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ファントム・ミラー  作者: ひかり
【第三部】鏡の狭間【一】
49/78

【登場人物】&【国家紹介SS】

【登場人物】


◾️イーア(16)

 一人目の主人公、帝国は新年の祝祭と共に年齢を数えるので、一応まだ15歳の秋生まれ。身長は178cmほどの程よい筋肉体型。年齢より上に見られがち。

 悩み多き真面目な、少年と青年の間のお年頃。

 妹たちに振り回され、弟たちに先を行かれる悲しい六人兄弟の長兄。

 この若さにして公爵と学園では生徒会長総督を務めている。毎日激務。

 チルへの恋心を隠す気はないが、チルにどうすれば自覚して貰えるのか悩み中。



◾️チル(18)

 もう一人の主人公。うまく騙されて皇都に連れて来られた事にすら気がついていない、生まれた季節は不明の男装女性。

 幼い頃の記憶がない、その上8歳くらいまで魔導具の影響で記憶が曖昧。少し幼いのはその影響。

 馬が大好きなので、馬をもらえると聞いてちょっと喜んだ。暇な時は厩のおじさん達と楽しく馬の世話をしている。馬糞掃除も積極的にするチルに、おじさん達は『姫なのに……』とちょっと戸惑い気味。




【イーアの家族】


◾️ヒルデ(13)

 本名はブリュンヒルデ。

 年末の忙しい時期に生まれたので、実年齢は表記年齢よりマイナス11カ月ほど。

 癖のない漆黒の髪に漆黒の瞳の少女。身長はすでに160程。チルより背が高くなりそう。

 すらりとした細身だが、双子の弟オスカー曰く『だいぶ重い』。逆さまにして振ればいろいろ(水筒、書類、武器に救急箱など)落ちてくるらしい。

 初恋の殿方(ルスト伯)を追いかけて軍務で働く。上司のシュタルツ子爵もイケおじなのでとても幸せ。

 皇城の見取り図は徒歩で計測して調べた。

 趣味は財テク。皇家一のお金持ち。


◾️エレオノーラ(10)

 春生まれの帝国の皇太子殿下、女性でも皇太子と呼ぶ。

 緩い癖のある銀髪と紫の瞳を持つ美少女、容姿は祖母のイングリート皇女によく似ていると言う。今年の新年のお茶会は彼女の新人選びと婚約者選定が目的だったが、先に弟の方が婚約した。イーアが姫を伴っていたことに酷いショックを受け、豊穣祭の後全くご飯が食べれなかった。いつもは1、5人分平らげるのに。


◾️ユーリア(5)

 銀の髪に朱紅の瞳の持ち主だったが、今回変化した。容姿は母親譲り、警戒心が強いのも母親そっくり。家族よりも大好きだったヴェルドフェス公爵夫人を失ってしまった。家族の中ではヒルデが一番大好き。


◾️そのほかのイーアの家族

 ユリウス(38)イーアの父親、仮面の皇帝。結婚直後、妻より非力なことが分かり、以来体を鍛えている。結婚前には歴代の婚約者が3人いたという。

 ナディア(31)イーアの母親。かなりの剛力、3歳児の双子を妊婦時に抱っこして周りを驚かせた。イーアの怪力は彼女に似たらしい。さらに一人の皇妃が二人以上子供を産んだ記録は遡ってこの四百年無かったので、いろいろな意味で特殊な女性。元奴隷。

 オスカー(13)第三皇子、イーアの弟。双子のヒルデに脳筋扱いされている。動きが煩いのは母親似。

 リステアード(7)第五皇子。今回5歳のクラウディアにプロポーズした。容姿は仮面を被る前のユリウスそっくり(手が早いところもそっくり)。

 イングリート(57)イーアの祖母、ユリウスの母親。過去に内乱の旗頭に担ぎ上げられ、現在は離宮で蟄居(ちっきょ)中。



北峰(ほくほう)五国】構成国

ベルンシュタイン大公国

ノルデン王国

シュテレ王国

カーナリーエ準国家(ヴォルフ王国として再建予定)

ディーンガード準国家



【ベルンシュタイン大公国】


◾️ランベルト・ベルンシュタイン(62)

 どうやらチルと関わりがあるらしい。

 長髪に髭という厳つい顔だが、体も大きく厚い。

 皇都にいる間はベルンシュタインの屋敷に住んでおらず、ディーンガード邸で生活している。カーナリーエ邸の管理は元々趣味でやっていたが、ある日ひょっこりチルが現れ、働いてくれるようになってから楽しみが増えた。チルの正体には気がついている模様。

 ヴェルザー伯爵の称号も持つが、伯爵領は領官に任せっきり(物理的にベルンシュタインとかなり離れている)ので、帝国にいずれ返還する予定。



【ノルデン王国】


◾️クリスティーナ(34)

 ノルデン女王。周囲が結婚しろと煩いので数年前に一人で男児を出産、王位継承者とした。軍上層部のシュタルツ将軍と地衛部(ちえいぶ)トップのシュタルツ子爵とは従兄妹。


◾️アルヴェルト(4)

 春生まれのノルデン王子。めちゃくちゃかわいい(チル談)。



【人外たち】


◾️リン(猫年齢18歳)

 元人間の黒猫おばあちゃん。人間だった頃はベルンシュタイン大公国の国主だった。黒い鴉こと黒翼の魔女レヴィンは伴侶。



【その他】

◾️ニコラウス・ヴェルドフェス(31)

 女神の恩寵と呼ばれる美貌を持つ貴公子。薄倖の人。


◾️カタリーナ・ヴェルドフェス(23)

 緋虎の末裔、ティグノス諸島王国出身の貴族の娘。ニコラウスの妻。兄がひとりいる。武闘大会でイーアと戦ったティグノス国王アーベル・アインザームとは従兄妹。


◾️ルスト伯(51)

 ティグノス諸島王国の三伯のひとり。生涯独身だが、ニコラウス曰く『初恋泥棒』。



 ここまで人物紹介です。

 以下、勢いで書いたゴルデン国家紹介SSです。

 勢いがすぎました。文字しかありません……!


 ________________________



「ほくほう、ごかこくは、べ……ベルンシュタイン、ノルデン……えっと」


 今年の新年で四歳になったアルヴェルトが、必死になって文字を読んでいる。

 その姿があまりにも可愛らしくて、家庭教師のフリーデと、その隣で勉強を見守るチルは先程から顔が(ゆる)みっぱなしだ。


 アルヴェルトは母親譲りの漆黒の髪に真紅の瞳の少年だ。母親であるノルデン女王は未婚のため、アルヴェルトの父親が誰かは公表されていない。だが、真剣そうに本に向き合う顔は明らかに剣聖アレクシスと似ているので、そう言うことなんだろうなぁとチルは思う。


「えっと……シュテル……」

「あら、アル様。よーく文字を見てくださいね?」

 フリーデがにっこりと微笑む。彼女は柔らかい茶色の髪を上品に結えた、二十代前半の女性だ。どうやら彼女の教育方針は『まず読む』ことらしく、書くことより多くの時間を音読に費やしている。そしてその合間合間に、いろいろな情報をアルヴェルトに与えていた。


「シュテレだ!」

「そう、その通りです。その三カ国が現在の北峰(ほくほう)の主たる柱ですね」


 アルヴェルトはキラキラした目で本の文字を追いかけている。

「ベルンシュタインは、こはくの君の、たいこうこく……」

「その通りです。その昔に琥珀(こはく)の女神様が、お嫁さんとしていらした国でしたね。琥珀(こはく)の女神様は大地を癒す力をお持ちでしたので、この北の大地を私たちが住めるような場所にしてくださいました」

 フリーデはゆっくりとそう話す。

「そして、琥珀(こはく)の女神の守護神獣、双頭の獅子がノルデンとシュテレの王家になりました。つまり、アルヴェルト様の遠いご先祖さまですね」


「そうとうの、ししって?」

 アルヴェルトがこてんと首を傾げる。


 フリーデが棚に並んでいた猫のぬいぐるみを取る。白と黒の猫をくっつけ、アルヴェルトに見せた。

「頭が二つあったそうですよ? そう、こんな感じで」

「ねこさんだったの?」

「ぬいぐるみが無いのですが、ライオンさんです。黒……涅色(くろいろ)と呼ばれる色と、黄色のライオンさんです。涅色(くろいろ)の方がたてがみのある(おす)で、そちらがノルデンの祖だと言われていますね」


 フリーデは優しい微笑みが絶えない。チルが見た限りでは、アルヴェルトが何を質問してもしっかり答えていた。


「ライオンさん、おっきいの?」

「大きさは残念ながらわかりませんね。でも、女神様のために戦う、勇敢なライオンさんだったそうです」

「ゆうかん……」

「そうです。まるでアレクシス様のようですね。一方、シュテレは黄色の獅子で……こちらは女の子だったようです。二匹の神獣は人の姿になりましたが、神獣としての力を二つの武器として残したとか……それが今も二国に伝わる『獅子の牙』と『獅子の爪』ですね」

