ミナーヴァ・キスの反省
二つのことを同時にしてはいけない。
効率が良くなるように思われがちだが、大きな落とし穴があるのをご存じだろうか?
まず、やることがおろそかになる。
例えば本を読みながらご飯を食べると、脳と体に同じタイミングで栄養を与えられるから素晴らしいアイデアだと勘違いしがちだ。
実際には食べ物はこぼすし、思ったほど読書に集中できない。
むしろ互いに足を引っ張り合って損をしてしまうのだ。
今回もそうだった。
ミナーヴァはギルドからの依頼で、とあるゴーレムの実験に参加していた。
ゴーレムとは技術者が開発した土人形のようなもので、自分の意志で動くことができる。
今回のゴーレムは犬の行動パターンを模倣しているもので、棒切れを投げれば喜んで取りに行くし、地面も掘るし、何より散歩が大好きだ。
要するにそのゴーレムと数日付き合って、テスト結果を報告すればいい。
その仕事は、ミナーヴァにとってとても都合のいいものだった。報酬は二の次。
ミナーヴァは元々動物が好きだけど、どういうわけか好かれたためしがない。目が合えばすぐに吠えられる。
だからこそ今回の仕事は天職と言えた。怖がらないし、吠えてこないし、糞の墓を作る必要もない。
朝露の雫が葉を伝う時間からゴーレムを散歩に連れて行き、森で遊ばせてる。まさに至福。
適当なところで野原を駆けまわらせて、放っておいても大丈夫そうだと確認した後で目をそらす。
“もう一つの用事”を始める時間だ。
カバンから取り出したのは一本の筒。
紙でくるまれたそれの中身は珪藻土、おがくず――それとニトログリセリン。
誰もがご存じ、ダイナマイトである。
ミナーヴァは冒険家であり、数々の遺跡の罠を潜り抜けている。
その経験で学んだのは――罠は解除するより爆破した方が早いという事実だった。
そこで自作したダイナマイトの実証実験を、誰もいない森で朝から試しているのであった。
岩陰に身をひそめて、誰もいないのを確かめてからダイナマイトの導火線に火を入れた。
ぱちぱちと火花を散らすそれを、投げる。
空気が揺さぶられ、地面が激しく打ち震える。実験は成功だ。
念のためもう一回トライする。
それが間違いだった。
耳を塞いで口を開け、爆発の瞬間を待っていたその時――それはやってきた。
ゴーレムだった。
粘土で出来た小さな犬は、岩陰を飛んでミナーヴァの前に腰を落ち着ける。
嬉しそうに何かをくわえているようだった。
今回のゴーレムは犬の行動パターンを模倣しているもので、ボールを投げれば喜んで取りに行くし、地面も掘るし、何より散歩と棒切れが大好きだ。
棒なら何だっていい。
水分が完全になくなった木の枝とか、立派な馬の太腿骨とか、珪藻土とおがくずを詰め込んだ紙の筒とか。
ゴーレムが咥えているそれはぱちぱちと火花を散らしていた。
合掌。