4.大勉強時代でも削除を休ませたくない男...4幕目
麻日は学校の部室に向かった。明日の道具の漏れのチェック、費用管理、対戦相手のデータなどやる事をやっていく。出発の朝は7:00と早い。今日やらなければならないものばかりだが、今はそれも心地良い。
部室に到着し、その扉の前に移動すると話し声が聞こえた。その声はサッカー部の2年生。彼らは部室に集まって何かをしていた。
「...しくっていないよなぁ。」
「ああ...大丈夫だ。...フッハッハッハッ...。」
彼女はそれを聞き、不穏な気配を感じた。だから彼女は携帯で顧問の先生を呼ぼうと携帯電話を取り出し、ロックを解除した。しかし...。
「ハハハ。マネージャーさんのお戻りだぜ。ま、来るのは分かっていたけれど...。」
「は...放して...!」
その前にドアは開かれ、部室の中へと引きずられた。その際、手に持っていたロック解除済みの携帯は床に落とし、彼らはそれを拾った。
「これで計画通りだな。」
「...おっと動くなよ。そして携帯を返してほしければ、今から言う通りに従えよ。お前と影のラブラブツーショット写真をSNSにバラされたくなければな!」
彼らは麻日の携帯の画面をタップして写真のアプリを開いた。そこには腕と腕を組んでいる写真や手と手を繋いだ写真があり、彼女はそれらを大事に保存をしていた。
女の子にとって隠しておきたいことは1つや2つがある。その代表格が恋愛事情。周りにバレると主に応援、冷やかしという2種類の方向へと人間関係は変わっていく。
だが悲しいことに現状、応援をしてくれる人はほぼ一握りで、冷やかしをする人が大半を占めている。特に...相手の異性がファングループを作らせるくらいのビッグな相手であれば、尚更...。
そして彼らはしっかりとその写真を自分の携帯で撮り、しっかりと証拠も握られてしまう。
彼女は今、自分の手や首に錠をつけられ、喉元に切っ先を突きつけられている状態になっていた。
彼らの今の一面も、見慣れていればギリでマシなレベルではあった。しかし、目の前にいる人たちは...今までそんな素振りを一欠けらすら見せては来なかった。
無知ほど恐ろしいものはない。
知らない方が幸せな事もある。
それらの言葉の意味を、彼女は現在進行形で体感していた。
「あ...あ...。」
女性同士の友情は...薄い。その言葉には様々な要因があてはまるが、その中で示す割合も恋愛がほとんどだ。小学校の頃からの女友達が相手の異性のファンクラブに属している場合、友情は儚く消失することはあり得ないことではないのだ。
それを理解しているからこそ、『友達を失うのは嫌だ』という思考が働き、八方塞がりの中であっても、『バレないようにする』、『安全圏を探す』という名の脱出経路を探してしまうようになる。
その思考が駄目なことは分かる。好きな人がバレて居場所を失ったとしても、影と自分の2人で支え合えばいい。けれど、それが分かっていたとしても、踏み出す勇気というものを彼女は持てずにいた。
...『だけど』、『けれども』、『しても』という制止が、踏み出す勇気に歯止めをかけてしまうのだ。
「あーあ。俺達の苦労も知らないで暢気に...。気に入らないなぁ。」
「本当だよなぁ~。最初は俺達よりもサッカー慣れしていない奴だったのに、去年の県大会には俺達を差し置いてチームに抜擢とかなぁ~。」
「去年の全国大会の後からは更に俺達を突き放してよぉ~。アイツだけが...アイツだけが...。何でアイツだけがいつも美味しい所をかっさらっていくんだよなぁ~...ふざけるな、あの異分子が!!」
「結局、世の中は才能だ!俺達みたいな凡人を...世の中は不遇扱いするんだ!!努力だってしてんのによ!!!」
彼らはロッカーを、ドアを、テーブルを叩いていった。麻日は変わり果てた部員の姿に恐怖し、体をガタガタした。
...分かってしまったのだ。朗らかな部の裏に潜む醜悪な闇を。マネージャーや顧問ですら見抜くことのできなかったこの闇こそが...彼らを形成するものである、と。
怖いし、逃げ出したいと感じてしまう。しかし、彼女は『影が努力していない』ことだけは許せなかった。『むしろ皆より努力していること』を否定されることだけは許せなかった。
だから彼女は反撃しようとする。『せめて』という行動が、『だけど』、『けれども』という制止を奇跡的に振り切ったのだ。
「か...影は皆に...追いつきたいために...長くこの部に残りたくて...ここまで頑張ったんだ...よ...。その苦労を...知らないのに...才能のありなしだけで...彼を...恨まないで...下...さ...ぃ!!!」
麻日は言いたいことを言い切った。例え自分が滅んだとしても、友達に嫌われようとしても、恋が終わりになろうとしても、彼女は出来る限り最後まで...影の味方になろうとした。
だが現実は残酷である。恨みで満ちた彼らに...悲痛の叫びが...届く...
はずはなかった。
「ああ!?何か言ったか!?」
「努力ぅ!?それならコソコソすんなっていう話なんだよなぁ!?」
「気に入らないってんだよ。どうせアイツは明日で全国大会どころか、この部からも完全にご退場するんだ。他でもなく麻日、あんたの手でな!後、変な真似するんじゃないぞ!!チクった時点でバラすからな!!!」
彼らはそう言い捨てると、麻日に1枚の紙を渡して部室を出ていった。...彼女の携帯は返されないままで。
この日、サッカー部の部室から大きな泣き声が聞こえた。途中で顧問の先生が来て、声をかけたが彼女は涙を隠して一言も発することなく、機械的にマネージャーの仕事をして帰ったという。
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作者は極端です。ギャグを書く時は出来る限り笑わせ、シリアスを書くときは出来る限り深刻にします。
ソシテ...ジワ...シンソウ...シュウリョウ...。
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