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楽しい食事と出会い

そうこうして、学園生活を送っているうちにあっという間に外出の日になった。

 黒の森から学園に向かう時に少しだけ見た街並み。絵本やテレビで見たヨーロッパに似ていて、とても可愛らしかった。

 黒の森の子供たちは寄付された衣服に身を包み、小遣いを握りしめ、「楽しんでおいで」と送り出された。

 彼らと同じ処遇の子供たちが重宝していた店の場所に印をつけてある地図を一人一枚ずつもらったので、さほど時間もかからず欲しい物が手に入った。

 寮の部屋に入ってすぐに買わなくては、と思ったカーテンも、数枚の衣服、そして雑貨が数点。学園内にいる限り衣食住の心配はないと言っても、生きている限り必要な物、欲しい物は出てくる。

 ただ、夕貴にはもらった貨幣が日本円でどれくらいなのかも解らない。手に取った物が安いのか、高いのかそれすら判断できない。

 夕貴が手に取り、じっと見ていた時にリオやリノが「いいじゃん」「思っていたより安いな」と言えば「そうだね。これにしようかなぁ」と濁しながら買っていく。

 学ばなくちゃいけないのは文字だけではない。

 夕貴は小学生からお小遣いを月毎にもらっていた。学校で使う文房具は別に買ってもらっていたし、毎回ではないが漫画やお菓子もお小遣いとは別に買ってもらっていたこともある。

 お金が大切なのは知っているが、本当の大切さを知って使っていたかと言えば、違う。

 本当に欲しいわけではなくても、ちょっといいな、と思えば手を伸ばしていた。だが、この世界でそれではやっていけないのだ。本当に必要な物を、長く使えるものを選んで買っていかなくてはいけない。

「二人とも買い忘れはないか?日用品や消耗品は学園が定期的に渡してくれるから、心配はないと思うけど…ユウキの携帯ペン綺麗だな。ノートも買ったのか?」

「うん…ジェット先生のお手伝いする時メモできるように」

「偉いな、ユウキは」

「だって、解らないことだらけだから」

 買ったばかりの手帳ほどの大きさの革張りのノートをペラペラめくりながら、夕貴は笑う。

「兄さん、ユウキ!露店行こう!腹減った」

「ガウ!」

 リオの声に呼応するようにツキが楽しそうに声をあげる。その首にはいままでなかった紫色のリボンが付いていた。

 リボンの端には黄色い糸で“tuki”とこの国の文字で刺繍されている。少しばかり歪んでいるが…。

 授業の一環である刺繍をする、という今までしたこともないことをした頑張りだ。その証拠に夕貴の指には白いテープがたくさん巻かれている。

 良家の子女たちにとって刺繍はたしなみなのか、それはもう素晴しい作品を各々見せ合っていたし、黒の森の子供たちの中にもある程度はできている子供もいた。

 夕貴のように初めて刺繍をする者や少しばかり針と糸を触ったことがある者たちは、まず名前を好きな布に刺繍をする、ということが課題だった。

 綺麗な紫色のリボンがツキに似合うと思い、迷わず手に取り彼の名前を刺繍した。ところどころ糸がはみ出たりしているが、初めての刺繍だ、愛嬌ということでツキには許してもらっている。