「すごいねぇ」


 勇敢な獅子の物語に、アルヴェルトは目をきらきらと輝かせる。


「では次に進みましょう。北峰(ほくほう)はあと二つの国がありますが、どことどこでしたか?」

「えっと、」

 アルヴェルトは教本に目を落とす。

「かー、なりえと、でぃーん、ガード」

「そうですね。どちらも準国家(じゅんこっか)という形になります」


「準国家?」

 チルが首を傾げる。アルヴェルトも真似をするように首を傾げた。


「はい、過去に国家として運営しておりましたが、何らかの形で今は正常に運営できていない国家のことです。理由はさまざまですね。王家の断絶、国民の減少、災害等で居住が困難になったなど……。カーナリーエは統治者が不在のため、ディーンガードは国として運営していくための、最低限の機能を失いました。アルヴェルト様には少し難しいお話かもしれませんね」


 フリーデはチルを見る。

「現在、帝国に属する国は大きく四つに分類されております。帝国領土、北峰(ほくほう)五カ国、東部(とうぶ)五国、西方(せいほう)六国です。どこにも属さない特殊な国がティグノス諸島王国ですが……。帝国内では四公爵、六侯爵。この十の貴族を帝国十家と呼び、その領地は一つの国家と考えます。ただしヴェルドフェス公爵家は領地を持たない特殊なお家になります。

 さらに十家に仕える伯家が四家あり……これも便宜上国と考えられますので……。帝国直轄地を含めるとこの大陸の国家の数は三十一になりますが……そのうち八つが、現在準国家という形になります」


「おっ、おう……」

 チルは思わず手元の紙にメモをする。フリーデはそれを笑顔で見守りながら、続けた。


「チルさんに関係することでしたら、シュヴァルツエーデ公爵家に属するのは、ノーヴァ公爵家とオルフ侯爵家、バイゲル侯爵家、シュテム準侯国……現在貴族が不在の国です。そしてベール伯爵家、この国々を覚えていただいた方がよろしいかと」

「なんで……?」

「これらの国は、いわゆるシュヴァルツエーデと同じ派閥『アルト』に属する主な国です。帝国は今、派閥解体に着手しているので……それって、すごく大切なことなんです。今までの大きな政変や内乱も、全て派閥の対立が原因ですからね」


「お、おう!?」

 チルは混乱寸前である。


「くに? いっぱいあるね」

「そうなんです……ですので帝国は、能力のある者には積極的に準国家を預け、最終的には国家として運営出来るように導くことを近年の方針としています。カーナリーエが名前を変えて独立するのもその方針に従った形ですね」


 こくこくとアルヴェルトは頷いているが、チルはメモに夢中で全くその話を聞いていなかった。


「カーナリーエ、良いお名前なのですが、実は悲しい伝説に基づいた国です。お二人はその伝説をご存知ですか?」

 チルとアルヴェルトが同時に首を振る。


「その昔、ベルンシュタインの王様が、一人の歌声の美しい娘さんを愛したそうです。王様は娘さんに、ぜひ自分の妻になってほしいと頼み込んだそうですが、すでに娘には心に決めた恋人がいたそう。王様は(あきら)め娘さんに多くの宝石を渡して、どうかその歌声だけは絶やさぬようにと頼み込んだそうです。

 求めに応じて、娘さんは毎日城壁の上で歌いました。王様はその歌声に心を癒されていたそうですが、彼女の恋人にとっては面白くなかったのでしょう。ある時彼女に煮湯を飲ませて、その歌声を枯らしてしまったそう……歌えなくなったことを嘆いた娘は城壁から身を投げ、自分のした事を悔やんだ男もそれに続いたそうです」


「ただの嫉妬男のモラハラじゃねぇか」

 チルが嫌そうに言うので、フリーデはきりっと彼女を睨みつける。

「愛する娘の歌声を他の男に聞かせたくない……それも愛のカタチだと思いますけど!?」

「えー」


 二人の話を首を傾げてアルヴェルトが聴いている。こほんとひとつ咳をして、フリーデが続けた。

「……ともかく彼女の死を嘆いた王様は、彼女の弟に領地を与え、生涯困らないように援助をしたそうです。それがカーナリーエ領となり、国民が一定数になった時点で独立して国家になりました。ただし今から百五十年ほど前に、王族が耐えてベルンシュタインの属国となっておりますが。

