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私は転生者だ。
それは、物心ついた時から気づいていた。
二次創作やラノベなどでたくさん見てきた、前世持ちってやつだ。別に前世の記憶があるからといって、無双できたわけではない。なんといっても前世の私は平凡な会社員だったので、特に専門的な知識があるわけでもなかった。なので、ラノベとかでよく見る『前世の職業が〇〇だったから無双できました!』みたいなことはできなかったのだ。転生者なのがいつかバレるかもしれなかったが、流石に大人なのでいろいろと対策をして無事、今まで誰にもバレてはいないはずだ。
私が転生したこの世界は簡潔に言うと『江戸時代っぽい男だけ美醜逆転の世界』だ。この一言で大体説明できてしまっているので、特に詳しく説明することもあまりない。
別に美的感覚などは時代によって変わるものなので、美醜逆転でもなんでもいいのだが、一つ解せないことがある。それは、この世界基準の不細工が異様に差別されていることだ。そのような差別は街中でも平然と行われていて、売り物の値段が容姿の良し悪しによって変わったりしていた。
酷いルッキズムを変えようとする人たちはごく少数で、これから変わるような兆しもない。私の実家は金と権力を持っているので、私はその権力を使って改善しようとしているが、一向に良くならない。それぐらい、この世界にこびりついた差別は無くならないものだった。
そんな差別の解消に奔走していると、いつのまにか十八歳になっていた。
この世界では、そろそろ結婚するという年齢。親は全国規模で有名な権力者なのと、私の容姿もそこそこ良い方なので、最近は見合いの釣書が殺到している。だが、この世界の人は皆平然と差別をして、それを悪いことだとも思っていない。正直そんな人とは結婚したくない。結婚するなら差別しない人がいい。しかしそんな人は本当にごく少数だと言える。
私は一生独身遠貫くかも知れない。
この世界での未婚者はあまりよく思われない。しかも、家の後継のために必ず結婚しなければならないだろう。しなければ、父や母が無理矢理私をお見合いに引き連れていって結婚させそうだ。それは避けたいので、なんとか自分の感覚で結婚相手を決めたいのだが……。現状は芳しくない。
***
その日、私は運命とも思えるぐらいのどタイプな人に出会った。
私は街へ買い物に来ていた。
この日は季節の変わり目の真っ只中。
新しい涼しい着物が必要なのだ。
裕福な家は店の人に家へ来てもらって買い物をする。でも、私としては自分の足で呉服屋がある街一番の商店街へ行って、ウィンドウショッピングや買い物を楽しみたいのだ。そうは言っても私は一応見知らぬ人から狙われる可能性のある立場なので、近くまで輿で連れていつもてもらうのだが。それでもなんとか親に頼み込んで、自分の足で新しい着物を買いに来ていたのだ。
そんなことをつらつらと考えながら、のんびりと商店街を歩いていると、何やら人が集まっているところがあった。
少し覗いてみると、そこで私は見てしまった。
怪我をしており、手を後ろで縛られ地面に膝をつかされている、今まさに公開処刑されようとしている青年を。
私は内心こう叫んでいた。
どタイプなんですけどー!!
少し汚れでくすんでいるが、手入れすれば綺麗になるだろう、肩につかないぐらいの黒髪に、黒々とした鋭い切れ長の瞳。その瞳には、処刑される直前だと言うのに、なんの感情も浮かんでいない。それどころか少し恍惚としているようにも見えなくはない。
薄い唇は色気を醸し出していて、スッと通った鼻筋が羨ましい。キリリとした眉は彼の格好良さを引き立てていて素晴らしい。それらのパーツが最適解のように並べられていて、美しいその顔を作り出している。
スタイルも素晴らしいだろうと伺える。背も高く、程よく筋肉もついているが、ムキっとしているわけではなく、綺麗な曲線を描いている。
しばらく、何をするわけでもなく大人しく青年をガン見して「眼福!」と思っていたが、本当に処刑されそうになったので、これはいけないと助け出すことにした。しかし、どう助け出そうか。順当に考えて金か。
舐められてはいけないと、なるべく尊大に話をしよう。
「そのお方、私にくれない?お金なら払うわ。」
静まり返った野次馬が一気にこちらを向く。
空気がピンと張り詰めたが、すぐさま私が大金持ちの娘だと気づき、野次馬たちはへこへこし出した。
「詩条様、これはこれは。わざわざ御足労頂き、ありがとうございます。」
青年を処刑しようと、刀を構えていた処刑人が、刀を鞘にしまって私に話しかける。
「それで、なぜ詩条様はこのような不細工な罪人を欲してらっしゃるのです?」
「なぜ私が理由を言わなければいけないの?いいじゃない、くれても。どうせ処刑するんでしょう?」
「まぁ……、そうなのですが……。」
渋る処刑人。
まあ、そうだろうな。いくら処刑予定だとしても、それを一般人に渡すわけなのだから。
しかし、ここで私も「はいそうですか」と引くわけにもいかない。せっかくどタイプさんを見つけたのだ。必ず連れ帰って見せよう。
必死で、でもそれを悟らせないように、交渉、と言うか値段交渉をしていると処刑人は折れたのか値段に負けたのか、言った。
「……わかりました。その値段でお売りします。」
「ありがと。……はい、お金。」
ポイっと、金がじゃらじゃらと入った麻袋を処刑人に投げ渡す。
ゲスな笑みを浮かべて喜ぶ処刑人を横目に、私は青年に目を向ける。こちらを睨みつけている青年に、私は話しかけることにした。
「貴方の罪はなにかしら?」
「……盗み。」
彼はその美声を発した。
と言うか声まで美しいのか。ここが現代日本なら声優になれそうだ。
「そいつの罪は、一度通行人から金を盗んだ事です。」
喜びから復活したらしい処刑人が口を挟んでくる。
「あら、たかだか盗みで処刑されるの?」
「え?だってこいつ醜いでしょう?」
そうだった。こういう世界だったわ。
この世界に呆れながら、私はさっさとここから離れようと口を開いた。
「まぁいいわ。彼、貰っていくわね。」
私は驚く彼を支えて、颯爽と去っていった。
自分が最初に書いたお話をリメイクしてみることにしました。こう書いてみると、当初の自分の文章が拙いことがよくわかります。今も十分拙いのですが、温かい目で見ていただけると幸いです。