 稼いだらちゃんとした首輪をプレゼントしようと、思っている。

「おいしいのあるかな」

「何個か買って4人で食べようぜ」

 リノが当たり前のようにツキを人数に入れたことが嬉しくも、照れと楽しみが半減するのを不安に思い、頭がよぎったことをそのまま口にする。

「ツキは味濃いのとかダメだから、パンと味のない肉になるよ?」

「いいじゃん。味付けなしの肉にしてもらって、香辛料着けてもらおうぜ」

「…リノって懐に入れた相手には本当に優しいね」

 約一か月間にしか一緒に過ごしていないのに、まるで幼い時からの友人のように感じるのはこの兄弟の優しさの為だ。

 あちらにいた時に仲のいい友達はたくさんいたが、ここまで胸の内を明かせる友人だったかどうかは別の話しだ。

 彼らに対しては負の感情が出てこない。何か不満に思ったり、意見が違えばどう思われるか、ということを気にせずに口に出せる。稀有な存在だ。

「リノ。野菜も食べないとだめだ。ツキ、その顔は何なんだ」

「ふははは!すっごい、不満気な顔してる!」

「ぶっ!目、目が細いよ!」

 野菜も食べろ、という言葉を聞いて、それまで楽しそうに夕貴の周りを飛び回っていたツキが、まん丸の目を細め、口はへの字というにふさわしい形をさせて、リオを見ていた。

 ツキの機嫌を取っているリオを見ながら、露店がある通りまで買った物の話しや授業の話し、くだらない話しをしながら歩いていると、人が多くなり、いい匂いがしていた。

「うっわ、おなか減る!」

「思っていたより、露店の数が多いな。ちょっと歩いてから買おうか」

 お祭りのように道の両端には様々な店が立ち並ぶ、まだ小さなツキが踏まれると思い、夕貴は足元にいるツキを抱き上げリオとリノの背中を追った。

 軽食はもちろんのこと、お弁当のような食事から、八百屋、茶器や食器を扱うお店。鞄やアクセサリーなど、雑貨を売る店が所狭しと並んでいて、あちらこちらから活気のある声が聞こえてくる。

 露店の先には広場があり、そこで食べることができるようだ。

「食べたいのあったか?」

「でっかいお肉があった!味なしにしてもらって、ソースもらってきてもいい?」

「俺はサラダとスープを買ってこようかな」

「じゃあ、パンかご飯買ってくる」

 各々買ってから、広場に集合として、夕貴は胸にツキを抱いたまま目星をつけていた露店に急ぐ。

 順番を待っていると、ちらほらと学園で見る顔が通り過ぎる。見知った顔には手を振ったり、軽く話したりすることもあれば、互いに軽く会釈するだけの時もあり、そんな風に周りを見ていればあっという間に夕貴の番になった。

「いらっしゃい!何する?」

「えっと…この子と一緒に食べたいので、味付けなしで別にソースを付けてもらうことってできますか?」

「もちろんだよ。可愛い天狼だねぇ。お嬢ちゃんとその子だけで食べんのかい?」

「いえ、あと友達が2人います」

「味ありとなしに分けなくてもいいのかい?」

 露店の主人は会話しながらもした味も何もつけていない肉の塊を焼いていく。

「友達がこの子も一緒にわけられるように味付けなしにしてもらえばいいって言ってくれたので、大丈夫です」

「おいおい!いい友達だな!」

 大柄な主人は街中で会えば道を開けてしまいそうなほど、厳つい顔をしているが、快活に話し笑う姿はどことなく可愛らしく見える。

 ただ、気になるのは肉の大きさだ。夕貴が思っていたよりも大きく、持っているお金で足りるのか不安になる。

(お金、残しておきたかったけど…小さくしてくださいっていいづらいし)

 露店に貼られている値段分であれば支払うことができるが、目の前で焼かれている塊がその値段とは限らないし、夕貴が欲しいと思っていた肉のサイズよりも大きい。

 そうこう考えているうちに綺麗な焼き目がつき、香辛料とソースがたくさん入った小さな袋も用意され、焼かれた肉はカットされたが、量はそのまま包まれた。

「1,000ガロンだ!」

「えっ?」

 袋の中からお金を出そうとして、夕貴は主人の言葉に勢いよく顔をあげる。

「ん?どうした?」

「あ、の。こんなに大きくて…」

 夕貴の言いたいことが解ったのだろう。主人はニカニカと笑い手を出す。

「いい友達を持ったな。楽しいご飯を!」

 大きな手に紙幣を一枚置けば、勢いよく渡せされる。

 後ろにお客がいるので、まごまごとしていられないが、これは言わないとダメだ。と夕貴は店の前から、体をずらし主人に大きな声で礼を言った。

「ありがとうございます!おいしいお肉で楽しいご飯の時間をいただきます!」

「おう!また来てくれ」

「はい!絶対に来ます!」

 夕貴の声に小さな目を見開いた主人は、とてもいい笑顔で答えてくれた。

 蝋を塗った耐水性のある袋に入った肉とソース、香辛料を両手に持ち、夕貴は温かいうちにと足を速める。

 両手が塞がってしまうので、ツキにはどうしても歩いてきてもらわないといけないので、時折気にかけて足元を見るが、夕貴よりもうまく人の波を避けて小走りをしていた。

(やっぱり、天狼なのかな。…天狼ってなんだろう)

