3.帰宅しても手を休ませたくない男
唸れ!俺の豪足!!中学前半の負の遺産、俊足力は風と化す!!!
ああ、素晴らしく気持ちいい。この時は手を休めることが出来る。この速力により、移動時間の短縮、HP(手)の回復、眼精疲労回復の3つが出来る。なんて無駄がなく、効率が良いのだろうか!
ゲーム実況でスピード関連のアイテムとか出るとよく『終』のついたコメントが流れることがあるが...。成程、これは実に悪魔的だ。タイムアタッカーに速度上昇アイテムを持たせていけないのも頷ける...!
効率上昇化が、止まらない!口角は上がり、心は幸福感で満たされていくぅぅぅ!そんな俺はエキサイティングゥゥゥ!!
「いやっふぅぅぅ。速さ余って効率百倍!風が吹けばWEB屋は儲かるぜぇ~!おらぁ、どけどけどけぇ~!」
風を味方につけ、最大限の効率を捧げるためにドピューンと商店街を一閃する。最短を駆け抜ける高校生、それが俺だ!
「危なっ!?制服が私達とは違うし、他校の陸上部なのかな?」
「そんな悠長なこと言っている場合!?スカートめくられたりとかしてない!?」
「というか、走り方がキモイんですけど...。小型奇行種!?」
それを見た他校の女子達は当然、良い印象を抱かないだろう。しかもセクハラ扱いする奴とかいるし...。
だが安心したまえ。俺は三度の飯より効率を考える男。女子の桃源郷よりも次の仕事場までの最短距離を考えるスタイルで通しているのだよ...!
あ、でもこれじゃあ画面不注視片手操作は出来ないか...。少しロスったな...。
◇◇◇
さぁ~着いたぞぉ~。ここは俺の通う高校から15分ほど離れた所にある俺の家、いや聖域。効率でかためられたこの牙城こそが、次の仕事場である。
ここで言っておきたいのは、学生が一人暮らしする定番のマンションではないこと。俺の家が普通に一軒家であること。一人暮らしするには贅沢ともいえるくらいの広さがこの家の特徴である。
そして俺がマンションではなく一軒家を選択した理由は、奥にある和室に存在する。
ここは仏間...。俺のお母さんの眠る場所...。
そう、東向きにした仏壇こそがマンションを蹴った最大の理由だ。死してなお、息子の俺に生きる意義を与えてくれるお母さんの仏壇は、マンションなんかには到底納まらない...。というより、納まらせない...。
西向きィ!?そんな不吉な方角、天地がひっくり返っても向けさせねぇよ!向けさせたらピッ―するぞ!!北向きも南向きも同様だからなァ!!!
お母さんの名前は『光』だ!陽が昇る方向である東向きこそ、お母さんの仏壇の向きに相応しいのだよ!!!
俺はその仏壇の前に座って、今日も報告をする。
「お母さん。今日から高校に通い始めました。ぶっちゃけ通わなくても生きていけるが、お母さんの言う通りにしましたよ...。ああ、会いたい。会いたい。早く夢以外でお母さんに会いたいよぉ~。」
本当は今すぐそこに向かいたいが、お母さんはそんなことは望んではいない。自殺は勿論、飢餓、病死、過労、他殺でチーンッすることをお母さんは望んでいないのだ...。
だからこそ、こうして中学貧困地帯から命がけで脱出し、経済水準に余裕のある一人暮らしをしているのだ。全ては天寿を全うするために...。
お母さんにHP(手)を最大にまで回復させてもらった俺は、しんみりした空気を晴らそうと、和室を移動し、リビングへと移動。そこには2台のパソコンがテーブルの上にあり、今日も企業から依頼が届いている。
今日のノルマは残り10件。全てがアフィリエイターのやつで、しかもお得意様の電気機器メーカーのChainonか...。
この企業、俺の知名度上昇に貢献した最新型スマートフォンを取り扱っている所だから、手を抜くことは出来なんだよなぁ...。
良し!腹をくくろう!!俺は3種の愛を省きはすれど、俺をここまで大きくしてくれた者達への義理や恩義を省いたつもりは決してない!!!今でもこうして向こうから俺に頼みごとをしてくるのがその証拠だ!!!
それをも省いてしまったら最後、アイツ等と同類になってここまで築き上げたものは瞬く間に崩れ去ってしまうのだから!!!
ブルーライトカットメガネは常に掛けているからよし。熱さまシートよし。目薬よし。コーヒーよし。集中力増幅四天王はすべて集結した!!!
発動、超効率モード!!!2台のパソコンをそれぞれ片手で操作し、依頼1件につき構成、文章作成を1時間で片づけるこのモードに死角はなし!!しかも2台同時に操作するため、1時間で依頼を2件も片づけられる!!!
まさに究極効率技!俺の最高兆は妥協を許さない!!
確認・添削も含めて今日は夜11時に終わりそうだな...。その後はいつもの場所で夕食、いや夜食でも食べに行こうか...。
今日も『無駄なく簡潔、正確に!』というキャッチコピー通りに挑んでいくぜ!
◇◇◇
時刻は夜10:00。超効率モード発動から5時間といった所か...。そして予定より1時間も早く終わらせることが出来た。
これは今夜、ぐっすり熟睡できるぞ...。でも、その前に腹ごしらえだな。今日はいつもより食べることにしよう...。
頭が糖分を欲している!その証拠にさっきから頭痛がするからな!!待ってろよ、炭水化物ぅぅぅ!!
1分後...。
俺は、引っ越しした時からいつも利用している食堂へとやって来て、そして入口に入るなり扉を閉めて引き返そうとしていた。
「「「あっ!!!」」」
その理由は、この食堂がよりにもよって俺のクラスメイト、通称『邪魔イト』で溢れかえっていたからだ。
「何なんだこの状況はっ!」
嗚呼、今日は熟睡できないかもしれない...。俺はただ、静かに夕食を楽しみたいだけなのに...。これじゃあ、静かな夕食は出来ないじゃないか...。
拝啓、お母さん。お母さんの愛しき息子は高校入学の夜、敵に回り込まれることがどれだけ絶望であるのかについて深く味わうこととなりました。どうしてこうなったのか、教授をお願いします...。
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