13.大勉強時代でも手を休めたくない男...3幕目
これにて...完全削除...。
1月25日の19:00。西山影、東海美里、東海陽を乗せた車は目的地へと着いた。
...『東海法律事務所』。
ここなら...確かに...氏名変更についての相談が...出来る...。
...効率的。
「ここを乗り切ることで、影様の周りにある無駄が削除され、総合的な効率化がはかれます。さぁ、行きましょう。」
俺は...扉を開け...奥の部屋へと入った。その中には...阿澄と...弁護士...がいた。
「...まずは少年。ここまでよく頑張った。」
...阿澄は俺に...こう切り出した。
...何に...頑張った...って...?
「...頑張った...覚えは...ない。」
そうだ...。俺はただ...俺に寄ってたかるハエを追い出しながら...『効率モード』という新しい世界を...旅していた...だけだ...。
アイツらが何をしようが...もう...終業式の日には...全て...俺の眼中から...外れた。
...もう...これ以上は...関わりたく...ない...。
「...少年が現状をどう見えているかは分からない。ただ、俺達は少年を救いたい。それだけ理解すればいい。」
阿澄と弁護士が...互いに頷き合うと...弁護士みたいな人が俺の所へと...様々な書類を...机へと置く。
「西山影くんだね?話は聞いている。まずは自己紹介から。俺の名前は東海陽太。そこの阿澄文一郎のしつこすぎるお願いでいろいろな仕事をさせられた、苦労弁護士でも言っておこうか...。」
「おいおい、そりゃあないだろう。俺だって本当は、終業式でサッカー部の件は収束すると思っていったんだ...。だけど、それでも懲りない意地悪な生徒共がいたんでな。ネタにも出来たし、今後の俺の」
「『自分の助手に少年が欲しい』なんて言いながら土下座をしてきたのは...どこの誰かさんだったかな?」
「どー!どー!言うな...!!言うな...!!本人を前にして...恥ずかしいだろうが!!!」
...時間がどんどん無駄に。俺は...席を立って扉の方へと...。
「ま、待ってくれ。まずは未来の効率化について話をしよう。」
...。
「まずこれは告訴状だ。これを書いて提出さえしてしまえば、今後の君の環境にある無駄の完全削除を保証できる。」
環境にある...無駄の...完全削除...。人との関わりが...なく...なる...!?
「次にこれは申立書だ。これがあれば、君の希望の1つである『西山』の削除がよりスムーズに叶うだろう...。」
『西山』の削...除...!?
「そうすれば...後の手続きだって思うがままにできる。法律行為での年齢の制限も大体は解決できるようになる。俺の見立てなら...いじめの裁判は最速で3月に決着がつき、4月には後見人を得ることが出来る...。」
弁護士...東海が後ろに待機していた陽に目配せをすると...陽が...1枚の遺言書...を...渡...し...た...!?
『遺言者西山光は、次の者を未成年者の長男西山影(××年×月×日生まれ)の後見人に指定する。
氏名 東海陽
遺言者 西山光』
これは...紛れもない...お母さんの...字...!?
毎日見ている...お母さんの手紙の...筆跡...!!!
でも,,,何で...今それを...出した...!?
分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。分からない...。
「ここから先は弁護士としてではなく、1人の大人して言わせていただくよ...。西山影くん。君の人生はこんな窮屈な所で終わらせるべきではない。君はまだ若いが、今年はいろいろな所へと飛び出し、その見聞を広めるべきだ。」
...!
「俺達はあくまで仕事の経験を積んで培った予測で、ここまでの準備をしてきた。少年がどうしたいかを聞く前に勝手に行動してしまったのは申し訳ないと思っている。しかし、赤の他人であるはずの俺がこうさせるくらいに俺は少年を信頼しているし、実際、少年はこれくらいでないと信じてはもらえないだろう。」
...!!
「西山くんには先生のことが無能に見える...よね。『わざと泳がせた』風に見えている...よね。だったらせめて、私にもお手伝いはさせて欲しいの。東海家の一員として、弁護士の娘として、今度はあなた一人で完全につけられなかった落とし前を...ここの皆でつけさせて欲しいの!」
...!!!
