


「そうだね。寒いし行こう」


ロータリーにいたのでそこに止まっていたタクシーに二人で乗り込みホテルに向かった。

向かっている最中は終始無言でいた。何か話す気になれずに…。


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