楠木隼人編 第二話
席に案内された。そこは窓際の席で景色も中々良かった。
「いい席だね。お姉さんに感謝だね。」
「…あ、あぁ」
何とか返事をしたけど、やばいこのまま姉貴がきてしまう。どうしよう。悩んだ挙句、俺はトイレに行くふりをして席をたった。そして姉貴を探した。キッチンの方をみると忙しそうに姉貴は作業をしていた。声をかけようにも奥に居てとても声をかけられる状態ではなかった。
しばらく様子をみて居たけどやはり忙しそうに動いていて声をかけられず、仕方なく席に戻った。
「遅いよ~」
「ゴメン、トイレ渋滞していて」
「う~ん。確かにこの人の多さだと仕方ないかもね」
何とか遅くなったのを納得してくれたようだった。
席に着くと店員がやってきてた。
「いらっしゃいませ。クリスマスディナーにご予約ありがとうございます。お飲物はどうなさいますか?」
飲み物かお酒飲もうかな。浜野のは飲めるのかな?
「俺はワイン飲もうかな?くららはどうする?」
「わたしも少し飲もうかな。」
「お!くららは飲める口?」
「そんなに飲めないよ。最近何度か飲んだ事があるだけ、まだ自分の適量がわからないかなぁ。だから今日は一杯だけもらうね。でもクリスマスだしシャンパンにしない?」
「クリスマスだしね。シャンパンにしよう。」
「シャンパンをお願いします。」
「かしこまりました。メインはどうなさいますか?」
「何があるんですか?」
「肉料理と魚料理がございます。肉料理は、子牛ワインソースです。魚料理は舌ヒラメのソテーになります。」
「わたしは魚料理でお願いします。隼人はどうする?」
「くららが魚にするなら俺は肉料理をお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
そう言うと店員は下がって行った。つい先ほどまで姉貴の事で慌てていた事を嬉しさのあまりすっかり忘れてたいた。
それからすぐにシャンパンとグラスを2個持ってきて浜野さんと俺の前に置いた。
グラスにシャンパンを注いでくれ、一礼をする「ごゆっくりどうぞ」と言うと静かに下がっていった。
俺と浜野さんはグラスを持ってお互いのグラスを傾け、
「「メリークリスマス」」
と言って軽くグラス同士を接触させ、いい音をさせた。
グラスに入ったシャンパンを口に運ぶと口の中に甘い香りと炭酸の泡立ちと同時に幸せと共に口の中に広がっていった。俺はまさか浜野とこんな時間を共有できるなんて嬉しかった。
たとえ一時の事だとしても…
「このシャンパン美味しいね。どんどん飲めちゃいそう。」
そう言ってグラス入ったシャンパンを飲み干した浜野さんが言った。
俺は浜野さんのグラスにシャンパンを注いで上げた。
「ありがとう。でもそんなにわたしを酔わせてどうするつもり?」
そういいつつ、浜野も俺のグラスにシャンパンを注いでくれた。俺も負けじとおなし言葉を返した。
「そんなに飲まして、おれを酔わしてどうするつもり?」
浜野さんはそれを聞いてクスクスと笑って冗談ぽく、「持って帰る為に」と言って俺をドキドキさせた。たとえ冗談でもそんなことを言ってくれる事か嬉しかった。
料理も運ばれてきて、前菜、スープにパスタ、メイン料理と浜野と楽しく話しながら堪能した。
「美味しかったね。隼人に会えた事に感謝だね。」
そう言われて俺は何かが外れる感じがした。そして「くらら好きだ!!今日一日だけでじゃなくて、これからも俺と付き合って欲しい」と口からでかかった時、忘れていた事態が起こった。
