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家に着いた。

まあ、家と言ってもとてもデカいお屋敷で、住み込みの使用人が暮らすために一つの町のようになってるのだけど。

そんな我が家の中にある自室に彼を支えながら案内する。使用人には会わなかったので、両親に知らされることはないだろう。いつかは知らせなければいけないが。

押し入れから布団を出して、彼をそこへゆっくり寝かす。

まずは彼の傷の手当てをしなくては。

でもその前に……。


「私は詩条千莉というの。あなた、名前はなにかしら?」


彼は大層驚いたような顔をする。

なぜそんなに驚いているのか、気になって聞いてみる。しかし、求めていた答えは返ってこなかった。


「俺なんかによく平然と喋りかけれるな。」


彼は少し怒ったような顔をして言う。なぜ怒っているのかわからないのだが、ここは自分の気持ちを正直に伝えるべきだと思い、心のまま声に出した。


「あたりまえじゃないかしら?」


彼は、豆鉄砲を喰らったような顔になった。しかし、本題はそこではないと思い直し、話を戻す。


「それより、貴方の名前は?」

「……ない。牢屋にいた時は、449番と呼ばれていた。」


名前がないのか。それならば、私が名前をつけていいだろうか。下心満載な本音を隠して彼に聞く。


「そう。じゃあ、なんて呼ばれたい?」

「なんとでも。」


本当に私が決めてもいいかもしれない。歓喜しながら、恐る恐る聞いてみる。


「……なら、私が決めていいかしら?」

「あぁ?」


ダメだったか。少し落ち込んでいると、上から私を喜ばすのには十分な美声が降ってくる。


「まあ、悪くはないが……。」

「本当!それじゃあ……。そうね……。おうかってどうかしら?桜に佳って書いて、桜佳!」

「いいんじゃないか?」


彼はそっぽを向いて言う。自分のことなのに、あまり興味がなさそうだ。


「ちょっと、貴方の事なのよ?まぁいいわ。それより傷の手当てね。少し見せてくれるかしら。」

「は?」


彼はさっきの比じゃないぐらいの驚いた顔をする。どうしたのかと聞くと、こう返ってきた。


「こんな醜い身体、見たくねないだろ。」


世間一般ではそうなのかもしれないが、私としては役得という感じだ。


「そう言う訳じゃないのだけど……。とりあえず、これ以上酷くなったら大変だから、傷見せてちょうだい。」


戸惑った表情の桜佳は念押しといった感じで言う。


「吐くなよ。」

「吐かないわよ。」


彼の傷は思った以上に酷く、私じゃ手に負えなかったので、医者を呼び、手当してもらった。手当にきた医者は、顔色が悪く、しんどそうだったので、少し休暇を出す事にしよう。


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