今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。今更...。
何を...言って...。
「影様。あなたにとって彼らは道端にある石ころにしか見えないでしょう。ですが、塵も積もれば山となります。山になったら最後、必ず影様の行く手を妨げる障害という無駄になるでしょう。効率化に更に時間が無駄となるでしょう...。」
...陽まで!!!!
「それに、影様はもう...答を出しております。本当の心というものをそこに見せています。机をご覧になって下さい。」
机を見ると...既に...書き終えている...告訴状と申立書があった...。
...いつの間に...俺は...!?
「...それが少年の本当の気持ちだ。」
「どんなに才能があっても、君はまだ14歳の普通の子供だ。ただ早い内にいろいろ知りすぎた。そしてそれ以外には周りとの違いはない...。恥ずかしがることも、悔しがることもないんだ。君が思っている以上に、大人が立っているステージというのは高いんだ...。」
「訂正しておきますが、西山直哉は違います。アレは例外扱いして下さい。それと姉様も同じ扱いで結構です。自分の部屋を漫画でグチャグチャにしているみっともない大人なので...。」
「しー!しー!生徒の前でそのことは言わないで!!ち、違うの!先生はただ、子供の頃から見ていた漫画の続きが気になってついつい買っちゃっただけなんだからね。か、勘違いしないで...。」
...勝手な...ことを...。
...勝手な...ことを...。
俺は...何をしているんだ...。
俺は...何を考えているんだ...。
俺は...どうして...人を頼っているんだ...。
ああ...ああ...下らない。
...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。...下らない。
...下らない。
...なのに...。
...なんで...俺は...こんなにも...。
...どうして悲しい気持ちになるんだ...。
...どうしてこんなにも切ない気持ちになるんだ...。
...どうして目頭が熱くなるんだ...。
...どうして迷惑だと忌避できない...。
俺は...気づけば...頭を下げていた。
...恩義が心に収まりきれなかったから!
...恩義を返す手立てが見つからないことが分かってしまったから!!
...返しきれないほどの恩義が出来てしまったから!!!
この瞬間、俺の心に掛かっていた雲が晴れ...心の夜空に6つの星と1つの月を覗かせた。
ブラックホールに飲み込まれていたはずの6つの星が夜空へと投影されていた...。
それが分かった俺は...無意識の内にこう言った...。
「...ありがとう。」
と。
◇◇◇
それからの行動は早かった。
告訴状が届けられると警察に受理され、捜査が開始。阿澄文一郎が集めた証拠が功を成し、相手を崖っぷちへと追い詰める。
その後、相手が示談を持ち込み、影は秋から冬に渡る5ヶ月に渡る仕打ちを述べると、相手は終業式の日での暴言を持ち出したため、示談は決裂。
裁判へと話は進み、東海陽太と相手の弁護士の戦いが繰り広げられたが、暴行罪や誹謗中傷の大きさと影の容態が決め手となり、判決は影達の勝訴へと終わった。
影は加害者である元サッカー部や元ファンクラブの生徒の親、そして学校に慰謝料として60万円を請求。その金は、落書きされた教科書やノートを新しく買い直したり、更なる教材を購入したりするための資金へと消えていった。
学校は廃校とまではいかないものの、結果的に安全配慮義務の違反が発生してその対処に追われることとなる。その結果、授業の継続は困難となり、生徒全員は今年を自宅学習で過ごすこととなった。
また最恐は、後見人制度の手続きを行い...『東海陽』という後見人がつくと...3月から『太陽病院』への定期的なカウンセリングを受け始める。
そして裁判や後見人制度が片付き終わった4月1日に...奇しくも2年前に直哉に家を追い出された同じ日に...彼は...社会への荒波へと歩を進めることとなった。
お読みいただいてありがとうございます。
明日で2章のエピローグ的なものを次話に出し、明後日にはギャグパート(高校編)の3章を始めようと思います。
ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします!