あたしは無敵
絶望とはこういう状況を指すのだろうとミナーヴァは思った。
辺りは腐臭にまみれていた。
地面に倒れていた死体がずらるらりと起き上がる。
その頭はザクロのように爆ぜているし、左腕はひじから先が千切れている。
生きているわけがないはずなのに、驚くくらい身軽に起き上がるではないか。
その名はグール。
生のくびきから解き放たれた、血肉を得た死霊たち。
赤い目を爛々と輝かせた死体が次々と起き上がり、ミナーヴァを取り囲む。
死が溢れている。死が起きている。
正直、コンディションは万全とは言い難い状況だった。
ところどころに出来た切り傷のせいで血が抜け落ちている。頭がぼうっとして思考がまとまらない。服が湿っているのは汗なのか血なのかもわからなかった。
右腕がしびれて言うことを聞かない。怪我した箇所が燃えるように熱い。
ここ数年風邪なんてひいた覚えはないけれど、今はまさに悪質な風邪にかかったような気分だった。
それでも――
奴らはミナーヴァを狙ってる。
それでも――
圧倒的な死に囲まれている。その場にいるだけで発狂してしまえそうな狂気の渦中にいる自覚もあった。
それでも――
体がひび割れていくのを感じる。ヒトの体ではなくなっていく。“魔法使い”の“呪い”が隠れているんだ。頭の中や体の中に。ちょうど皮膚の真下にいるのを感じてる。
それでも――
降参などしてたまるか。まだ12時の鐘は鳴っちゃいないんだ。
銃を抜け。撃鉄を起こせ。
空を突き抜けるロケットのように。
銃を抜け。撃鉄を起こせ。
目標は四方八方。新しい穴をこさえてやろうぜ。
敵を圧倒しろ!
巨大な地震のように。
敵を蹴散らせ!
大きな津波のように。
触れられるものなら触れてみろ!
この炎のような体を。
呪いがミナーヴァの体を蝕んでいく。
ちょうどいいからお前も手伝え。
一緒に悪い奴をやっつけるんだ。
こんにちは。地獄へようこそ。
――湧き上がり続けるめまいや吐き気はもはや我慢の限界に近づいている。
全身を強烈なだるさが覆い尽くしていて、立っていることすら奇跡に等しい。
一度でも座り込めばもう二度と立ち上がれないだろう。それほどまでに痛めつけられていた。
それでも――
絶望に囲まれていながら、ミナーヴァは笑っていた。
余裕のそれではない。
やせ我慢でもない。
「……悪いけど。あと七、八十年くらい友達と遊ぶ約束があるんだよね」
ミナーヴァの瞳に輝きが宿り、武器のグリップを握り直す。それは猛禽類が牙をむく仕草に似ていた。
――あなたがいてくれるなら、なんだって上手くいくの。
――あなたが望んでくれるなら、あたしは何にだってなれる!
今の彼女は無敵だった。
とうとうコメディですらなくなった(汗)
リハビリで書いてるのですが……なんか(書き方とか)変わってるなぁ自分;::