 文字の読めない夕貴に調べる術は少ない。そして、誰もが知っている知識は聞くのが困難だ。

 緑や噴水がある広場には同じように考えていた人々がいて、楽しそうに食事をとっている。噴水からわずかに離れ、木漏れ日が降り注ぐ柔らかな芝生の一角に探していた2人がいた。

「リオ!リノ!お待た…誰?」

 夕貴の目には2人しか見えていなかったが、木の陰に見知らぬ少年が立っている。

 夜の星が瞬いているような美しい銀色の髪と薄茶色の瞳。柔らかそうな髪はウェーブがかかっていて、少年の儚げな印象をより一層深めている。

「ああ、ユウキ。俺たちも今戻ってきたばかりだから。うわ、すごく大きいな…高くなかったか?」

「おじさんが、みんなで楽しく食べなさいって、おまけしてくれたから…どちらかというと申し訳ないくらい安かった」

「もっと野菜買ってきた方が良かったか?」

「君がユウキ?初めまして、僕はヒューゴ」

 リオの呟きを遮るように、体を乗り出してきたのは、リノと何か話していた少年だ。彼の後ろにいるリノは目に見えて機嫌が悪い。

「初めまして。ヒューゴさん」

「ヒューゴでいいよ。僕もユウキって呼ばせてもらうから」

「どうぞ、お好きに」

 ニコニコと笑顔を向けてくる、その顔は王子や貴族といった雰囲気が出ている。着ている服からして、その考えは間違えではないのだろうが、彼がどうこうよりもリノが気になる。

「リノ!買ってきたから、温かいうちに食べよう?お店のおじさんがソースと香辛料、両方くれたんだ」

「…おー…。おい、そろそろ帰れよ。俺たちは飯食うんだよ」

「ああ。僕のことは気にせずに食べて。連れがそろそろ迎えに来ると思うんだ」

(食べづらい)

 そう思ったのは夕貴だけではないようで、リオも戸惑いの表情を見せ、リノは「帰れ!」とヒューゴに詰め寄っている。

 リノの剣幕にどこ吹く風の様子で、ヒューゴはニコニコしているだけだ。

 立ち去る様子もないので、ひとまず木陰に座り、抱えていた肉とソース、香辛料を置く。少しだけ開けた袋からは、食欲をそそるいい香りがしてきた。

 ツキも肉の入った袋をジッと見つめながら、涎をポタポタと垂らしていた。

 リオはそんなツキに少しだけ笑い、ツキの前に蒸された野菜が入っている袋を置く。生野菜が多い中その袋をツキの前に置くということは、彼の為に買ってきてくれたのだろう。

「リオ、ありがとう」

「実をいうと俺もおまけしてもらったんだ。リノもおまけしてもらったし。…優しい街だな」

「うん。…温かいうちにご飯食べたい」

「ははっ、確かに」

 色とりどりの野菜と果物。リノの抱えている袋からはパンが見え隠れしているし、片手には別の袋がある。ピクニック気分で楽しく食べたいのだが、リノとヒューゴのやり取りはまだ続いている。

 夕貴が小さくため息を漏らしそうになった瞬間、露店がある方向から大声でヒューゴを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ヒューゴ様!」

「あ、来たみたいだ」

 ヒューゴは夕貴たちの後ろに向かって、大きく手を振る。焦っている声とは反対にヒューゴは楽しそうだ。

(なんだっけ…放蕩息子っていうんだっけ)

