3 裏切り少女は裏切られる
「実験体No.0082、0083食時だ。」
時間が経ち食事の時間だ。
食事の時間だなんてこんな牢屋の中では天国、と側から見れば思うかもしれない。
しかし、実際はそんなことは全く無い。食事には毒や薬が盛られているのだ。
アヴィジェがふと隣の牢屋を見るとヴォルが倒れて寝ていた。
食事の時間に起きていなければ殴られる。助けなければと思ったアヴィジェは声をかける。
「ヴォル、起きて…!お願い…!殴られちゃう…!」
しかしアヴィジェの救いの声は届かず、ヴォルは倒れたままだ。
それにキレた研究員がヴォルの牢屋のドアを開けて中に入り胸ぐらを掴む。そしてそのまま頬を殴りつけた
「食事の時間には起きてろと言っていただろう!舐めてるのか!」
「本当にアホな実験体です…。大人しく従っておけばいいものの…。」
研究員が殴りつけているとその陰から声が聞こえた。
アヴィジェがそちらの方に目を向けると既視感のある紫髪の少女が立っていた。
ツインテール、右目が隠れる前髪、紫の目、縦長で猫のような瞳孔。感情が読みづらい毒のある声色。
「い、いすず…?な、んで…?」
そこにいたのはアヴィジェ達の幼馴染だった。
でも、あの時のような明るい表情はなく淡々とした表情だった。目も黒ずんでいる。
「いすず…?そんな奴は知らない…。」
「私の方が立場が上…。」
そう言った紫髪の少女はアヴィジェ達を見下ろしていた。
そしてそのまま手に持っている食事を渡すために牢屋の鍵を開けて皿を置く。
その瞬間研究員が紫髪の少女を蹴り飛ばしてすぐに牢屋の鍵を閉めた。紫髪の少女は驚いた表情を浮かべた。
「何するんですか…?坂井さ…、」
「実験体の身で俺の名前を呼ぶな。No.0014」
「なんで…?!なんでナンバーがついてるの…?!私は研究員の妹なのに…!!」
悲痛な表情で叫ぶ紫髪の少女。髪を掻きむしり涙を散らしている。
そんな少女に追い討ちをかけるようにコツ、コツ、と足音がだんだんこちらに近づいてくる。
音の方を向くと少女と同じ紫髪を長く垂らした女が立っていた。女は白衣を着ており研究員のようだ。
「坂井様。終わりましたか?」
「ああ、ポイズン君か。君のおかげで最上級に属する実験体を手に入れることができたよ。」
「ねえ、さん。どういうこと…?」
「わからないの?阿呆ね。あなたは私に利用されたの。裏切られたのよ。」
女は研究員に声をかけて話すとお金を貰った。
紫髪の少女は姉さんと声をかけるが残酷に扱われてしまった。希望はもうない。
絶望の表情に満ちた少女とアヴィジェ達を残して研究員達は去っていった。
暫く頭を抱えていた紫髪の少女。
混乱が落ち着いてくると何か思い出したらしくハッとした表情を浮かべる。
「もしかして…、貴方…、安美麗だったりする…?」
「五十鈴ちゃん!よかった…!記憶戻った…!」
「やっぱり…。今世はイズラ…。」
思わずアヴィジェはイズラに抱きついた。
仲間が増えたと喜ぶアヴィジェ。ここから研究所での地獄が加速するなど思ってもいなかったであろう。