 って、お話に夢中になっていましたら、お昼の時間ですね。アルヴェルト様」


 フリーデは世話役の侍女にアルヴェルトを託し、自分はチルの向かい側の席に座った。そうして難しい顔で自分の書き付けを睨みつけているチルの様子を見ている。


「なんか、フリーデさんはずげーな。なんでも知ってるんだな」

「ふふ、そうですね。私、初等科の家庭教師をだいぶ長くしておりますので……お子さんってなんでも質問するので、教える方も必死なんです」

「へえ……」

「チルさんもなんでも聞いてくださいね。わからないことがあったら、調べてきて後日お教えします」

「ほーい」


 口では生返事をしつつも、チルの目はシュヴァルツエーデの地図を一生懸命見ていた。イーアが治める領地。いつか将来、チルがイーアのために働けるようになった時のために覚えておきたい。


「なんか……北の領地は大きいって書いてたけど、本当に大きいんだな」

「そうですね。単純に大きさだけなら、直轄地より広いです。ただし北は冷灰山脈から続く黒い森があり……これは開拓が困難と言われています。ですので農業に適している地は直轄地よりだいぶ少ないみたいですね」

「ほえー」


 フリーデの指がそっと伸び、黒い森の西側を指差す。

「ここには、真珠の塔と呼ばれる建物があります。帝国の医療の権威で、対となる『象牙の塔』に並ぶ知識の塔ですね」


「象牙の塔? あの、暦とか決めるとこ? それなら知ってる」

「そう、そこです。象牙の塔はサヴァーランド領内にあるすごく古い建物で……それこそ、魔法王国時代からあるそうで、中は洞窟みたいになっているそうですよ? 住んでる学者達はあなぐらって呼んでいるそうですが。それに対して、真珠の塔はかつての要塞だそうです。たぶん、エアハルト殿下は行かれたことがあるのではないでしょうか?」

「イーアが? あいつ、忙しそうだからなぁ」


 フリーデは困ったように頷く。

「それはそうでしょうね……。北の公爵領は広いので、視察で行き来するのもとても大変でしょうし、気候も限られますしね。最果ての地は豪雪地帯ですし、白海と呼ばれる海に面した地域は真夏でも氷が漂っているとか……そうなると船の往来も制限されますしね」

「氷が海に浮かんでいるのか?」

 目を丸くするチルをフリーデは楽しそうに見つめる。

「そうみたいですね。私も見たことないですが……それほど寒い北の国ですがこの大陸で最も豊かなのは、建国から千年近くもの間、大きな事変がないからなんです」

「事変?」

「はい、内乱や戦争ですね……。例えば、大陸が統一される前のサヴァーランド公国は、西のエルフェンバインと東のワルドに挟まれ、戦火の絶えない地でした。西の侯国も同じです。シュヴァルツエーデは地の利に守られ、また氷の港に守られ、大きな戦争は一度も起こっておりません。これはこの大陸で、北の公国が唯一ですね。ですから大陸一豊かで公爵家も皇族に次ぐ身分とされています。実際、これまで皇帝の伴侶は三人に一人がシュヴァルツエーデ出身なのだとか……」

「ほえ……」


 そういえば、イーアがこの国を受け継いだのも、祖父がシュヴァルツエーデ公爵だったからだ。

「イーアのじいちゃんもか……」

「そうですね。

 そうそう、男性の場合は関係ないのですが、女性の場合は(きさき)の位というものがあります。出自が公のものでなければ『(きさき)』にはなれないと、最初に制定したのもシュヴァルツエーデ公爵だったとか。だいぶ昔の話ですけどね」

「だからイーアの母ちゃんは妃のままなのか……」

 チルがぼそっとこぼすと、フリーデは真剣な顔でチルの顔を覗き込んだ。


「チルさん、エアハルト殿下のお母様は、東の大公国のマーリア公女です。もうすでに再婚されて別な国に嫁いでいらっしゃいますが」

「えっ、でも」

「そういうことになっているのです。ですからチルさんも、人前では皇妃様とお呼びしてください。これはとても大切なことです」

「あっ……うん」


 フリーデが真剣な口調なので、なんだか叱られたようなような気がしてチルはちょっと気持ちが重くなる。


「そういうの……やっぱ大変だよな。あいつ、結構母親のこと大切にしてるのに……」


 ぼそぼそと話すチルを見る、フリーデの目は優しい。

「もちろんそうでしょうとも。ですからお二人でお話しするときは、『母ちゃん』で良いのですよ。ただこれから、お二人は公務に出ることが増えることでしょう。その時に、注意していただければ」


