4.生徒会室でも手を休めたくない男
遅くなりました。
リアル事情ということで...どうか察して下さい。
学校2日目の午後が終わって放課後。
阿澄文が理不尽ドッキングを勝手にきめたおかげでドリーム下校とならなくなった俺は、昇降口に繋がる廊下を歩いていた。ちなみにここまでで依頼は20件は片付いている。昨日よりは達成率を稼いでいるな...。
残りの依頼も後10件...。昨日と比べれば明らかに作業進行度は上昇している。
...予定や日程が詰まることで緊張感が生まれたのが決め手かもしれんな。
こうして今日の生活を振り返っている俺に...校内放送が鳴り響く。
...随分と早い。予想だと、来週の何処かだと思っていたんだが。
『1年A組東海影。至急、生徒会室に来て下さい。繰り返します。1年A組東海影。至急、生徒会室に来て下さい。』
「ななな...何ですとぉー!?」
放送を聞いて、俺の後にいるドッキング断片部がびっくりした。
...うるさい。静かにしろ。
そして無視だな。奴らの要件は大体予想がつく。そのうえで俺は無視を貫き通させてもらう。
俺はそのまま廊下を歩いて昇降口へと向かったが、後にいた筈の文が前に躍り出てその経路を塞ぎにかかる。
...元とはいえ、サッカー部のエースだった俺の進路を塞ぐか。
俺はパス回しで培った足の運びで、そのまま文の右を通り過ぎようとするがそれに合わせて彼女も右にずれ、今度は左に通り過ぎようとするがそれに合わせて彼女も左にずれて完璧に立ち塞がる。
あずみかげはむししようとした。
しかし、まわりこまれてしまった。
...う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!
しつけぇぇぇ!『ゼミダの伝説』に出てくるおつかいイベント強要野郎並みのブロックだ!『依頼をこなしたら次の依頼にたらい回しにしようとする』NPC並みにしつけぇぇぇぇ!!
...それに、どうして中学の時には1人たりとも妨害されたことのない俺のパス回しにこいつはついてこられるんだ!?
...今日1日中、常に俺のバックを取りにいくし、目の前の人物の心が分かんねぇ!!
「おい!今すぐに試験を不合格にしてやろうか!不合格にしたくなければ今すぐそこを退けい!!俺の忠告が耳に入らぬかぁ!!!」
「駄目です!校則!!生徒手帳の『生徒会』の欄を見て下さい!!!」
...いらない。いらない。生徒手帳なんて見なくても全て察しているから!そのうえで俺は...この呼び出しを無駄と断言しているんだぁぁぁぁ!!
ええい!はなせ!放せ!!離せやクゥラァ!!!
「駄目です!ここできっぱり『いいえ』とか『NO』とか言っておかないとしつこく勧誘してきますから!何度も何度も無視すれば入るまでしつこく勧告して来ますから!!」
...じゃあ...何度も関わって来るならば、無駄なものとして省けばいいじゃあないか?そうすれば...二度と俺に関わる気すら起こらないから。
「...いいだろう。時間効率裁判の判決に従って省くか、フフフフフフフ。」
この時...阿澄文の目に映ったのは、目のハイライトが微妙に消えた影の姿だった。そんな彼の口から恐ろしい文章が漏れ出てくる。
「まずは生徒会の監視カメラをジャックし、弱みとなる証拠映像と写真を入手。その後、『とある高校の闇』という形で記事を作成して俺のブログに載せて...それから...社会的にこの学校の生徒会を」
軽い暴走状態に陥った影から出てくるものはもはや毒ガス!当然、『弟子』を目指す彼女は(1ヶ月後の)『師匠』を止めにかかる!
「コラ!コラ!コラ!コラ!コラ!コラ!コラ!コラァ!!Noです!No!!それをしたら立派な犯罪者の出来上がりです!!!ここは素直に呼び出しに応じて正当な理由をつけてお断りしましょう。それ以外だと要らない手間が増加しますから!」
フゥーッ!フゥーッ!危ない...。確かに生徒会の闇を暴いてほしいという依頼は届いてはいない。ビジネスとしても勉強としても不成立だ。
...時間や労力を無駄にするところだった。
それにしても今の文の姿...。不覚にも、中学2、3年生の時に俺の暴走を止めようとした阿澄の姿を重ねてしまった...。
「ふぇっ!?」
俺は...彼女の全体像をじっくりと見る。よくよく見れば、口元とか目元とかが阿澄にそっくりでそれに...。
すると目の前の文の顔が困惑から次第にニヤリとしたものへと変化し、彼女は俺を現実へと引き戻す呪文を唱えた。
「...ここでチューしちゃいます!?」
ハッ!?...違う。違うんだ。
阿澄は阿澄。文は文。彼女は文一郎じゃないんだ。
惑わされるな...。さっきまでの手間を1つもかけていない姿は幻だ!幻影だ!!ドッペルゲンガーなんだ!!!
