何でも欲しがる義妹に友達100人奪われ辺境校へ。「なかよしすることはない!」と突き放した新たな友達100人に溺愛され、元友達も遭難から救ったら200人に囲まれて山頂でおにぎりパックンすることに!?
「お姉様、そのお友達、ぜーんぶ私がもらうね?」
それが、血の繋がらない義妹・ミーナが私に向けて放った最後の略奪宣言だった。
ミーナは昔から何でも欲しがる子だった。私のお気に入りのドレスも、婚約者も。彼女が「これ欲しいなぁ」と涙目で庇護欲をそそる仕草をすれば、周囲の大人たちは皆、私に「姉なんだから譲ってあげなさい」と強強いた。
だが、ミーナが最後に欲しがったのは、物質的なものではなかった。
私が本校(エリート学園)で、持ち前の調整能力を活かしてコツコツと築き上げてきた『100人の友達』――その絆そのものだった。
ミーナの安っぽい嘘に騙された本校の100人は、一斉に私を裏切った。
「嘘つき女!」「あんなに健気なミーナちゃんを虐めるなんて最低だ!」
そうして私は、誰も行きたがらない不毛の地――【辺境のマグナ学園】へ厄介払い同然で転校させられたのだ。
◇
だが、転校先のクラスで私を待っていたのは、元魔王の末裔、狂戦士、竜族の姫、冷徹な元暗殺者……。一癖も二癖もある『辺境の猛者100人』だった。彼らは私を「本校から来たお高くとまったお嬢様」と敵視し、一触即発のオーラを放っていた。
人間関係に心底疲れ果てていた私は、彼らの威圧を真っ向から跳ね返すように毅然と言い放ってやったのだ。
「いい、私はあなたたちに媚びる気なんて一切ないわ。――だから、お前らとなかよしすることはない!」
売られた喧嘩は買う。関わってくれるな。そういう意図の発言だった。
……はずだったのに。
「……ほう。俺たちを目の前にして、一歩も引かないとは」
「『なかよしすることはない』……つまり、生半可な馴れ合いではなく、魂の真剣勝負を求めているということか……! なんて気高い女だ。気に入った!」
なぜか辺境の100人は私の言葉を『圧倒的強者の余裕』と超解釈し、翌日から私を「ボス」と崇めて狂信的に溺愛し始めたのだ。私が「なかよししないって言ってるでしょ!」と突き放せば突き放すほど、「ツンデレなボス、マジ最高!」と絆が深まっていく。私は頭を抱えるしかなかった。
◇
転校から数ヶ月。秋の一大行事として『本校・辺境校合同修学旅行:御山踏破競技大会』が開催されることになった。霊峰と呼ばれる険しい山を登り、どちらの学校が早く全員で山頂に到達できるかを競うレースだ。
「おい、見ろよ。本校の連中、とんでもねえザマだぜ」
登山開始から数時間。辺境校の斥候(元暗殺者)が、ニヤニヤと報告してきた。
見れば、崖の下の立ち入り禁止エリアから、不吉な魔力の煙と、聞き覚えのある悲鳴が響いている。
「けっ! いい気味だ。ボスを裏切って追い出した因果応報だな!」
「ミーナとかいう女のワガママに付き合って、ひらひらの服と軽装で登るからそうなるんだよ。バカじゃねえの。このまま放っておけば、奴らは全滅。俺たちの不戦勝だ。ハハハ!」
辺境校の100人は、口々にそう言って笑い飛ばそうとした。彼らは私を傷つけた本校の人間を、自分のことのように心底憎んでくれていたのだ。
だが、私は崖の下を見つめたまま、足を止めていた。
……確かに、私を裏切った彼らは憎い。だけど、彼らが窮地に陥っているのは、私という『完璧なマネージャー』を失い、登山の準備やルート選定を誰一人としてまともに出来なかったからだ。
「……笑っている場合じゃないわ」
私の冷たい声に、辺境校の100人がピタリと静まり返る。
「ライバルだからこそ、正々堂々と勝負して勝たなきゃ意味がないでしょ。それに、目の前で人が死ぬかもしれないのを知っていて、それを見過ごすような奴らを、私は私の『お友達(候補)』とは絶対に認めない!」
私は新友達100人をまっすぐに見据えて、力強く言い放った。
「――助けに行きましょう!!」
その瞬間、辺境校の100人の目に、猛烈な熱い炎が灯った。
「……チッ、ボスの頼みじゃあ、しょうがねえな!」
「全員、ボスに続けーっ! 本校の雑魚どもに、俺たちのボスの器のデカさを見せつけてやるぞ!」
辺境の生徒たちに対して「なかよししない」と言いつつも、誰よりも気高く、命を捨て置けない私の言葉に、辺境の猛者たちは完全にハートを撃ち抜かれた。彼らは一糸乱れぬ最強の救助部隊へと変貌し、崖の下へと飛び込んでいった。
◇
「いやだ、助けてぇ! ミーナの可愛いお顔に傷がついたらどうするのよぉ!」
「ミーナちゃん、下がって! ……くそっ、この魔獣、硬すぎる!」
崖の下の魔獣の巣では、ミーナが泣き叫び、元友達100人がボロボロになって応戦していた。疲労と恐怖で連携はバラバラ。「お前のせいでこんなルートに入ったんだぞ!」「そっちこそ、ミーナちゃんの前で格好つけたかっただけだろ!」と、醜い擦り付け合いが始まり、彼らの友情は完全に崩壊しかけていた。
そこへ、絶体絶命のタイミングで、天から強烈な一撃が降り注いだ。
ズドォォォン!!!
元魔王の末裔が放つ漆黒の魔法が、空間ごと魔獣の群れを消し去る。狂戦士の大剣が風を切り、竜族の姫が放つ炎が周囲の冷気を一瞬で吹き飛ばした。
ほんの数分。本校のエリート100人が総出でも歯が立たなかった魔獣の群れが、辺境校の圧倒的な力によって駆逐されていく。
その中心で、凛として立つ私の姿を見つけ、元友達100人は呆然とした。
「あ、あなた……どうして……俺たちは、お前を裏切ったのに……っ!」
私はふいっと目を逸らし、少しぶっきらぼうに言った。
「……べ、別にあなたたちのために助けたんじゃないわよ。競技を途中で投げ出されるのが癪だっただけ。ほら、立てるならさっさと立ちなさい!」
その相変わらずの、しかしどこまでも真っ直ぐな態度に、元友達100人は自分たちの愚かさを激しく悟り、突きつけられた。ミーナの甘言に惑わされ、どれほどかけがえのない存在を傷つけ、失ってしまったのかを。
「俺たちは……なんて馬鹿だったんだ……!」
「ミーナの嘘に騙されて、こんなに優しくて、俺たちのことを分かってくれていたお前を捨てるなんて……!」
「ごめん、本当にごめん……!」
エリートとしてのプライドを捨て、100人の元友達は地面に膝をつき、涙を流して私に謝罪した。こうして、新旧のわだかまりは綺麗に溶けて消え去った。
◇
やがて、雲を突き抜けた美しい霊峰の山頂。
そこには、エリートも辺境も、過去の因縁も関係なく、互いの健闘を称え合って笑う200人の生徒たちの姿があった。
「よし、全員無事に登頂完了! それじゃあ、お待ちかねのご飯にしましょう!」
私の合図で、200人が大きな円を作った。
山頂の澄み渡った空気の中、配られたのは、私が事前に用意を指示していた特製のおにぎりだ。
その数、ぴったり201個。
内訳はこうだ。
辺境校の生徒が100人。私の分が1人。そして、涙を流して改心し、再び私をリーダーと認めた本校の元友達が100人。
100 + 100 + 1 = 201個。
そう。本校の元友達100人は、自分たちを遭難させ、身勝手にサボろうとしたミーナのことを、「おにぎりのカウント(仲間)」から完全に除外していたのだ。
「えっ……? うそ……ミーナの分は……?」
泥だらけで、お気に入りの高級ドレスは引き裂かれ、自慢のヒールがへし折れた靴を抱えたミーナが、ぽつんと一人、輪の外で青ざめていた。
そんなミーナに、元友達の一人が冷たい視線を向ける。
「ミーナ、お前の分なんてあるわけないだろ。お前はただの足手まといで、俺たちを殺しかけたんだからな。……いや、そもそも最初から、お前は俺たちの『友達』なんかじゃなかったんだ」
その言葉を合図にするように、私は201個目のおにぎりを掲げて声を張り上げた。
「それじゃあ、みんなで……せーの!」
『パックン!!!』
200人の大きな口が、おにぎりを一斉に頬張った。
米の甘みと具の塩気が、疲れた身体に染み渡る。元友達も、そして私に「なかよししない」と突き放されながらもニヤニヤしている辺境の100人も、みんなが顔を見合わせて、今日一番の満面の笑みを浮かべた。
「「「100人(+100人)で食べると、めちゃくちゃ美味いな!!」」」
山頂に地鳴りのような歓声が響き渡る。
「おいボス! 次の休み、俺の地元に遊びに来てくれよ!」「ずるいぞ、私の里が先だ!」
私は新旧200人の友達から揉みくちゃにされ、抱きつかれながら、「ちょっと、苦しいってば!」と幸せな悲鳴を上げていた。
――そんな、温かく輝かしい輪の、ずーっと外側。
「お腹空いたよぉ……おにぎり、一口でいいから頂戴よぉ……」
ミーナが涙を流し、蚊の鳴くような声で周囲に縋ろうとする。
だが、誰一人として彼女を見ようともしなかった。怒る者も、責める者も、意地悪をする者すら誰もいない。ただ、全員が美味しそうにおにぎりをパックンする中で、彼女だけが1個足りない現実に直面し、「完全に存在しない空気」として処理されていた。
何でも欲しがり、他人のものを奪うことでしか満たされなかった義妹が、最後に手に入れたもの。
それは、どれだけ泣き叫んでも誰の耳にも届かない、底無しの、永遠の孤独だった。
◇
下山を始める200人の大行列の先頭で、私は両側から何十人もの腕に引っ張られていた。
「ちょっと辺境のみんな、引っ張らないでってば! だから、私はあなたたちとなかよしする気はないって、最初から言ってるでしょー!?」
「なかよし」を遥かに通り越して、世界の覇者になりそうな辺境の100人と、すっかり元通りになった本校の100人に全力で溺愛される私の嬉しい悲鳴は、どこまでも高く青い、秋の空へと響き渡っていった。