 祖父と一緒に見ていた時代劇に、金持ちの息子があっちへウロウロ、こっちへウロウロしているのを見た覚えがあり、それに似ていると夕貴は呆れた目でヒューゴを見た。

「ヒューゴ様!勝手にどこかに行かないでください!」

「ごめんよ。久々の街でついつい、楽しくなってね」

「はぁ…。ご友人ですか?」

「ああ」

「「「違います」」」

 肯定するヒューゴと、否と答える3人。微妙な空気がこの場を包む。

「…あー…、あ?ユウキ?おい、ユウキじゃないか!」

「?」

 この世界の知り合いは片手で数えるほどだ、と自分の名前を知っていることに夕貴は不思議に思いながらもヒューゴを探しに来た人物に顔を向けた。

「!ハロ!」

「おお!元気そうで安心した!」

 この世界に来て初めて会った人。親切にしてくれて、生きる術を教えてくれた。忘れたくても忘れられない人だ。

 思わずその腰に抱き着き、伝えたいことを慌てて話す。

「元気!元気だよ!学園も文字とかわかんないこといっぱいだけど、楽しいし…ハロが連れて行ってくれたから、リオとリノっていう友達もできたし!ツキも一緒に暮らせてる!」

「ははっ!それは良かった。頑張りすぎて無理はするなよ。…うん、あの時よりずっといい顔してるな」

「うん。鉱石学の手伝いできることになったから、いつかツキの瞳の色の鉱石を見つけるんだ。あと、あとね…!」

 興奮冷めやらぬまま、話しを続けようとしていると、足元に勢いよくツキがぶつかってきた。

 どうした?と思いツキとついでに周りを見てみればば、苦笑しているリオと面白くなさそうな顔のリノ。ヒューゴも笑顔を作ることを忘れ、2人を見ている。

「どうしたの?」

「…ユウキ、お知り合い?」

「うん。黒の森で助けてもらって、すごく親切にしてもらったの。避難所に行くまでにいろいろ話してくれて」

「そっか。ほら、リノもいつまでもむくれているな…ツキは仕方ないか。ハロさん、でしたっけ?俺たちこれからご飯なんですが、一緒にいかがですか?もちろん、ヒューゴも」

「兄さん!」

 リオの誘いにヒューゴは喜びを隠すこともなく、そして返事はせずにユウキのそばで腰を下ろし、ハロはそんなヒューゴに戸惑いを見せ、期待している夕貴の頭を撫でて、「じゃあ、お言葉に甘えて」と夕貴の背を押しながら芝生に座った。

 リノは何か言いたそうに口を開閉していたが、兄であるリオに無理やり座らされて渋々と手に持っていたパンを広げた。

「ユウキ。これツキの」

「ありがとう。ほら、ツキのだって」

「ワッフ!」

「おう、気にするな。こっちは色々入ってるから食べるなよ」

 相変わらず、ツキとの会話が成り立っているリノに感心しつつ、まだ味の付いていない肉を少しばかり多めにリオが買ってきてくれた温野菜の上へと乗せる。「なんてことを!」と目で語るツキは視界に入れないようにした。

「それじゃあ、俺たちもいただこうか」

 リオの声を皮切りに各々が手を伸ばす。こう言った食事は経験がないのか、ヒューゴは最初こそ戸惑いを見せていたが、リノたちの食べ方やハロからのフォローでなかなか楽しく食事をしている。

