楠木隼人編 第一話
主人公は二人、楠木隼人と浜野くらら(はまのくらら)です。
今回はそれぞれの目線から書いてみました。
こんなクリスマスがあってもいいなと思って書きました。
まずは楠木隼人目線でお楽しみ下さい。
12月24日の土曜に彼女とデートに出かけた。
お昼をファミレスで食べ終えたあとに
その後の行動を想像していた。
映画をみて、その後こっそりと用意したサプライズがある。
時間的にもそろそろ行こうと思い彼女に話そうとした時に、
突然彼女から俺は振られた。
たった一言「飽きた」の一言で…
それだけいうと彼女は席を立ち帰ってしまった。
俺は突然の事過ぎて思考が停止してしまった。
軽く十分間は停止していたと思う。やっと思考が回復して、なんでだよ…
一生懸命にアプローチをして何度もアタックしてやっとOKを貰って付き合い始めた彼女なのに…
たった3ヶ月しか付き合って無いのにそれもクリスマスイブの日に振られるか普通…なんでだよ…
その後も携帯にかけてもメールしても出る事も無けれは、返信もしばらくこなかった。それから15分後に彼女からメールがきた。『これからデートなの。だから二度と連絡しないで。』と…
その後、着信拒否されているようだった…
途方に暮れながら、こうして生まれてきてから20年…俺の始めての恋愛は終わりを告げた…
手を握っただけでキスすらしてないのに…
クリスマスイブだからと有名パティシエいるレストランのクリスマスディナーに使えるツテを最大限利用してやっとの思いで予約を入れその日のことを考えワクワクしていたのにどん底に落とされてしまった。
一体俺が何をした?彼女に一生懸命尽くしたのに…メールなんかも使いなれない絵文字を使って頑張ったのに…
ショックに打ちのめされながら店を出て俺はどこ行くともなく繁華街をこれからの事を考えながらふらついていた。
折角のディナーだけど一人で行っても寂しいだけだし、キャンセルするしかないかと背中を丸めてうなだれて歩いていると…突然声をかけられた。
「突然すいません。楠木さんですよね?」
確かに俺は楠木だけど、一体誰?
そう思いながら振り返るとそこに立っていたのはとびきりの美人が立っていた。あまりの綺麗さに見惚れてしまい、しばし見つめているとその美人が更に話しかけてきた。
「あの~楠木隼人さんじゃありませんか?」
名字だけでなく下の名前まで俺の事であった。こうなると偶然名字が一緒だったという事でなく、ましてや同姓同名などの確率で言ったらもっと低い。
そうなるとやはり俺の知り合いの可能性がかなり高い。だけどこれほどまでの美人の知り合いはいない。いつまでも無言でいるわけにもいかず、恐る恐る。
「確かに俺は楠木隼人だけど、えーっと…どちら様…でしょうか?」
「えぇ…忘れちゃったの。寂しいなぁ。私は浜野くららだよ。中学校で一緒だった。」
浜野くらら・・・だって・・・そして思わず叫ぶように言ってしまった。
「ええ!!まじで、浜野さんなの?」
大きめの声にちょっとびっくりしたみたいだけどおどけたように答えた。
「そうよ。誰だと思ったのよ。まったく」
浜野くらら…こんなところで再会するなんて…当時の思いが蘇り胸がきゅーっと締め付けられる思いにかられた。浜野くららは俺の初恋相手、奥手だった中学生時代は彼女を遠くから眺めて悶々とした日々を送っていた。
たとえ浜野さんからせっかく話しかけられても恥ずかしくて何も言えず黙ってしまう情けない男だった。
そういえば浜野さんはよく俺に話しかけてくれたっけなぁ。中学時代の数少ない会話した女の子だったなぁ。
面白くもない俺によく…とても嬉しかったのに当時の俺の態度ときたら最悪な態度しかとれず、自己嫌悪によくおちいっていたっけなぁ。それもあって高校に入って新規一転モテ男になるべく
努力をしたがしょせんは、素材に問題があり結局モテる事はなかった。
大学に入ってやっとの思いで付き合い始めた彼女も先ほど、振られてしまい…
モテない村の住人は結局どんなに頑張ってもダメなんだ。
そんな俺に声をかけるなんてどういうことだろう?逡巡していると。
「どうしたの?黙り込んじゃってそんなところ昔から変わらないね」
そう言われてはっと顔をあげて浜野くららを見た。よくよく見ると化粧をしているけど、
当時はショートヘヤだった髪も肩より下まで伸びているけど、当時の面影がある。
喋り方も当時のように元気いっぱいのだった。当時は活発な美少女でかわいかったけど、今は清楚な美人と見える大人の女性になって芸能人かってくらいに綺麗になっているなんて…
パッと見わからないよ。
「ごめん。あんまり綺麗になっているからわからなかった。」
「またぁ、調子いい事言っちゃってぇ~」と笑顔で言われ、ドキドキしている俺はつい先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のようにワクワクしていた。
偶然とはいえ、まさか初恋の相手しかも昔以上に綺麗になった浜野さんから声をかけられるなんて夢のようだ。
だいたいクラスが一緒だったとか生活班が一緒だったぐらいしか接点が無いのに5年ぶりに俺を見つけて話しかけてきたのだろうか?嬉しいけど、なぜだかわからない…
「わたしに見惚れた?」
「あ、あぁ…だって、中学のときもかわいいと思ったけど、こんなに美人になっているなんて思わなかったからあの時の思いを思い出したよ。」
そう口から言ってしまってから、焦ったこれじゃ俺が当時、惚れていたのがばればれじゃないか…
浜野さんは気のせいだと思うけど一瞬目を見開いたように見えた。
そっと微笑みとても小さな声で「そっか…」とその後に続く言葉は小さ過ぎて雑踏の中では聞き取れなかった。
「ねぇ、この後暇?せっかく会えたんだからお茶でもどう?」
とウインクしながら俺を誘ってきた。この明るい態度は昔のままだなぁ。
明るく可愛くてみんなの憧れだった上、こんなに美人になっている浜野くららに誘われて断わるはずがない。
「まじ!女の子から誘われて始めてだよ」
「またまたぁ、そんな事で気を使わなくていいよ。」
「本当だって、ぜんぜんもてないよ。」
「うそだぁ楠木くんと同じ高校に行った友達が言っていたよ。高校入ってからとても明るくなったって。友達もたくさんできていたみたいだって言っていたよ」
確かに高校に入って明るく振る舞って友達は多くできたと思う。だけどあくまでも男友達が増えただけでしかない。モテるとかは全くもって存在しなかった…
「そんなこと無いって高校時代ずっと彼女無しの生活だったよ。思い出しても悲しいよ。」
「そうなんだぁ。なんか友達から聞いていたのとちょっと違うかも。女子に結構人気あって言っていたから。」
「もてた事なんて一度もないよ。」
たった今しがた振らせたばかりですよ…と心の中でつぶやいた。
そんな俺を誘ってくれたのはいいけどちょっと心配になり聞いてみた。
「本当にいいの?今日はクリスマスイブだよ?彼氏とかとどこかに出かけたりしないの?」
ちょっと焦った感じの浜野さんが
「あ、えーっと…大丈夫!この後何も予定ないから!!」
「う~ん…それって彼氏は忙しくてクリスマスどころじゃないとか?」
「う、うん。そ、そんなとこかな。」
そうだよな。これだけ綺麗ならいるの当たり前か…
彼氏がいるのにいいのかな。ちょっと心配だ。まさかとは思うけど、お茶していたら彼氏が乗り込んできて「俺の女に手を出しやがって」とかになることはないよな…
「大丈夫なの?男と二人でお茶して彼氏怒ったりしたい?」
「心配しなくたって、大丈夫よ。大丈夫じゃなかったら声もかけないし、お茶にも誘わないよ。」
そう言うと浜野さんは俺の腕を持って歩きだし、それに引っ張られるように俺は歩き始めた。しばらくは中学時代の話を懐かしく語り合いながら浜野さんが俺の腕に捕まるように寄り添っていた。
はたからみたらまるで恋人同士に見えるんじゃないかと思える。浜野の態度にドキドキしながらなるべく平静を装いながら歩いた。
「ねぇ楠木くん、お茶しようと思ったけどせっかくだから映画でも見ない?実はさあ映画のチケットが2枚あるんだ。」
「映画かぁ。いいけど本当に大丈夫?これってまるっきりデートだよ。彼氏に怒られちゃうよ。」
そう言ってから俺は胸が苦しくなった。彼氏に対しての罪悪感と初恋の相手からの誘いが嬉しくてたまらない幸福感が体の中で陣取り合戦を繰り広げていた。
「心配しなくても大丈夫。ダメだったらそもそも誘ったりしないよ。さっきも言ったでしょ。せっかくだから行こうよ。」
そう言って浜野さんに押し切られてしまった。
映画館に入ってみた映画は、出会いと別れを繰り替えしながら純愛を貫く二人の物語だった。見終わって映画館出て近くの落ち着いた雰囲気のカフェに入った。
二人でエスプレッソを飲みながら映画感想を語った。
「映画の良かったね」
「そうだね。浜野さん感動して泣いていたしな。」
「だってあんな感動的な話なのだもん。思い出しただけで…」
そう言うと浜野さんはハンカチを目尻当てて涙を拭った。泣いている顔も綺麗だった。
「本当に感動的だったよな。あんな恋をしたいよ。」
「なに言っているのよ。直ぐにできるよ。楠木くんかっこいいもの。」
そう言われてちょっと嬉しかったけど俺の好きなのは浜野さんだから叶わない恋だな…
映画のような展開になるわけないよな。俺の一方的な片思いだし、浜野さんには彼氏がいるんだからな。
でもせっかくのチャンスもう二度とないかもしれないなのだから映画も見たし、この流れで別の女性の為に予約したディナーだけど誘って大丈夫かな。ちょっと引け目を感じるけどもったいないし思い切って誘ってみよう。
「浜野さんは、この後のまだ時間大丈夫?」
「今日一日フリーだから遅くなっても大丈夫」
そう言われて軽く深呼吸をしてから
「俺と一緒にクリスマスディナーに行かない?実は一緒に行く予定だった相手が来れなくなっちゃってどうしよかと思っていたんだ。一人で行くのやだし、キャンセルするのももったいないし、どう?」
ちょっと考えている感じの浜野さん…やっぱりやだったかなぁと思ったけど答えは嬉しい答えだった。
「いいよ。せっかくの機会だから食べに行こうよ。」
俺は心の中でガッツポーズした。でも俺ってついいましがたまで振られたとはいえ恋人が居てその人の為に取ったディナーで別の女性を誘うなんて…不謹慎かもしれない。
でも、こうして浜野さんと面と向かって話していると俺の先ほどまでの恋は恋じゃなかったかもしれない。恋人がいないことを焦るばかりに兎に角ノリの良さそうな相手に好きだと思い込んでただ単に恋人がいることに憧れているだけだったのかもしれない。俺の本当に好きなのはやっぱり浜野さんなのだと確信してしまった。
そんな俺の思考を浜野さんの行動でピタリと止まった。
浜野さんがテーブルの上に置いた俺の両手の上に合わせるように自分の両手をかぶせてきた。そして優しく言ってきた。
「ねぇ…今日はクリスマスイブなんだし、これから行くクリスマスディナーは恋人同士で行くようなディナーなんでしょ。だったら二人は今から恋人同士っことにしよう。一日だけの恋人って
ロマンチックでしょ。フフフ♪」
俺は焦った…まさか浜野さんが恋人同士なろうなんて言ってくるなんて思いも寄らないサプライズだ。
たとえ一日だけの恋人でも浜野さんとなれるならそれだけでいい。最高だ。あまりの嬉しさに声が裏返って返事をしてしまった。
「ほ、ほ、本当に!?お、お、俺は物凄く う、嬉しいけどだ、大丈夫?彼氏怒られそうだ…」
そう言うと浜野は小さく「大丈夫だよ。」言うと、
「これで成立ね。ただいまから私たちは恋人同士。だから楠木くんのことを隼人って呼ぶね。だから隼人もわたしの事、くららって呼んでね」
「なんだか照れ臭いなぁ」
「じゃー練習ね。隼人、わたしを呼んで。」
そう言われて、ドキドキしながら小さな声で
「…くららさん」
「さんはいらないでしょ。もう一度。」
浜野は納得しないらしくもう一度要求してきた。こうなったら男らしくガツンと言おう。
気合を入れて「くらら!」と言ったら思いのほか大きい声になってしまった。
その声にカフェの中にいた人たちが何事かと一斉にこちらと向いた。
慌てて立ち上がり周りの人に「なんでもないです。騒いですいません。」と頭を下げて謝り再度座った。
「びっくりさせないでよぉ~。そんな大きな声で呼ばなくても聞こえるよ。」
笑いながら「恥ずかしいなぁ」と言いながら喜んでいるようだった。
名前呼ぶだけで喜んでくれるなんて…そう思うと思わず口が開いていた。
「くらら」
「はい?」
「くらら」
「はい!」
「くらら」
「もうどうしたのよ。何回も♪」
やっぱり喜んでいる。俺が名前を呼ぶたび素敵な笑顔を返してくれる。やっぱり俺は物凄く浜野さんに惚れているんだと自覚した。やっぱり振られた相手には、こんなにも惚れているって気持ちがなかったかもしれない。兎に角彼女が欲しくて突き進んでいたかも…
彼女ができたという思いばかりで相手の事何も考えていなかったのかもしれない。何と無くかわいいかもって気持ちだけだった。これでは振られるのは当たり前か…
自分の事しかなかったんだ…改めて悪い事をしたと反省した。今度あったらちゃんと謝ろう…
「隼人?どうしたの?黙り込んで」
「ちょっと反省していた。」
「反省?大きな声だしたこと?」
「う、うん。まぁそんなところ」
まさか振られた彼女の事を考えてたなんていえないによな…
振られた彼女の事はとりあえず置いといてせっかくの浜野との機会だから楽しまなきゃ。
「そろそろいい時間だからディナーに行こうか?」
「うん。」
そう言ってカフェを二人で出た。
カフェを出ると浜野は俺の腕に自分の腕を絡めて軽く体重を預けるようにしてきた。
そして肘に柔らかい感触が…俺は飛び上がりそうになりながら必死平静を装おうとしたが、みるみる顔が赤くなるのが自分でも自覚できた。浜野さんにばれないように慌てて反対側を向いたけど…きっとばれているよな。
「隼人どうしたの?反対向いて。」
そうして浜野さんが俺の腕を引っ張ると浜野さんの胸がさらに繰り返し俺の肘に当たる。
感触の嬉しさよりも気恥ずかしさ先に来ていましなんとか一言だけ「なんでもない」というのがいっぱいいっぱいだった。
しばらくそのままあるいていたら何とかこの状態にも慣れてきて歩きにも余裕がうまれてきた時に浜野から話しかけられた。
「予約は何時?」
「19時だよ。」
「よく取れたね。今日は取るの大変じゃなかった?」
「大変だったけど、ちょっと裏技があってさ。」
「裏技?」
「そう、裏技!実はさぁ俺に姉貴いるの覚えている?」
「うん」
「その姉貴がさ、その店でパティシエやっているんだ。まぁ修行中らしいけどね。それで姉貴に頼んでとってもらったんだ。まぁ見返りを要求されたけどね…」
「へぇーあのお姉さんがパティシエなんだ。すごいじゃないあんな有名なお店に入れるなんて!」
「どうやって入ったかわからないけどね」
「おかげて太りそうだけどね。姉貴の練習で作ったケーキやらなんやらを山ほど食べさせられるんだよ。今回のディナーも試食が交換条件だったしね。年末年始が怖いよ。」
「いいじゃないケーキをいっぱい食べられて羨まし~い。試食会あったら今度呼んでね♪」
「本当に!?姉貴喜ぶよ。いろんな人の意見聞きたいって言っていたから」
「じゃ、そのためにもアドレスの交換しよ♪」
そう言われて俺は驚いた。今日一日だけの恋人同士っことになったのに連絡先を交換しよだなんて、てっきり食事して終わりかと思っていたのに嬉しい誤算だ。これを機会に仲良くなれるかもしれない。
そう思い携帯を取り出し赤外線通信で連絡先を交換した。こんな形でまさか浜野の携帯番号をゲットだよ!!まるで夢のようだ。夢なら覚めないで!!
例え恋人になれなくても友達にはなれるかもしれない。
姉貴のいる店の前できて、俺は重大な事を忘れていた。
姉貴にお願いする時の条件が二つあった。一つは試食する事ともう一つは彼女の写真を見せて当日合わせる事だった。事前に振られた彼女の写真を見せていたのだ。
今の浜野さんとはまるっきり正反対の茶髪に悪く言えばギャルっぽい彼女の写真を…
まずい非常にまずい…
姉貴の事だからまず間違えなく席まできて浜野さんの事を見て人が違うと詰め寄るはず…
何を言われるかわかったもんじゃない。何とか姉貴を前持って状況を説明しなければ…
浜野さんがせっかくきてくれたのに気を悪くするかもしれない。姉貴はずけずけなでもすぐ言うからなんとかしないとまずいな。せっかくゲットした連絡先を消して。とか浜野さんに言われるかもしれないし、困ったな。
「どうしたの?入口の前で立ち止まって?」
「あ、あ…じ、時間が早いかなって思ってさ。」
頭の中で俺は姉貴の対応でいっぱいいっぱいだった。
「時間?後5分で19時だよ。丁度いい時間でしょ。さぁ入ろうよ。どんなのが出てくるか、楽しみ♪」
「そ、そうだね。入ろうか。」
そう言って入口のドアを開けた。姉貴の対応が思いつかないまま…