 その言葉に、チルは素直に頷く。そしてすぐに首を傾げた。

「なんで俺が公務に出るんだ?」

「それ、本気で言ってます?」

 対するフリーデは冷ややかな目だ。

 チルは意味がわからずただぱちくりと瞬きを繰り返す。


「あーもう羨ましい! あんな素敵な男性の隣に立てるなんて! って言っても殿下はまだお若いですがっ」

 フリーデが突然叫んだので、チルは驚いて身を引く。

「えっ、あっ?」


「わたしも恋がしたいですっ! せっかく良い男が多いというノルデンでお仕事をいただけたのに、全く出会いがないっ」

「はぁ」

 一通り騒いだ後、フリーデはぎろりとチルを見る。いつもは理知的なその顔が、不貞腐れたように唇を尖らせていたのだから、チルは面白くて仕方ない。


「なんですか! どうでもよさそうに。私だって普通に結婚したいです。そろそろ結婚適齢期も終盤ですし……」


「終盤ってなんだよ。幾つでも結婚に問題ないじゃんか。……でもまあ、この屋敷にはいろんな人がいるけどなぁ」


 この屋敷はノルデンの公邸でもあるので、帝国関連の仕事をしている人間がよく出入りする。帝国の軍に勤めているものや、官吏として働いている者達だ。チルはあまり表に出ないのでよくわからないが、その辺りで良い人とか居ないのだろうか。


「基本的にこの屋敷に出入りするのはみんな貴族ですからね。ちょっと住む世界が違います」

 フリーデはむーっとした顔のまま続ける。

「私が平民なので、出来たら平民の方がいいんです……。平民出身の官吏とか軍人とか……なかなか良い人が居なくて」


 チルはびっくりして、思わずペンを落とす。


「フリーデさん、平民なのか!?」

「ええ、中等学校の成績が良かったので貴族の学園に推薦して貰えたんです。そこでも結構頑張れたので、今この仕事に」

「へぇ……すげぇな」


 フリーデはふーっとため息をつきながら、遠い目をする。

「って、もう貴族でもなんでもいいかなぁって気がしてるんですけど……」

「あっ、じゃあ俺、知り合いにいるぜ。独身男性。バルドゥルっていう人。えっと……バルドゥル・ランゲ。あっちに居た時の、俺の知り合い!」


 一瞬フリーデの目がきらりと輝いたが、名前を聞いた途端に白けた顔になった。一瞬の変化にチルはぱちぱちと瞬きする。

「……ピアーナ様のお兄さんじゃないですか……だったらピアーナ様の方が良いですぅ」

「えーっと、ピア?」


 チルの脳裏に浮かぶのは、短い髪にシンプルな服装、そしてハイヒールでつかつか歩くピアの姿だ。確かにかっこいいが……。


「学生時代のピアーナ様は本当に素敵だったんですよぉ。女子生徒でショートカットの子なんてあの時代には居ませんでしたし、背もすらっと高くて手足も長くて……、しかも剣技では男子生徒の誰も敵わなかったんです」


「ほえー」

「北の男はみんな脳筋だけど……ピアーナ様は本当に素敵で……。卒業式後のダンスパーティに男装でいらした時には、女子生徒の中には失神したものもいたのですよ」


「はー」

 さっきから無気力な相槌しか打てないチルだが、チルの中でピアは最も女らしい女性なので、どうにもフリーデの話はピンと来ない。

「卒業と同時にノルデン王弟様とご結婚されて……世を儚んだ女子生徒もいましたのよ? 未遂ですが」


「はぁ……」

 それは随分と際どい話ではないか。

「姐さんが聞いたら嫌がりそうだな……」


「……まぁ、そうですよね。でも私はやっぱり、ピアーナ様のような方と結婚したいです。頑張って、探さなきゃ!」

 ぐっと気合を入れて拳を握るフリーデを呆然と見ながら、チルはちょっと笑う。


「よし、俺はもうちょい勉強しよ!」

「いいですね! わたしもお付き合いしますよ。ですからチルさん、ぜひぜひ、エアハルト殿下によろしくお伝えくださいまし」

 フリーデがにっこりと微笑むので、チルは少しだけ嫌な予感を覚えつつその顔を見つめる。

「独身で格好良くて将来有望な方がいたら、ぜひこのフリーデにご紹介くださいと!」


「はは……あは……」

 ペンを片手に持ちながら、チルは少しだけ引き攣った笑いを浮かべた。




長らくお付き合い頂きありがとうございます。

チルの話を聞いたイーアは、『そういえばザイツ(28歳)も独身だなぁ』と思いました。その後は忙しくて、すっかりそれどころで無くなってしまいましたが。


次のお話は【異想譚】ブリュンヒルデの独り言です。

主にヒルデの脳内のお話ですが、一番最初のプロローグでちょろっと出てきたイーア父もでます。笑

次回もよろしくお願い致します!

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