「ユウキは第一体術が得意なのか。女の子だと苦手な子を多いのに凄いじゃないか」

「へへっ」

 ハロに褒められ照れていると、正面から余計な一言が突き刺さる。

「…裁縫は苦手だけどな」

「じゃあ、リノがやればいいじゃない!」

「なんでだよ!俺たちの授業にはない科目だよ!」

「男女差別だ!裁縫がしたい男の子だっているはず!」

「したいかどうかはともかく、女性の指は細いから、細やかな作業がし易いだろうし、令嬢が半数以上を占める学園だから、花嫁修業の一環なんじゃないかな」

 ヒューゴの話しを聞きつつ、自分の手を見る。

 同じ授業を受けているとは思えない、ケガだらけの手だ。彼女たちは爪もピカピカに磨かれ、傷一つなく真っ白でふわふわしている手だ。

 彼女たちの手が羨ましくない、と言えば嘘になる。

 数日前、令嬢のひとりがハンカチを落としたので手渡したことがあった。初めは笑顔で礼を言ってくれたのに、夕貴の手を見るなり、顔を顰めハンカチを嫌そうに受け取った。

 泥で手が汚れていたとか、ではないのにその扱いにショックを受け、悔しく、怒りもわいてきた。

「どうした?ユウキ」

「ん。何でもない。それより、武術するんなら棒術と弓、どっちがいいかな?」

 これを言ったところで、どうしようもない。と、夕貴は他の悩みを口に出す。こちらの方が、切実だ。何せ、自身の命とツキの命を守るための手段だ。

 ハロ曰く、剣術もだが、他の武術も一朝一夕でできるようなものではない。ただ、弓を扱うのなら、目が良いに越したことはない。

「弓は中距離、棒術は近距離…これを踏まえて考えた方がいい。選択する前に一度くらい経験した方がいいんだが…訓練所に連れていくわけにはいかないしなぁ」

 思っていたよりもハロが本気で悩み始めたので、夕貴は慌てて制する。助言はもらいたかったが、悩ませるつもりはなかったのだ。

「ハロ、大丈夫だよ。先生に言って、見学してから考える」

「弓と棒術なら教会の一画でもできるんじゃないか?ハロ」

「ヒューゴ様、一介の衛兵の自分にはそのような権限はありませんので、難しいかと」

「君が借りるんじゃなくて、僕が叔父上に頼んでみるよ。きっと、叔父上もユウキたちに会ってみたいと思っているだろうからね」

 ニコニコと話すヒューゴにユウキは眉間にわずかにしわを寄せながら、ハロに視線で「どういう意味だ?」と問う。

「ヒューゴ様の叔父上は国石を守護する神官をされているんだ。教会には多くの巫女や神官がいるからその分敷地も広い。その中には武術の稽古を行う場所もあるから、その一角を貸していただくってことなんだろうけれど…」

 ヒューゴの発言が気に食わないのか、そもそも彼自身が気に食わないのかリノが再び食って掛かっている。それに楽しそうにヒューゴが答えているので、特にハロは止めようとは思わないみたいだが、それでいいのだろうか。

「でもそれって、ハロに迷惑かかるよね?ヒューゴさんの護衛だってあるのに」

「ヒューゴ。ユウキ、ヒューゴだよ。敬称はいらない」

 リノと楽しそうに?言い合いをしていたのに、夕貴の言葉をちゃんと聞いていたのか、名前の呼び方に訂正を入れてくる。どうしても、友人として接して欲しいようだ。

「ユウキ!こんな奴に“さん”なんて勿体ない!呼び捨てで十分だ!」

「すごい仲良くなってんじゃん」

 思わぬ登場人物によって、思わぬランチタイムになったが、思っていたよりも騒がしく、そして肉屋の主人が言っていたように“楽しい食事”の時間になった。

 リオとリノと一緒にいると、温かい気持ちになるが、やはり知り合いは増えた方がいいのだろう。リノも口よりも楽しそうな顔をしているし、そんな弟を見る兄の目も優しい。

「知識、想像、行動は自分でどうにかしなくちゃいけないことが多いけど、苦手な人間との出会いも良い出会いも縁だ。こればっかりは、どこでどう転ぶか分からない。ユウキが些細な事だと思っていた出会いも、これからを大きく変えるものかもしれない。人とのつながりは面倒な時もあるけど、大切にしていった方がいい」

「うん」

「学園はお嬢様が多いから、大変なことや慣れないことも多いだろうけど、夕貴には家族がいて、友達がいる。何より、頼りになる俺がいるだろ?」

 学園の悩みなんて言っていないのに、やはりと言うべきか、気が付いていたハロはお道化た様に笑う。

 あの夜、救い上げてくれた手が夕貴の頭を優しく撫ぜた。

「女性の髪を軽々しく触る物じゃないぞ!」

 いつの間にか、近くに来ていたヒューゴが腰に手を当てハロを注意し、リノがツキの肉球をハロに押し当てる。リノなりの攻撃のようだ。

 リオは少しばかり崩れた夕貴の髪の毛を長い指で整えてくれた。

 ツキはリノが攻撃を止めた後も、ハロの足に向かって両手でパンチを繰り出したり、小さく飛び上がって立ち向かっている。

 困惑しているハロには申し訳ないが、楽しくて思わず笑い声が出てしまった。

 笑顔は伝染する。始まりは歪な形かもしれないが、そこにあったのは確かに楽しく幸せな空間だ。

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