★格上マッチング★
「え~~っ、私は絶対、売りませんよ」
アッシ社長は自分のコレクションを買おうとする輩に、やんわりとNOの応えをした。
ある時はタクシー会社の社長さん。またある時は、”魔道具”収集家。
色んな世界で生まれた、不思議な力を持った魔法の道具を集める人こそ、アッシ社長である。
それを知る者、知らぬ者。
「そこをなんとか!2000万円で!」
「いや、お金で払えないものですから」
幻のタクシー会社の噂を聞き、どこから知ったか知らないが、アッシ社長が魔道具の収集家という一面を知ったお客さんの1人が、ある”魔道具”を買いたいと。わざわざ、会社までやってきたのだ。
だが、その人が欲しいのではなく、
「娘のプレゼントに買いたいのです!」
なんて凄いお父さんなんだろうか。娘は今年で23,4歳という。そんな子に買ってあげたいプレゼント。奇妙な力がある”魔道具”を買いたい。おそらく、アッシ社長はその噂を、確かな情報で掴んだと感じて
「あれには、そーいう用途は本来ないんですよ。”獅子聖杯”は、戦う男達のロマンが詰まった銀色の杯。観賞用でも価値高いんですから」
戦う男のロマンとか言いながら、アッシ社長はひ弱そうな体つき。男達が争い合うような”魔道具”らしいのだが、娘にプレゼントしたいというのは……。何を考えているんだ、この人は。そう思いかねないが、これには世界や時代の背景も色々とある。
「そこをなんとか!!貸してくれるだけでもいいんです!」
「嫌ですよ。一人の男として言いますが、それを女性が使うのはちょっとズルイですよ」
本来、屈強な男達がより強くなるための環境作りに生み出された”魔道具”なのだ。
◇ ◇
銀色の杯。
優勝カップは常に、光り輝く金色だ。それが大衆達を魅了するものだが、その下のランクに位置する銀色も好きという人もいよう。
その杯は数百年もの間。金色に負けないようにと、銀色好きな人達の手によって輝きを保たれた。
そして、その輝きからか、いつしか不思議な魔法や言い伝えが作られ。特別に、強い男達が殺し合うという野蛮な場所、”コロシアム”の優勝賞品として、銀色の杯。”獅子聖杯”は並んでいたのだ。
「うおおおぉぉっっ」
「りゃあああぁぁっ」
拳と拳のぶつかり合い。時には剣と剣のぶつかり合い。
優勝とは、この瞬間で誰よりも勝った者。その象徴が金色なのに、銀色を求める男達の理由は
ドゴオオォォッ
「うらああぁぁっ!!俺の勝ちだ!!」
いずれやってくる。勝ちに等しい、敗北のため。
これを求める男達の強さとは、自らが弱い人達を支配するような野蛮さではなく、最強と自負しながらも競り合える相手や、勝てぬと感じる強敵の圧力、緊張を、喜びとする故。強敵への願望がこいつを求めた。
今日勝てた相手が、明日再び挑んでくるやもしれない。あるいは、自分が出会っていない強敵がやってくるかもしれない。
”獅子聖杯”は、今の持ち主よりも強い相手を引き寄せてしまうという、奇妙な運命を起こす”魔道具”。その所有者は所持できても数年が限界とされている。
◇ ◇
「ですから、それを目的で買うとか言わないでください。しっかり、自分で探すとかしてください」
”獅子聖杯”は、アッシ社長が手に渡って、9年くらい経っている。元々、アッシ社長には魔道具が自然に放ってしまう力を封印するような手段があるため、ちょっと例外的である。まぁ、タクシー会社の社長で、ひ弱い体をしているアッシ社長が強さを求める男のロマンを目指すとは思えない。ある意味で、魔道具収集は、多くの世界の平和を護るためにやっているのかもしれない。
「4000万で!!」
「お金を釣り上げてもNOです。解放しちゃったら、数年で色んな事が起きますよ。女性の例はあまりないんです」
そうそう。
そんな強さを求める男達のロマンが、どうしても娘のために欲しい父親。この父親だってそんなロマンを追い求める柄でもないし、歳でもない。では、なぜか?
この代物を女性の手に渡すと、……
「良い相手と巡り合える”魔道具”があれば、娘を幸せにできる相手が現れます!!どーにも男達に縁がないものでして!!魔法にでもすがりたい!」
「女性が所持していた頃に、そーいう出来事はあった記録はありましたが……」
結婚相手もとい、婚活中に良い男性と巡り合える機会が大幅に増加するという、噂があるからだ。
自分よりも強い男性を求めてしまうらしく。
見た目、年収、性格の良さ、職業、学歴、……などなど。
自分の能力を1段階以上も上回る相手と出会いやすく、なおかつ交流も上手くいきやすいという効果持ち。それは結構欲しいなぁという運命力ある”魔道具”なのだが。
アッシ社長からは警告がある。
「娘さんの能力に比例しちゃうんで。娘さんがしっかりしてないと、良い男はやってきませんよ。結局、恋愛してるのと変わりません。(凄い同性と出会う確率も上がるし、競争が過激になる)」
良い道具を持っても、それを活かせる人でなければ、ただただ凄い人間と出会うだけで心が擦れていくので、メリットだけとは限らない。




