5.大勉強時代でも削除を休ませたくない男...5幕目
まずはこれで真相終了。後半は少しガス抜きを...。
感想にお答えしていない点もあるかもしれませんが、ご了承下さい。
そして、まさか日間だけではなく、週間現実世界〔恋愛〕ランキングでも1位になってしまうなんて...。それも初回投稿してまだ1週間も経過していない時点で...。
はっきり言って...有り得ない。この小説、どの話もどの話も狂ってやがる!!!
全国大会の校門前。試合を明日に控え、本日は学校から会場への移動日となっている。
顧問の瀬川先生は点呼をした際、エースの影がいないことに気づくと、全員に影の現在の状態について問いただし始める。
当然、彼らもその保護者も『見てはいない』と答える。ただ一部の者はその行方を知っているのだが...。
「皆、探しにいくぞ。彼がいる可能性があるとしたら、学校の中か練習場か学生マンションか実家だ。麻日と本条は練習場を、八条は彼の携帯に連絡して本人確認を、それ以外の者達は学校中を探し回ってくれ。保護者の方々は先に送迎バスの方にご搭乗して下さい。俺は彼の実家に連絡を取ります。皆、頼んだぞ。」
顧問はここで人員配置のミスをした。本条、八条は昨日の部室で影に嫉妬を抱いていた3人の内の2人である。
顧問は知らないのだ。
...彼らの裏の顔を。
...麻日が昨日、顧問にそのことを教えなかったために。
...それゆえに、
顧問は生徒を信頼しすぎた。
『生徒は平等に扱う』という理念が、信頼度を『麻日=本条=四条=八条=影』という関係にし、『八条が影から聞いた報告=影の報告』という変な公式を形成させたのだ。
そして計画は始動した。
八条は携帯電話を掛けて何度も着信音を鳴らし、そしてメールを何度も打った。学校の捜索へと行った最後の1人、四条へと連絡をかけて。これにより、彼はその場の者達にあたかも本人確認をしているかのように見せつけたのだ。
顧問は実家へとかけた。あの父親の所へ。応答はする。しかしそこから聞こえたのは...。
「愚息ですか。ああ、遊びに行っていますよ。アレはそういう奴なので。」
「自分の息子をそんな風に言わないで下さい!あなたには親の自覚というものはないのですか!?」
「親の自覚...フフ...フハハ...ハハハハハハハ。アイツには才能がある。周りを不幸にする才能というものがな。現にお前たちは...愚息のせいで予定が狂っているんじゃないのかね?あの時だってそうだ。愚息のせいで俺は...私は...愛しい絵里を...うはははははHAHAHAHAHA!!!」
顧問は電話を切った。恐ろしい声を聴いたからだ。まるで受話器の先に2人が同じ場所にいたかのように...。
1人の筈なのに...まるで全く違う性格をのぞかせていたのだ。
先生は冷や汗を掻き、願った。『どうか影があの受話器の先にいないことを』、と。
そんな切迫した心境に、更にたたみかけるように...送迎バスの運転手から声が掛かる。
「すみません。そろそろ出発しないと、到着時刻が遅くなってしまいます。」
顧問はこれにより、その後の予定について考えてしまう。
ミーティングはまだ短くできる。しかし部員の就寝時間の確保や朝早くの出発は優先しなければならない。
親も同伴しているため、もし睡眠時間を短くもすれば苦情が出る。
送迎バスのキャンセルも...明日に試合があるために不可能。
出場の辞退なんてしたら...県自体から反発されて最悪、部の存続が出来なくなる。
影が親に連れて行ってもらうことも考えたが...あの父親では期待が持てない。母親は病院だ。
影一人で来てもらうにも...彼の財政状況では新幹線やバスのチケットなど購入することは難しい。奮発したとしても、万を超えるものを買える余裕は彼だけではなく中学生には到底、厳しい。
顧問は...後に引けない所にまで追い詰められていた。
そして麻日と本条は皆から見えない所まで行くと、携帯を渡してきた。麻日は懐から昨日渡された1枚の紙を取り出して。
「いいか。大根ではなくリアルのように演技をしろよ!?」
麻日はただ1つのことを考えていた。昨日の夜の間、自分はどうすればいいのか...。何をすればいいのか...。
顧問や影に言いつければ、写真がバラされ、これまで温かく交流してきた同性の友達が離れていく。それだけではなく、去り際に忍ばせたメモ用紙に書かれたデマまでSNS上に流される。
...『麻日はもう、経験がある。誰にでも靡く軽い女だ。』というデマを。
2人で愛の逃避行という逃げ道も彼らはつぶしにかかった。心優しい彼は純粋で素直な性格をしているのは1年間半でよく実感している。そんなデマでさえ、彼は信じてしまうだろう...。
だから麻日は考えてしまった。
『彼への嫉妬』にまみれた者達が潜むサッカー部に居続けたら、彼はいつか不幸な目に遭う。
今よりも年月を積み重ねた分、もっと酷い形で降りかかる。
ならばそうなる前に、彼をこのサッカー部から遠ざけるのはどうだろうか?
そうすれば...彼だけでも救うことが出来るのではないか?
そんな安直な考えが浮かんでしまう...。
だから麻日は20分後に連絡をかけた。
ピリリリ
と携帯が鳴る。勿論、すぐに応答がかかる...。
「もしも」
「影!?影なの!?今何処にいるの!?もうみんな行っちゃうわよ!?」
麻日は自分の出せる限りの迫真の演技を行った。心を鬼にして...無にして...彼を醜悪な世界から遠ざけるために...!
「いやいやいや。予定変更はないはずだよ...ね...。」
「...嘘。有り得ない!!メールを見なかったの!?集合場所をいつもの練習場から校門前に変更になったという内容の!!!」
そして通話はきられた。隣にいる本条はケタケタと笑っている。
「よし。後は電源を切っておけ。四条と八条がとうとう顧問が折れたというメールが来たから、校門前まで戻るぞ。ああ、そうだ。出発する前にこうメールを打っておくか。『マジメンゴ。ここまで繋げてくれた影の英雄に変わって麻日の夢を叶えに行くから。じゃ、バイビー。』ってな、ギャハハハハハハハハハ...。」
麻日は携帯を返され、本条とともに校門へと移動。ただ周りに合わせて送迎バスへと乗り込み、会場へと出発するのであった。
そして...ただの旅行と化した全国大会が終わって始めての部活動の日...。
「もうサッカー部から...。私の前から消えて...。」
「どうしてあの場所に来なかったの...。親に元気な姿を見せたいとがむしゃらになっていたあの姿は虚像だったの...。全国大会先で私はあなたに...あなたに...。」
麻日はサッカー部の部室の奥へと消えていった。さっきのセリフも指示されたものだった。
彼から真実を告げられた時は『全国大会前で活躍するという約束』を果たそうとしたことが分かるだけでも...彼女は心の中で少しばかりの安心感を覚えた。
「俺はお前に失望した。よりにもよって全国大会をボイコットする真似をして。サッカー部の名を底へと落としたかったのか!?」
しかしそれもつかの間、扉の向こうからは顧問や部員からの失望の声が聞こえてくる。
彼の声は聞こえない。恐る恐る扉の隙間から覗くと...彼の顔は...『虚無』となっていた。目に光がない...。今まで消さないようにしていた優しく弱い火も...消えていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
今まで味方だと信じていた人たちが彼の敵だった。
だけど、その敵に手を貸した自分もまた彼の敵だ。
裏切った。
そしてその果てに待っていたのは、彼を応援していた学生たちの手のひら返しだった...。
...。
「私達の1年半を返してよ!」
ある女生徒が影に暴言を吐いている。彼女は...私の友達だ。私の友達が、私の好きだった人に詰め寄っている。
「ち...。違う...。」
「しらばっくれないでよ。地区でも県でも応援してあげたのに...。この裏切者!!!」
「「「裏切者!裏切者!!裏切者!!!」」」
遠くから見ていたが、その光景はあまりに酷いものだった。友達を選んでしまったあの時の結果は...他の関係の破壊だった。
これを引き起こしたのは...私だ。私が彼に声をかけなければ...。サッカー部なんかに勧誘しなければ...。マネージャーと選手からではなく、ただの学生どうしから始めて関係を築いていたら...。
でももはや、手遅れだった。現実は残酷だ。時を戻すことは出来ない...。
私に...彼のいる場所に立つ資格はもう...なかった。
◇◇◇
「そんな馬鹿なことがあるか!」
サッカー部の顧問、瀬川は他の先生方に詰め寄られていた。まだ教師になって間もない彼の周りを先輩教師達は陣取った。
その代表として、彼のクラス担任、東海美里が珍しく怒声を上げた。いつもの優しい雰囲気を一変させて、握り拳をギリギリと震わせている。
「あなたは...あなたという人は...。どうして本人を信じてあげなかったのですか?あなたはいつも言ってましたよね?『生徒は平等に』って。何で平等に電話をかけてあげなかったんですか!?」
「全くだ。君は勘違いをしている。数学では、【『A=B=C』⇔『A=B』『A=C』】は成り立っています。しかし、生徒はそうではありません。個性があるのです。それが存在する限り、生徒は平等ではないのですよ。ああ、あの無駄のない途中式で華麗に答を導き出せる生徒なんて、彼しかしない!Amazing!!他の生徒と『=』で結ぶのが間違っているのです!!!」
「所詮、平等は存在しない。あるのは、『真に己を理解した者が成績を積み重ねる』事実だけ。彼はそれを体現している。」
「才能という言葉で生徒は格差を見出しておりますが、それは違うのです。才能とは、答を導き出すための手段・解法でしかなく、誰でも努力は必要不可欠なのです。それを真に理解した生徒こそが彼。あなたは...100万は下らないダイヤモンドを捨てたのです。」
他の先生方は次々に彼への評価を述べていく。それを聞きながら、彼は自分の過ちを振り返った。
...。
瀬川は移動日に、八条へ彼の安否を何度も確認させた。この時の八条は本当に影の所にかけて電話をし、八条はその度に『怪我で来れない』と報告をした。...スピーカーからの音漏れをヘッドフォンで妨害して。
しかしそれを彼は信じてしまう。『生徒は平等という理念』を意識しすぎて、移動時の八条による虚偽の報告を
『移動日の八条の虚偽の報告=移動日の影の報告』
と捉え、それで納得をしてしまった。
『顧問が影に直接連絡する』という選択肢を除外したのだ。
全国大会後で敗北をしてしまった直後、その理由をエースである影が怪我で来れなくなったという理由で通すと皆は納得した。それくらいに、彼の評判や実力は高かったのだ。
去年の県大会では、4点の奪取という絶大な活躍が当時の3年生のエースに気に入られ、
「コイツのポジションをフォワードにチェンジして次のエースにしろ。きっと面白いことになるぞ。」
と評していたくらいに。後は実際に彼が怪我を負ってしまったことが確認できれば、来年にチャンスがあったかもしれない。
しかし『怪我ではない』方が真実だとすれば話は別。何処も怪我をした様子のない彼を夏休みの間に目撃するようになり、『サッカー部は嘘つき』というレッテルが貼られていくようになる。このままでは廃部は免れない。
だから...廃部を防止するために、サッカー部に燻る問題を察知出来ていない彼は『影が怪我を理由にボイコットした』ということにしてしまった。
...。
「まずは保護者たちだ。学校全体に飛び火したこの状況では、我々だけでは人手不足だ。親に誤解を解くように伝えなければ!それに彼の様子も要観察だ!!彼は怪我や病気はすれど、ボイコットするなんてことは断じてない!!!」
「そうだ。どんな授業でも必ず遅れることなく出席し、ひたむきで真摯に取り組む姿勢を見せる彼があんなことをするはずがない。」
「教頭先生、瀬川の方はどういたしましょうか...。」
「まずはこの問題が解決するまで職務怠慢として謹慎処分だ。場合によっては、辞職も考えるように。」
「ま...待ってください。謹慎ならともかく辞職までは...。」
「...黙れ。人がコツコツ積み立てた城に土足で踏み入り、崩した者が軽い罪になるとは思うまい?お前がやったことはまさにそれだ。築城3年落城1日。立て直しの負担は大きいぞ?」
瀬川はその後、謹慎をくらい2学期にその姿を見せなかった。しかし、そこに思わぬ訪問者が来ることとなる。
お読みいただいてありがとうございます。次話は、サッカー部の落とし前をつけた後の最恐の動向です。逃げ出すことは...許されない...。
ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします!