5.夜の食堂でも手を休めたくない男...2幕目
見せて貰おう。効率厨と早食いを兼ね備えた者の末路(作者深夜テンション)を。
本編の続き(高校生活2日目)はこちら
1.朝掃除でも手を休めたくない男: https://ncode.syosetu.com/n3272ia/23/
「ほれ。本日の日替わり丼は中華丼だ。器を除いて2.2 kg!食えるものなら食ってみやがれぃ!」
「「「うわぁ...。」」」
おばちゃんが両手にクッキンググローブをはめ、どでかい器に入った白いタワーマンションをテーブルの上に建築する。上には様々な野菜や海鮮が入っているあんかけがかけられ、器からは湯気がモクモクと上に昇っている。
周りの奴らはそのあまりの迫力に言葉を失っているようだな...。だが俺の心の中では、そんな沈黙を水没させる程の津波が発生し、大震災で振動しまくっていた。
来たぁ~~~。
来た来た来た来た来た来たぁ~~~。
感動だ。中学の時には夢のまた夢だったものが目の前にある...。これを食べられるようになるまでガチで永かった。中学2年生の夏まではともかく、その後はマジできつかった...。
何故なら、常に状態異常(空腹)が有名ボードゲーム『ピーチ・トレイン』に登場する貧乏神のように『空腹なのねん』攻撃を仕掛けてきたからだ...。
だからこそ、ここに来るたびに俺は学んでいる。こうして金を払って食べたいものを食べられる有難みを...。自分で汗水たらして稼いだ金がこうして生きる力へと変換していく鮮烈さを...。
目の前にある中華丼から立ち上がる湯気の先には天国にいるお母さんがいる。湯気は天井の電球へと立ち込み、『光』に照らされるとふわりと雲散していく...。
お母さんはきっと天国から今の俺の感動を一番に分かち合ってくれている筈だろう...。
だから『一番好きな食べ物は何か?』という質問を受けたら、俺は迷わずこう言うだろう...。
金を稼ぐ全過程を一人で何も食べずに通しきった後に食う飯、と。
これこそが人類の最低生存条件...。食事は勉強時間減少要素としてではなく、最低でも1日の中で必ず取り入れるくらいには扱わなければならない、貴重な無駄なのだ。
「アイツ、手を合わせてから1分はあのままだぞ。」
「...気合いでも入れているんじゃないのか。ほら、体育の準備運動的な。」
ふんっ。何も知らない愚か者はこぞってそう言うのだよ...。一度、太平洋戦争時代の日本にでも飛ばすか?嫌でも食事の有難さが分かるからさ...。
「お黙り。アレは彼なりの儀式というやつさ。真に腹を空かせた者ほど食べることの重要性を心から感じ、食事への有難さを食べる前にじっくりと再確認する...。アタシは、ああいう奴にこそ飯を食わせてやる価値があると常々感じているんだよ...。まぁ、アタシに言わせれば、それを真に知らないお前達はまだまだ半人前さ。」
そして分かる奴はこんな風にコメントしてくれるものだ。最初は俺がまだ未成年で警察に連絡しようとしたサラリーマンも、この食堂のおばちゃんの援護射撃があって手を引いてくれたし、いろいろなことを一方的にだけど教えてくれるようになったんだ。
サラリーマン舐めんな。アイツ等は俺の知らぬ間に、最新のトレンドとか情勢をマシンガンのようにしゃべるからな。いやマシンガンというレベルではない...。ガトリング砲だ!
世の中を覆い尽くす情報の大海から効率良くサルベージしまくる戦隊ヒーロー。それらの駐屯場所へと潜れるようになったのも、この食堂の日替わり丼あっての物種なのだからな!
...アレはヒーローとは真逆の悪役だけれど。
良し!そろそろ食い始めないと時間が浪費して、睡眠時間が確保できなくなる。だからぁ、本日二度目の超効率モード!!!
「おばちゃん。レンゲ2個!」
「はいよ。」
おばちゃんが俺に向かってレンゲを放り投げ、それらを両手でキャッチする。それを見た『浪人アナウンサー』が大声でゴングを鳴らす。いや、俺はそれを華麗にスルーする。
「色々ノーコメントを食らいましたが、選手が準備を整いましたので開始を」
「いただきます!」
「早ッ!?」
鳴るを待つほど、俺は食事に妥協しない。静止は三大普遍ロスの1つ...。俺の辞書に静止という文字は存在しない!俺はスターターピストルがない限り、レースはスタートラインに立ったらすぐにスタートダッシュを決める派なのだ!
両手のレンゲを白飯タワーに突っ込んでそのまま放り投げる!白飯は塊だ!掘削だ!箸を口元まで運ばずとも、口の中に射出してしまえば問題はない。これで、コンマ単位の余分な動きが省かれる。
これぞまさに、白飯流星群!画面不注視片手操作と双璧をなす、俺の時間効率短縮術だ!
食え!食え!!食え!!!白玉!!!白飯タワーを効率よく攻略するには、手を休めないようにするのが吉と相場は決まっている!
そして真に空腹な者は白飯さえ美味いと感じるのだ。噛むと甘みが広がり、白飯を欲する気持ちが更に高まり、白飯を放り込む手は恐ろしく速くなる。これは、限られた者にしか到達しない味の業!俺レベルでなければ見逃すだろう...。
そして20分後、俺は遂に塔の頂点へと至った。それは、この中華丼において最も珠玉な場所で巡礼地!様々な旨味が秘められた世界樹の雫にとうとう俺は辿り着く。
ここがこの中華丼の頂点だ!あんかけがあれば、ご飯を崩すことが出来る。レンゲを使う必要すらなくなる。
つまり、飲むことが出来る。まさに、食事の最効率!俺はレンゲを置き、右手で丼を、左手でお支払い決済のバーコードが表示されたスマホの画面を掲げた。
「おばちゃん、お勘定!」
「ほい!」
俺は中華丼を食べ終わるとともに、スマホで支払いを行った。
「ご馳走様!」
そして俺は口の中に広がる虹色の風味と旨味とともに、食堂を去った。周りの奴らは終始、一言も発しなかったな。だがそれでいい。ドン引きならば、明日から俺は真なる独りになれる。学校生活の効率化がはかどるのだ...フゥーハハハハハハハハ!さ~らばぁ~!!
◇◇◇
嵐の去った食堂内。彼らは賭け事など頭から吹き飛び、静寂に包まれていた。
「ふぃ~。今日も全部平らげおって。この器は洗うのに苦労するってのに...。ほらほら、お前たちももう時間だ。時間。早く自室へと戻れよ!」
おばちゃんが学生の皆をせっせと奥の扉に詰め、懇親会を強制終了させる。それぞれが影の食いっぷりに度肝を抜かれながらも部屋に戻る中、1人だけは違った反応を見せていた。そう、『浪人アナウンサー』である。
「これは...大スクープの予感です!」
彼女の名前は阿澄文。表現しがたいジャーナリスト志望者である。彼女はまるで、面白いものを見つけたかのようにはしゃいでいた。
お読みいただいてありがとうございます。次話は中学の大勉強時代に焦点を当てます...。
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どうぞ、よろしくお願いします!それと、お食事中に失礼しました。