3.図書室でも手を休めたくない男
注:『エセ風紀委員』、『浪人アナウンサー』とか出ていますが、これは単なる主人公がつけたあだ名です。間違えないように...。
そして、そんなエセ風紀委員の氏名がこの話で明らかになります。
学校2日目の午前が終わって昼休み。
ここで一旦、俺の席について説明しよう。どの学校においても、1年生の最初の席順はアルファベット順である。これは、俺の今通っている学校にも当てはまり、『あ』から始まる俺の苗字は俺を左上の席へと導いた。他にもこの教室には『阿澄』という苗字を持つ者が存在するが、ここでは『影』と『文』により、俺が左上の席となっている。
つまり、俺の周りにいる生徒は右隣のエセ風紀委員、及び後の阿澄文の2人がいるわけだが...。
「ギロッ!!!」
「じっー...。」
授業中はとにかくこの2方向から視線の槍が飛ばされた。
...右隣は監視、後からは社会見学(?)というか密着いうか。
もぉぉぉウザイ!マシンガンのように集中力を分散させる意志がそこから伝わって来やがる!!
クソウッ!常時展開している『効率モード』を貫き通すほどの視線とか馬鹿かよ!!
とにかく!そんな2方向からの視線に集中力を阻害されると踏んだ俺は、集中時間の引き延ばしを狙って図書室へと来ていた。
ここなら騒ぎを起こすことなく、こちらから音を立てることがない限りは話しかけられない。
そんな図書室はまさに...俺にとって第二の故郷みたいな場所なのだ。
...後に現在進行形で這い寄る、『弟子』を名乗る不審者が弁えてくれればだが。
「マーベラス!!!」
おい、てめぇぇぇ!何さらしとるんじゃぁぁぁあああ!?『図書室では静かにする』というルールなんて言われなくても理解できるレベル、いや暗黙の了解を超えて自明の理だろうがぁぁぁあああ!!!
それで取材対象逃したらどないに責任を取るつもりじゃ!?
あー、ほらほらほらぁ!司書っぽい人がこっちに来るじゃないか!
...いや、俺は注意範囲外だ。立ち止まることはない。今現在はわざわざ後にいる、自称『弟子』なんかどうなったって構わない立場にいるんだ。
...そうだよ。東海美里の部屋にあったボードゲーム『ピーチ・トレイン』にもあったじゃないか。
...貧乏神は他のプレイヤーになすりつけることが出来るというルールが。
俺は後の文を司書になすりつけ、そのまま図書室の中へと進んでいった。
◇◇◇
適当な机に座った俺は...本棚から丸々20冊ほど持ってきた本を机に置き、ブックタワーを建築。それらを元に今日の授業で習った所を補強し、更に予習で授業との差をつけていこうとする。
「...よりにもよってなんでアンタがそこに座るのよ。」(周りに迷惑をかけない程の小声)
...あ゛あ゛!?
