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四、また貰われて

 あらわたくしったら、思えばご夫婦の寝室にお邪魔するなんて、まあ、なんてはしたない。でもわたくしは永遠の八歳の少女ですからかまいませんわね?えへへ。もう寝てますよね?かまいませんよ、ね?

 ああ寝てる、寝てる。ほっとしましたわ。あの最中だったらどうしようかと・・おほほ、聞き流してくださいましね?

 ほう、あちらがハル様のお父上で香織様の旦那様ですね? ふむふむ、特にコメントするほどの特徴もない方ですわね。ただのおっさんですわ。いえいえ、こんな立派な家をかまえていらっしゃるんですから立派な一国一城の主でいらっしゃいますわ。男は外のお働きが一番です。お顔がのっぺり凡庸でも気にすることはありませんよ、ね?

 さてさて香織様。なんだかんだ申しましてもあなた様がゴミ捨て場から連れてきてくださって今ここにわたくしがこうしていられるのですわね。心より感謝いたします。にっこり。

 お・か・あ・さ・ま。

 あらあら香織様ったら目を開けたままお眠りになって、器用な方ですね?うふふ。

 うふふ・・、あら?もしかして起きてらっしゃるの? まあどうしましょう?

 あら、香織様の額からもくもく白い煙が。ああ、あの綿菓子は香織様の頭から出ていたのですね? 美味しゅうございました。ありがとうござい・・ま・・・・


 ・・・・・・んが?

 あらここはどこかしら?

 んがー? ああ、ハル様がいびきをかいておられるのですね。

 あら不思議。わたくしは元のサイドボードの上に立っております。

 なんだか口の辺りがむず痒い、よだれを垂らしているようで、まあ恥ずかしいわ。

 とても美味しい綿菓子を食べたように思うのですけれど、あれは夢?というものですか?

 わたくし普段からよく物思いに耽りまして、夢想することはよくあるのですけれど、夜見る夢を見たのは初めてですわ。なんだかとりとめもなくて、不思議なものですね?

 今日はなんだか不思議で楽しいことばかり。ああ楽しいなあ、嬉しいなあ。

 ずっとこんな毎日が続くといいな。うふふふふ。


 朝になって、ハル様は学校に行ってしまわれました。わたくしもまた連れていってもらったら嬉しいですね、小学校。わたくし国語は得意ですわよ、きっと。音楽のお時間も、それはそれは楽しそうですわね。いいなあ。

 一度香織様が部屋を覗きにいらっしゃいましたが、すぐに行ってしまわれました。そうですね、男の子といえど自分のお部屋はご自分でお掃除なさるべきですよね? それに男の子には男の子の秘密がございますものねえ? まだ4年生? いえいえ、分かりませんわよお? うふふふふ。

 ああ、退屈ですわ。平和ですけれど。また昨夜のように体が動いたら楽しいのですけれど、はあーかっぽれかっぽれ・・、やっぱり駄目ですわ。あれは一度きりの奇跡でしたのね? ちょっと残念ですわ。

 はあ・・、平和で、退屈。


 ようやくハル様がお帰りになったと思ったら、あらあらまあまあ、ベニオ様がご一緒ではありませんか! あら嬉しい! わたくしあなたが大好きですよ? まあ、笑顔で頭を撫でてくださって、あなたもわたくしを好いてくださってるの? まあ嬉しいわ。

 ハル様とベニオ様、二人仲良く会話なされて、すっかり仲直りいたしましたのね? 仲良きことは美しいかな。大変けっこうなことですわ。お二人が仲良くされて、ベニオ様が毎日でも遊びに来てくださったらわたくしとっても嬉しいわ。

 あら、なんですの?その大きな鞄? あらっ、まあっ、お人形さんじゃありませんか!

 しかも、まあっ、金髪碧眼の、西洋人形じゃございませんの!?

 ああ、そうですの、やっぱりベニオ様も本当は西洋の綺麗なお人形さんがお好きなんですね? ええ、知ってますよ、今時の若いお嬢さんはみんな綺麗な西洋人のお人形が好きなんです。わたくしなんて、気味悪い、なんて言われて・・。ええ、ええ、分かっておりますとも・・。

 ガッデーム・フレンチドール!!

 え?なんですか? 交換? わたくしを? そのお仏蘭西人形さんと?

 え?え?なんですか? すると?わたくしは?そのお仏蘭西人形さんの代わりに?ベニオ様に貰われて行くんですか? きゃっほーーいっ!! イエイ!

 はい、交換。さようならフランス人形さん。お元気で。アデュー。

 わたくしはベニオ様に貰われて、にっこり、大事に鞄に入れられて、きらびやかな女の子のお部屋に、レッツラゴー!


 らんらんらん、るんるんるん、女の子のお・部・屋。

 ・・・・・・・・・。

 ここが、・・ベニオ様のお部屋?

 あの、ちょっとびっくりなんですけれど、あの、これっていわゆる、

 ゴス?

「どう? 素敵でしょう?」

 変わった趣味ですね? ベニオ様の笑顔がちょっと不気味に見えるのは気のせいでしょうかしらん?

 黒はともかく、蝋燭はともかく、銀のペンタグラムはともかく、しゃれこうべはしゃれにならん、なんちゃって。・・・・。

 キャーキャー、なんなのよ、ここ? コウモリよ!イモリの黒焼きよ! きゃーーーっ!!??

「落ち着きなさいってば」

 これが落ち着いておりゃりょうか。きゃーきゃーきゃーーああ、あ?・・・

「落ち着いた?」

 ベニオ様は不気味に・・もとい、可愛らしく微笑まれてわたくしの顔をご覧になってるわ。

 もしかして・・、わたくしの考えてることが?

「ええ。分かるわよ」

 わーお。なんで?

「さあ? あなたは人形のくせになんで心があるの?」

 さあ? 皆さんそういうものではありませんの?

「そういう人形はなかなかいないわよ。あなた方は特別」

 はあ。すると、わたくしの他にもそういうお人形さんとお知り合いがいらっしゃいますの?

「ええ。この世に存在する全てのものに魂は存在するの。それぞれがそれぞれの魂、人形なら人形の魂をね。でも、人の形をしたものはたまに間違えて人の魂を持ってしまうことがあるのね。わたしが魔術で魂を補強してあげたの。あなた、昨夜魂が抜けだして歩き出したでしょう?」

 はいはい。夢を見ていたつもりだったんですけれど、魂が抜け出ていたんですか? あらまあ。

「夢、にも近いわね。春雄くんのお母さんの意識とつながっちゃったでしょう? お母さんの意識から力を貰ったと思うんだけど?」

 ああ、ふわふわ綿菓子。美味しかったです。

「あれは、悪夢ね」


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