「隼人お待たせ~。本日のクリスマススペシャルケーキだよ。」
と言って俺たちのテーブル席にやってきたのは上から下まで真っ白なシェフの出立でいた姉貴であった。俺は固まってしまった。すっかり忘れていた。
「あ、姉貴…」
それだけ何とか絞り出し姉貴を見た。姉貴は満面の笑みをしながら俺と浜野の前にケーキを置いてくれた。そして姉貴が浜野さんを見た。それと同時に眉間にシワがよる。やばいバレる。
別な彼女とこようとしていた事が…
「隼人~これはどういう事かな?」
「あ…いや…これには訳があって…」
「訳?納得の行く説明してくれるんでしょうね。まさかあんたふ…」
俺は慌てて姉貴の口を手で抑えた。
「違うってだから!!」
そう言うと浜野が
「どうしたの?もしかしてなんかまずい事になっている?」
「なんでもないよ。姉貴がボケボケしているだけだよ」
「何ですって、あんた…まぁいいは、彼女さんのお名前は?」
そう言うと浜野さんは笑顔で答えた。
「始めまして浜野くららです。」
「浜野くらら…さん」
そして姉貴は何かを思い出したように「あ!!」って顔をしたかと思うと「浜野さんちょっと
話があるからこっちきてもらっていい?」と浜野さんの腕を掴んて連れて行こうとした。
「ちょっ!姉貴なにしてんだよ」
そう言うと姉貴はうるさいと言わんばかりの顔で「ちょっと借りるからね。」と浜野を立ち上がらせた。
「姉貴…ダメだって」
「あぁ!!うるさい。女同士で大事な話があるの。隼人はそこで大人しくしてな」
それを聞いて浜野さんは「大丈夫だよ。ちょっと待っていて」と、行ってしまった。
俺は気がきじゃなかった。姉貴が余計な事を言わなきゃいいけど…。多分無理だろうな…
あの傍若無人の姉貴が連れて行ったからにはこの後はきっと浜野さんはもう帰るとか言って帰っちゃうだろうな。最低とか言って殴られるかもな…楽しい時間ももう終わりか…
時間にして10分ほどの時間がたったころに浜野さんだけが戻ってきた。それもちょっと涙目になっているような…姉貴がなんか余計なこと言って浜野を責めたのか…
姉貴のバカヤロー!!心の中で叫んでいた。その間に浜野が席についたので俺は慌てて話しかけた。
「どうした?なにか姉貴が余計なこと言った?大丈夫?」
浜野さんは首を静かに横に振って
「大丈夫だよ。お姉さんって素敵だね。感動しちゃった。」
「え…か、感動?」
なにやら俺の思っている方向とぜんぜん違う方向にいってしまっている感じ。
姉貴が相手を感動させるなんて聞いた事がない。それどころかこけ下ろす事ばかり言っているような姉貴なのに…一体どういう事…頭の中がパニックになってまともに考える事もできなくっていた。
「あんなに素敵なお姉さんがいるなんて羨ましいよ。隼人の事一番に考えてくれていたよ。」
「まさか!姉貴にかぎってそんな事、天地がひっくり返ったってないよ。」
「そんな事言って、お姉さん大事にしないとバチが当たるよ」
俺は姉貴の事を悪く言うと浜野は褒めてばかりだった。たった10分ほど話しただけで一体何があったのか…不思議でならない。
パニックなりつつも何とか話を続け美味しいケーキも無くなり、コーヒーもなくなった。
正直、振られた彼女とはこの後始めてのホテルになんて考えていたんだけど、まさか浜野とってわけにはいかないよなぁ。このまま別れるのもやだし…そうだ!!