「...時間と体力の浪費を取り返しにいく。文...この一件が終わるまでは付き合ってもらうぞ。」
「了解です!」
俺は昇降口とは真逆の方向にある生徒会室へと向かった。
◇◇◇
「失礼します。」
俺は生徒会室に入り...無難に挨拶をした。
「君が東海影くんだね?噂は聞いているよ。」
生徒会の机に座っている女子生徒は柿崎静香。この学校の生徒会の生徒会長だ。
「...一応聞きますが、用件は何でしょうか?」
俺は...1秒でも早くケリをつけにかかる。俺はただ...言うべき事を言ってここから立ち去るだけだからな。
「入学式。風紀委員。...君ならこれで分かるだろう。」
...やっぱりか。
「...つまり、風紀委員が痺れを切らしたというわけですか。」
「その通りだ。入学式での君の行動を注意しようと何度も呼び止めようとする風紀委員。君はそれを悉く無視してあしらったそうじゃないか。」
「...それは風紀委員の問題であって、生徒会の問題ではないと思います。生徒会に云々言われる理由が思い当たりません。」
...クソが。
...問題を解決できなかったら、他人任せという名の自己保身に走る。
俺の嫌いなことを早速、偽正義軍団はやってくれたようだ。
「ああ、勘違いしないで欲しい。...私はそもそも君にどうのこうのと注意するつもりはない。風紀委員の手から君を外すつもりで、ここに呼び出したに過ぎないんだ。風紀委員は面倒くさくてね。...君を生徒会室に呼び出して注意したという体面がないと、彼らは矛を収めないんだよ。」
...まるで意味が分からん。俺が言うことではないが、コイツはコイツでおかしいようだ。
「...理解出来ません。それと本命について...答はさっきから示していますが。」
俺がそう言うと、生徒会長は額に手を乗せて、椅子の背もたれに寄りかかった。
...生徒会長という仮面を捨てたように。
「ハァァァ~ッ。やっぱり...その雰囲気だと、君の答は『NO』だよね~。」
...ほう。感心した。観察眼はちゃんとあるようだな。
「...話が早くて助かります。俺からの答は『生徒会入りは断る』です。それでは、失礼しました。」
俺はそう言い、そのままこの部屋から出ようとするが、扉の前に2人の女生徒が立っていた。...何だか疲れているように見える。
「...すいません。もう少し付き合っていただけないでしょうか?」(切実)
「...生徒会長はまだ、あなたに用があります。それと、私は...先ほどからスマホをいじるあなたのその態度が気に入りません。早く話し合いを済ませて1秒でも早く帰って下さい。」(呆れ)
そうか...。ならば、こちらも遠慮を捨てよう。
俺は生徒会長と正面で対峙する。
「『世の中で一番難しいこととは何か?』...。君はこの問いにどう答えるかね?」
すると、生徒会長が変な質問をぶつけてきた。
...雲行きが怪しくなったな。
「...『無駄を見極め、省いていく』。それ以外になにがある?」
「そう!まさにそれだよ...我ら生徒会が直面している課題は!!生徒の行動を縛る堅~い校則...。伝統を重んじる面倒くさ~い校風...。そんな我ら生徒会が守るべき物こそが...真なる学校の欠点に他ならないという皮肉~な状況。カァァァァ...なんで先公共も風紀委員共もそんなことを理解出来ないんだ。偏差値改竄か!広告詐欺か!入学したての私の期待を返せ、コンチクショー!!!」
...どうやら生徒会長は状態異常に陥っているようだ。
「ああ...出ましたよ。柿崎会長の不満大噴火。これを鎮めるのに...どれだけ私達が苦労するのか。」
「どうしてこうも才能のある人って、決まって周りを見ない奴ばっかりなのでしょうか?しかも今年からそれが2人に増えるし...。」
...どうやら扉にいる2人の疲労の原因はあの生徒会長の暴走のようだ。
もはや茶番だ。これ以上、ここにいるのは得策ではない。
「お悩み相談なら他を当たって下さい。入学したての一新入生にここまでする動機が不明だし、愚痴を聞く相手ならそこら辺にいる。それなのに...よりにもよって何故その相手を俺なんかに指名するんだ!?」
「関係あるね。君とこうして直に見て私は確信したんだ。君こそが、この学校を革新する答であると。ああ、2人は先に帰ってくれ。ここから先の仕事は私がやっておくからさ。」
「「了解です。お疲れ様でした。」」
生徒会長はそう言うと人払いをして2人っきりの状態にし、懐からとある名刺を取り出して俺に渡し、話し合いを始めた。
...成程。どうやら生徒会長は俺に棚ぼたというものをもたらしてくれるみたいだ。
話し合いの末、俺は...あるものを手に入れることとなり、それと同時に...今日中に発案した計画を実行に移し始めることを決意した。
お読みいただいてありがとうございます。次回、何かが始動する。
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