俺はこの瞬間、教室から図書室へ向かう時間全てが無駄に帰した気配を感じた。まさか右隣の残り1スペースが奴の手に渡るとは...。
今年は本当に厄年なのかもしれない...。
「それはコッチの台詞だ。お前こそ、早く愉快な仲間たちとどっかで飯食ってろ!」(周りに迷惑をかけない程の小声)
「アンタが何を言おうと私の勝手でしょ!1秒でも長くアンタから離れたいから私はこの図書室に来たのに...なんでその対象が来ているのよ!!これじゃあまるで意味がないじゃない!!」(周りに迷惑をかけない程の小声)
「だったらそっちが別のエリアに行けよ!何でわざわざその残り1席という名のブラックホールに吸い込まれたんだ!?テトリスのように全部そろえて消さないと、お前は気が済まない性質なのか!!?」(周りに迷惑をかけない程の小声)
「それはこっちの台詞よ!アンタこそ、その本で作ったタワー解体して、別の場所にでも建て直せばいいじゃない!!」(周りに迷惑をかけない程の小声)
...さて、俺がこのエセ風紀委員をここまで嫌っている理由。それにコイツがいろいろと俺の行動を周りに合わせようとして取り締まろうとする姿勢が気に食わないのもある。
しかし俺が嫌いな理由は他にある。それはコイツの名前だ。名前自体が過去の出来事を嫌でも思い出させるのだ。
北見川音。それがこのエセ風紀委員の名前だ。氏は『北見』、名は『川音』。
奴の名前を聞いた瞬間、俺は嫌悪がとにかくmaxへと引きあがった。関わりたくない3大人物の内の1人とそっくりの名前...さらに言えば容姿も似ている。昨日の入学式では、他人任せもした。
...俺を嫌悪にさせる要素の詰め合わせ。それが彼女だ。とばっちりかもしれないが、俺には彼女自身より先に過去のことが先に来てしまうのだ。
だから俺は...コイツをとにかく視界に入れないようにするか、過去を思い出さないようにするための策を打たなければならない。そうでないと俺は...陽の試験を不合格にされ、『太陽病院』に連れ戻されてしまう...。
『あなたが無駄として省いた3種の愛情を高校の間で取り戻し、未成年の友達あるいは恋人を高校卒業までにつくる...。』
...陽に課されたカウンセリングにおける最終試験。これを達成しないと、東海家から証券口座開設の許可を貰えないのだから。
クソっ!!県内で偏差値が一番高い高校に入学したり、大企業のトップと協力関係を築き上げたりすることに比べて遥かに難しい試験を俺に出しやがって。
この最難関試験を『人との関わり』を事務的なものにとどめてどう乗り切ればいいのかについて、現在進行形で模索しているというのに全然思いつかねぇ!
...一旦ストップだ。とにかく今は目の前のことに集中だ。
『分野で行き詰ったら、他の分野に着手する。』
これこそが...勉強や仕事における最効率の休憩方法なのだから!!
「...もういい。ここは目的優先だ。俺達はここでしか出来ない事をやりに来た。それは間違いないな?」(周りに迷惑をかけない程の小声)
「...そうね。あんたに諭される感じがムカつくけど。ここは...一時休戦といきましょう。」(周りに迷惑をかけない程の小声)
俺とエセ風紀委員は互いに席に座り、それぞれの活動を開始する。
俺の手元には本や学習用具の他に...学習計画帳というものが存在する。これは文部科学省の公式ページにある高等学校学習指導要領解説を一から熟読し、学年ごとに分けて月単位でどこからどこまで学習するかを予測したものである。
ちなみに俺の場合、高校受験の勉強など1月に入ったあたりには全て仕上げ、それ以降は仕事の他にこの計画帳の作成に時間を費やしたものだ...。
...俺は知っている。
倍率が高く偏差値が70を超えた学校であろうとなんだろうと、突貫工事のする短期間勉強野郎ではなく、骨組みからコツコツと攻めて短所を全て省いた者が大体は合格を勝ち取ることを...。
...勉強でも仕事でも、才能に胡坐をかかずに努力を怠らない者こそが最後は勝ち取っていくように世の中は出来ている。中学の間にそのことを身をもって何度も思い知った。
この経験があって俺は、1月から高校の予習に取り組むことが出来たし、高校生活においてもこの法則は成立する筈なのだ。
...まだ高校生活を始めて2日目。生活の最適化もまだまだ始めたばかりだ。陽の試験、高校生活の勉強、WEBライターとアフィリエイトの仕事の3者をいかに両立させるかを1ヶ月後には確立させなければ...未来はない!!!
そう決意したところでチャイムが鳴り、俺は席を離れる。文は...あーあ、図書室の外の席に座っていたか...。図書室内の席は全部埋まってしまったからだろう...。
「なんで私の席、取ってくれなかったんすか?私、あの後司書さんに足止めを食らって座ることが出来なかったんですよ...。」
「今回は100%自業自得だ!余計な手間を自分自身で増やしたのが悪い!!」
俺はそのまま文を後に伴い、教室へと戻っていった。
お読みいただいてありがとうございます。
次回、入学時に成績優秀な生徒が大体巻き込まれるイベント突入...。
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