3種の愛情を無駄として省くまで...1幕目
3幕目まで暗いプロローグが続きます...。2章1話目からざまぁします。
西山直哉の真相:9.大勉強時代でも削除を休ませたくない男...9幕目
https://ncode.syosetu.com/n3272ia/17/
「気持ち悪い...。」
ある女子から発せられたこの言葉を初めて耳にしたのは11歳の時だった。それも他ならぬ俺自身に向けられたものだった。
彼女の名前は北見川灯。俺が小学校に入ってからの友達。そう信じていた女子で、この出来事以降に俺を小学校で孤立させた決定要因でもある。
最初は席が隣同士である以外の接点がなかったが、日を重ねるごとにいろいろと話したり、3年生の時からはお互いの家に遊びにいくような仲にまでなった。
そんな俺の初恋の相手にまでなった彼女からの絶交宣言。いくら絶大な奇才(鬼才?)を秘めていても、経験未熟な小学生である限りはスルッと受け入れる心を持ち合わせてはいない。
「どうしてそんなことを...。」
だから俺は当たり前のように困惑し、発言の真意を聞いてしまう。いや、聞いてしまった。
「だって、訳が分かんないもん。おしゃべりしたり遊んだりしてきたけど、影くんって周りとはなんか違うし、気持ちというものも見えてこなくて...。」
ポツリポツリと吐露されていく心。それはまさしく、パンドラの箱で聞いてしまったことを後悔するのに1分もかからないものだった。心にヒビすら入りそうだった。
「だから影くん。いいえ、西山くん。ここまでにしよ?」
そして彼女とはそれきりとなってしまった。あの時の俺は果たしてどんな顔をしていただろうか?そして当然、こんなイジリやすい材料を持ってしまった者の末路は言うまでもない。
こんなふうにクラスメイトからハブられる原因は当時は分からなかった...。いや、理解したくなかったのだが、今にしてみれば当然の反応だったと認めざるを得ないと割り切ることが出来る。
それは、俺が制御不能で異質な感覚を持っていたこと。勉学の時はどこが要点なのかが分かってしまい、運動の時は少しの練習だけで正確な動きというものをマスターしてしまう...。言い換えれば、無駄なものを即座に省けてしまう。勘が良い、覚えがいい、と言い換えてもいい。
こんな芸当が出来た男子小学生なんて、異性にモテるに決まっている!それが一般的な流れだろうが、俺の場合はいかんせん特殊過ぎた。例外だった。その証拠が彼女のセリフだ。どうやら長く友達をやって俺の内面を知った彼女には、俺の姿がイケメンとかスーパーマンとかではなく、宇宙人的なナニカに見えてしまっていたんだろう...。
ああ...。こんなことになるなら、サプライズという形で心の内の言葉を綴った手紙なんか机に忍ばせずに、直接ガツンと言えばよかったが、もう手遅れだ...。
こうして、歴代最高ともいえる好成績の代償という形の後悔とともに、俺の小学校生活は幕を閉じた。ありきたりなBAD ENDだ。そう思えるかもしれない。
しかし俺の場合はここで終わりはしなかった。なんと俺は一人暮らしのできる中学校まで飛ばされることになったのだ。実行犯は当然、俺の親にある。
「影!お前は一体何をしでかしたんだ!?」
このセリフは父親の、西山直哉のものだ。北見川と友達関係だった時、俺達とは別に、親父は彼女の父親と業務提携を結びかけようとしていた。言い換えれば、協力関係を築こうとしていた。それくらいに野心の大きい性格を父親はしていた。
北見川灯の父は有名な会社の社長だった。なにかしらの繋がりがあれば、今よりは確実に大きくなることが約束されるくらいの...。そんな天からのチャンスを息子の手で潰された。一時的とはいえ、怒りたくはなるだろう。
「あの後、俺の立場は悪くなった。社長からは後ろ指を刺された。今まで担当していた仕事もほとんど持っていかれた...。当然、給料も減らされる。」
だが、ここまで怒る理由があるのか...。まだ小学校を卒業したての俺には理解の及ばない、遠い世界の話だった。
いや、実はここまで怒る理由は存在するのだ。それも愛が絡んだもので。
「ああ、光。これからお前の病気を治療する金はどうすればいいんだ...。親父もお袋ももういないのに...。」
そう。俺の母親、西山光だ。親父は病院で病と闘っている妻にかけがえのない愛情を持っていた。他の人が見れば口をそろえて『素晴らしい夫婦愛』と評するくらいだ。皮肉にも、それが俺に牙をむいているのだが...。
俺も何度かお見舞いにいったことがある。人妻と疑うレベルに若さが残っていた。現役の女子大生と言われてもおかしくないレベルの...。そんな母親はいつも俺に優しい言葉をかけてくれた。『料理も掃除も洗濯も出来ないことが悔しい。』という言葉で出迎え、『どんなことがあってもお母さんは影を信じるからね。』と別れの挨拶をする。今思えば、あの時の父親は早く来るようにせかしていた様子が垣間見えていて、気づきにくい感じに息子に嫉妬心を見せていたともしれない。
俺も、そして父親もそんな母親が好きで幸せな家庭を築き上げていた。10年も続いていた筈なのに、それがたったの2年で崩壊してしまったのだ。
いや、もともと土台が軟弱だったんだろう...。でなければ、こんなことにはならなかった筈だ...。
「なにが才能だ!お前のその才能は他人を不幸にするのに特化しているのか?コイツの道徳の評価を5にする学校も学校だ。もううんざりだ。」
一体俺は何をしたというのか?こんな奇怪な才能を与えた神を恨みさえしたが、父親は俺の話を聞くこともなく、携帯、キャッシュカード、通帳、銀行印、そして俺の私物全般をまとめて進学先まで俺ごと送りつけたのだった。言い換えれば、理不尽すぎる勘当ともいえよう。
俺、西山影は僅か12で、金を稼ぎ、一人暮らしをしながらの中学校生活を送ることとなった。既にBAD ENDのその先を見た俺だが、中学校に入学した時はまだ、この悲劇の波に第2波があることを知らなかった。
お読みいただいてありがとうございます。
ブクマやこの下の星でポイントをつけて応援していただけるととても嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします!