1.入学式でも手を休ませたくない男
ここから1章目です...。
主人公の奇行がかなり目立ちますが、それには壮絶な背景があります。気になる方は2章から読んでください。
1.大勉強時代でも削除を休ませたくない男...1幕目: https://ncode.syosetu.com/n3272ia/9/
主人公について更に重大なネタバレ
12.大勉強時代でも手を休めせたくない男...2幕目: https://ncode.syosetu.com/n3272ia/20/
突然だが俺の名前は西山影。いや、クソ親父と縁を切ったから東海影だな。高校1年生。まだ今年の誕生日を迎えていないため、年齢は未だ15歳である。早く誕生日を迎えて亡くなったお母さんの所に1歩近づきたいものだ。
そして無駄な青春を送り、無駄な恋愛を2度もしたことのある男でもある。無駄骨だったがな...。
無駄骨だったがな!
そんな俺は今、入学先の高校の門をくぐっている。周りの入学生は手を繋いだり談笑しながら俺の横を通り過ぎていく。
あれこそ、金も成績も名声も獲得できる俺が唯一手に入れることのないもの。いや、手に入れたとしても天が悉く壊してきたものだ。その度に周りからはしっぺ返しを食らわされるという地獄つきで。
「...アレは所詮、その場で発生した動機により構築される偽物だ。動機が必然的または自然的になくなればすぐに崩れて、無駄だけが残留する劣化版だ...。病や環境にすら負けずに味方になってくれた本物とは断じて違う...。」
俺は知っている。あんな仲むつまじきものに潜在する、目に見えない棘を。それも風船のように簡単に関係を破らせることの出来る尖ったやつを...。
そして本物なら、そんな棘で壊れることはなく、逆に破り返そうとする強固なバリアがある筈だから...。
俺は御守りを手に持ち、昇降口へと向かった。お母さん、俺は高校にこれから入るからね...。
「天国にいるお母さーん。俺はこれから高校に入るぞー。」
天に向かって両手でバイバイしていると、それを見ていた女子2人が奇行でも見たかのように軽蔑し始める。
「何アレ!?感じ悪い!」
「近づかないでおこう。雰囲気もなんか怖いし!」
馬鹿め。3種の愛情を省ききった今の俺にはそのくらいの罵りなど通用せん!止めたければ、もっと典型の枠組みを超えた内容のものを準備してから出直すんだな!!
◇◇◇
俺は入学式の会場に着いて指定された席に座ると、鞄から3台あるスマートフォンのうちの1つを取り出した。これが俺の高収入源。このデジタル装置こそが俺の仕事場である。
WEBライター、及びアフィリエイター。これが俺の職種だ。始めた理由は人に会う必要がなく、学生でも出来るからという、ありきたりなもの。
手軽そうに見えて実は...という特徴通り、どちらの仕事も始まりは絶望的な収入額だった。中学3年生の春なんて全くの0円だった...。自分が社会全体の中でいかに未熟かつ弱者であるかを思い知らされた。アレで挫折してしまう人が多いんだよな...。
しかし俺は違う。資格や講座を中学2年生の夏から中学3年生の夏までに余すことなくガチガチに、そして効率的に修めていった成果が中学3年生の真夏に開花したのだ。最新型スマートフォンの広告が味を占め、中学3年生から始めたこれらの仕事も今や有名になるまでに知名度は高くなり、様々な企業から依頼が殺到してきている。かくいう、現在使っているスマートフォンこそが俺の収入増加の始まりとなった記念品で、戦利品だったりする。
だから本当は高校なんて行く暇も必要もないが、お母さんの言伝ならばそれに従うまで。先取りとして高校に入学する前に自力で金は稼げるようにはなったが、企業がいつ裏切ったとしてもすぐに対処できるよう、前向きに勉強も修めることにしよう。
掴もうぜ!収入源!!
といった感じに取りあえず、高校の暮らしを1ヶ月以内に把握し、無駄を省いて最適化するところから始めよう。学校と仕事を両立するためには帰宅部に属し、イベントも出来るだけ蹴る必要があるな。人との繋がりも先生みたいな事務的なものを除いてはこれ以上作らないようにしなければ...。
愛情など身を滅ばすだけの時限爆弾だ。それも処理方法のなく、威力も高い究極のやつだ。
依頼1件を片付けたあたりでチャイムが鳴り、俺は今使っている大判サイズのスマートフォンを鞄にしまい、今度は小型のものにチェンジしてバレないように手を動かしていく。
この仕事は質はさながら膨大な文字を書くのに時間がかかる。質の向上は書いた後の確認添削作業で最適化すればいいのだ。とにかく1秒でも多く手を休めないよう、効率的なパフォーマンスをするのがこの仕事の肝なのだよ。
「ちょっと...。」
右隣から声がかかるが無視だ、無視。俺はお前らと違って、無駄を1秒も生じさせてはならない段階に来ているんだよ!立っているステージがそもそも違うのだよ!
「ちょっと!聞こえているでしょ!スマホは入学式の間、使用禁止なんだから!」
無視だ。俺の仕事の時間は何者にも止められはしない。俺のことは諦めるんだな、このエセ風紀委員。俺よりも社会的生存能力がゴブリン並に低い癖に先輩ムーブかますんじゃない。
こういう人は決まって、主人公の言うことを聞かずに魔物の群れに突っ込んで無駄な労力をかける典型例なんだから...。
「これ以上続けるなら、先生にチクってやるんだから。」
ほらな...結局行き詰まれば他人頼み。異世界だったら間違いなく野垂れ死にするぞ。
そう思うとますます煩わしいが、これ以上大事にするのはナンセンスなので、スマートフォンをスリープ状態にし、左手を挙げた。
「すみません。腹を下したのでトイレに行っていいですか?」
俺は1度たりとも右隣の女性を見ずに近くの先生に頼んで、邪魔者のいないトイレへと連れて行ってもらった。
「なるべく早く済ませるんだぞ!」
足音が遠ざかる気配はしなかった。つまりは、ボイコットしないように監視しているというわけか。無駄な真似をしてくれる。それこそ1人の生徒のトイレ事情よりも、入学生と在校生の不正の監視でもした方が圧倒的に効率は良いだろうに。というか、そうしろ!
俺は「まだです」作戦を発動しながらトイレ滞在時間を稼ぎつつ、本日2件目の依頼を片付けた。そして、時間を見計らってトイレから出て、先生に適当でそれらしい理由、「緊張して腹が痛くなった。」で通して席へと戻った。その頃には司会者役の先生が閉会の言葉を述べていたので、ナイスタイミングと心の中でガッツポーズをした。
席に座っている間、ずっと右の方から、正しくはエセ風紀委員に見られている気がするが、邪魔をしない限りは放っておくことにしよう。
お読みいただいてありがとうございます。プロローグのみで日間現実世界〔恋愛〕ランキング入りになっていることにビックリしていたり、逆にこの話で思っていたものとは違う、期待していたものとは違うという理由で読者の大半が離れてしまうのではないかと心配になったりもしています。
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