俺の大学イルミネーションをやっているんだった今からならまだ時間に間に合いそうだ。誘ってみよう。
「この後、ちょっと外歩かない?いい場所あるんだ。」
「いい場所?どこ?」
「それは行ってからのおたのしみ。」
「え~大丈夫?変な所じゃないよね。」
心配そうに聞いてきた。俺は慌てて答えた。
「へ、変な所じゃないよ。大丈夫だって。」
「慌てる所が怪しいけど、せっかくだから連れてってくれる。」
「もちろん。喜んで!」
「行こうか」と言うと浜野さんと二人で席を立ち、店を出る為に出入口向かった。
キッチンの方から姉貴が浜野の方を見ながらなにか言っているみたいだった。でも声はここまで聞こえなかったが、浜野はコクンとうなずき姉貴の言っている事が分かったようだった。
「姉貴なんか言っていた?」と聞くと浜野さんは「ひ・み・つ」とだけ言って教えてはくれなかった。
浜野さんと連れだって俺は浜野さんに説明しないまま、自分の大学の綺麗なイルミネーションがある場所に向かった。
「ここの駅で降りてちょっと歩くとつくんだよ。楽しみにしていて。」
「あれ?ここの駅は…」
「どうした?なんか知っている駅だった?」
「うん。ちょっとね」
なにか、思い当たる事でもあったかな?あ!もしかしてイルミネーションの事知っているのかな…同じ大学の人ぐらいしか知らないと思ってたけど…驚かせようと思ったけど失敗かなぁ…
いかんいかん。せっかく浜野と楽しい時間を過ごしているのに、明るくいかなきゃ。
「そっかぁ。あ!もうすぐだよ。そこ曲がったら入口だから。」
そうして入口、正確には俺の通っている大学の門に着いた。
「ねぇ、ここって…」
「そっ!大学だよ。」
「ちょっと待ってなんで隼人この大学知っているの?」
「え?何でって、ここ俺が通っている大学だよ。」
「えぇ!!本当に!?」
浜野さんはものすごく驚いていた。しかしそんな事ぐらいで驚くことだろうか?
しかし浜野さんの次の一言で俺は本当に驚いた。
「ここはわたしの通っている大学だよ。」
「えぇ~!!同じ大学!!」
同じ大学だった。なんでいままでまったく合わなかったのが不思議なくらいだ。浜野さんに聞いてみたらどうやら学部が違うため校舎が離れていて合うことがなかったみたいだった。
とんだ灯台下暗しだよ。同じ大学に通っていたなんて…
周囲に気をつけてればもっと早く再開できていたかもしれないのに…
「まさか同じ大学だったとは、」
「本当にそうね。でもこれで会おうと思えばいつでも会えるね」
「え…」
思わず、浜野さんをみてしまった。今後もあってくれるのだろうか?
あまりにもじーっと見つめてしまい。浜野さんが頬を赤らめて横を向いてしまった。横向いたまま
「だって、お姉さんの試食会行くのに待ち合わせとか楽じゃない。」
そうかそうだよね。姉貴の試食会をやるときにくるって言っていたよね。
俺じゃなくてケーキね…会いたいのは…
「そうだね。待ち合わせとか楽だよね」
俺はなんとか笑顔で答えて心で泣いた。俺に会いたいって言ってくれないかな…
しかし今はたとえ一日だけの恋人なんだから残りも僅かだし楽しもう。そう気持ちを切り替えて
「じゃもうここがなにか、わかっているよね。」
「イルミネーションでしょ。在学生か卒業生ぐらいしか知らないから空いていて綺麗だよね。」
「そうだよね。穴場なんだよね。さぁ行こうよ」
そう言って俺は左腕のひじを軽く曲げてどうぞと浜野さんの方に向けた。浜野さんは直ぐに理解したらしく俺の左腕に右腕を絡め寄り添うようにしてきた。これで俺のテンション上がった。門から少しはいるとLEDのイルミネーションが樹々を色鮮やかに飾っていた。
しばらくお互いその光景に魅入ってしまい時間が止まったように立ち止まっていた。
そして俺は浜野さんの方をみた…すると目に涙を貯めてそれが静かに頬を伝って落ちた。
「…くらら、大丈夫?」
「あ…ごめんあんまり綺麗なんで感動して涙出てきちゃった。」
目尻の涙を軽く手で拭き取った。
その姿を見てもう俺は浜野さんを離したくなかった。一つ決意した。
その決意を実行するべく…
「そこのベンチに座ろうか」
「うん」
素直に浜野さんは座ってくれた。その隣に肩と肩が触れるぐらいの距離に俺も座った。
「綺麗だね。」
「そうだね。綺麗だよね。でもくららの方がもっと綺麗だよ。」
そう言って俺は浜野さんの手を持って浜野さんの顔をジッと見つめた。
それに答えるように浜野さんも俺をジッと見つめ返してくる。
俺は静かに顔を近づけた。浜野さんも逃げることなく、潤んだ瞳を閉じてくれた。
もう浜野さんに彼氏がいるとか関係ない俺は今でも浜野くららが好きなんだ。
俺も目を閉じあと少しというと所で…